「っこの馬鹿が!! 泣きながら何を言っている!? ブリタニアに戻るだと!? 馬鹿も休み休み言え! 何かあったらすぐパニックを起こす今のようなお前の状態でナナリーを任せられるか! この馬鹿が! そんなものナナリーだって迷惑に決まっている! ナナリーに心配をかけるだけだ!! いつもいつも! 勝手に決めて、勝手にどこかに行って! 俺に相談するって言う選択肢はないのか!? それとも何か!? 俺は相談することもできないほど頼りないのか!!??」
スザクはあっけにとられてルルーシュを見つめた。一気に捲し上げたからか苦しそうに呼吸を繰り返している。
「えぇーっと、ルルーシュ? そんなに馬鹿馬鹿言わなくても…」
ちょっとすねた気持ちでそうつぶやくとルルーシュはぎっと睨みつけた。
「お前を馬鹿だといわずに誰を馬鹿だといえばいいんだ!?」
「いや…確かに馬鹿かもしれないけど…」
「馬鹿かもしれない!? このわからず屋が!! お前は正真正銘の馬鹿だ!」
人の体温は涙に効くんですよ…
誰よりも愛おしい、大切な妹
ルルーシュは涙の痕をぬぐうようにスザクの頬に手を当てた。
「ナナリーは俺にとって大切な、何より大切な妹で…お前は俺たちを引き離した。俺たちは何より恐れていた。母を殺し、ナナリーに傷を負わせたあの場所へ戻ることを何より恐れていた。でも、お前はナナリーをそこに戻した。簡単に許せることじゃないし憎いとも思う。でも俺はお前のことを何も知らなかった。それを知った。お前も、俺もあの時とは違う。
ここにいろ、俺の元に、俺と一緒に、ここにいろ。」
「ナナリーは?」
「諦めるなんてことは絶対にできない。でも、今は、ナナリーは総督で守ってくれる人間も、信用はできないがジノやアーニャもいるんだろう? ならナナリーはまだ大丈夫だろう。猶予はある。その間に取り戻せばいい。俺とお前がそろってできなかったことなんてないだろう?」
ありったけの思いをこめてルルーシュはスザクに告げた。
「ここで一緒に戦ってくれ。二人で作るんだ。ナナリーが望み、ユフィが願った優しい世界を…」
沈黙が痛い。スザクがたとえ以前の記憶を取り戻したとしても黒の騎士団を憎んでいた事実は消せない。拒絶が怖いのはスザクだけではない…俺も、俺だって…
「……君はユフィを殺した。僕はユフィを殺した君を許せない、この気持ちも嘘なのかな? ユフィが死んで悲しいと思ったこと、ユフィを殺されて憎いと思うことは偽者なのかな?」
「偽者なんかじゃないさ。たとえブリタニアに従うというギアスにかかっていてもお前の過ごしたこの8年間は全部本物だ。」
お前はユフィを選んだことは本物だと心の中で付け加える。それを口に出してスザクに告げる勇気はまだルルーシュにはない。
「俺がユーフェミアを殺した。殺したかったわけでも憎かったわけでもない。でも俺が殺した。この事実は何があっても変わらない…」
ユフィのことを告げるルルーシュの表情は苦しそうで…あぁ俺はなんて馬鹿なんだろう…
ルルーシュが平気に妹を殺せるわけがない。あの妹大好きなルルーシュが…
ユフィが言っていたのに、仲が良かったってちゃんと聞いていたのに…
どうして忘れてしまったんだろう、ルルーシュの優しさを…
もしかしたら、本当は仮面の下で涙を流していたのかもしれない…
「でも謝るつもりはない。謝ってもユフィは帰ってこない。なら謝るべきではない。謝るべき相手はお前じゃなくユフィだから。黒の騎士団に来い。スザク、俺はお前と戦いたいんだ。」
「ルルーシュ…でも僕は黒の騎士団のやり方には賛同できない。それは今も変わらない。君のやり方は多くの人を巻き込んでしまう。」
ナリタで、そのほかの場所でいったいどれだけの無関係な人々が命を落としただろうか…
「俺はよわい。俺はあまりにも弱い。KMF戦のことだけではない、黒の騎士団は所詮はテロリストで正規のブリタニア軍と張り合うには知略をめぐらすことしかできない…でもお前は違うだろう?お前は強い。一騎で盤上をひっくり返すだけの力を持っている。ならばお前に限って戦いはイコール死ではない。お前にはそれができる。殺さずに戦うことができる。お前がいれば黒の騎士団は変わることができる。」
「戦わずにすむ方法はないの?」
それでも一人も殺さずになんてことは所詮、夢物語だから
「ブリタニアは、あの国は変わらなくてはならない。でもお前が言うように内側から変えていく…それにはいったい何年の月日がかかる? その間にもブリタニアは侵略を続け人々は迫害を受ける。俺たちが生きている間に成し得なかったら? あとを誰かに継がせるのか? 夢を託して? そんな不確かなもの俺は認めない! 俺は、俺が世界を変える。その報いは後でちゃんと受けるさ。ブリタニアは間違っている。スザク、一緒に行こう…」