血に塗れた記憶の向こうで

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08



 皇暦2010年8月 日本

「戦争が始まった。ブリタニアめ、とうとう武力行使にでよった。」
「早急に手を打たねば」
「われらはブリタニアに屈するわけにはいかんのだ。」
「そうだ。われらはこの国をブリタニアどもに渡すわけには行かぬ。」
「うむ。それにしてもブリタニアめ、あの皇子、皇女らをどうするつもりか。」
「どうのこうもこうなればあの子らには何の価値もない。役になど立たぬ。」
「ゲンブよ、あれらをどうするつもりじゃ?」
「どうするも、これ以上生かしておいても意味はあるまい。」
「では、」

「あぁ。あれらは早急に始末をつけよう。」

 偶然だった。いつもは通らない来客用の廊下にスザクはいた。この日に限って書斎ではなく応接間で話していた父はスザクがふすま一枚隔てた場所にいることに気づいてはいない。

 だから知ってしまった、気づいてしまった。
 父さんたちが考えていること、ルルーシュとナナリーの身に迫る危険を…

 そんなこと、許せるわけがない。

 ルルーシュとナナリーはスザクにとってブリタニアの皇子皇女である前に初めてできた大切な友達だ。

 許せるわけがない

 俺はその日の夜に父さんを説得するつもりで、二人を殺さないでくれと土下座でも何でもするつもりで父さんの私室の前に立った。

「父さん、スザクです。話があります。」

 返事を待たずにふすまを開ける。いつも返事を待ってから入るように言われていたのに頭の中は飽和状態でそんなことに気づくこともできない。後悔しても遅かった。
 
 ふすまを開けた途端、生暖かい何かを顔に浴びた。
 
 見えるのは見知らぬ隻眼の男と胸から剣先をはやした父の姿、そして 
 あかい、

 隻眼の男がこちらを一瞥し剣から血脂を飛ばした。父の身体は崩れ落ち、和室の畳が辛苦に染まる。

 スザクはその光景を  ただ  見ていた。

 何も考えられなかった。何が起きているのか、自分が何を見ているのか、これは現実なのか、何も理解できていなかった。
 ただそこにあるのは
 圧倒的な

 恐怖

「枢木の息子か。」
 
 男が一歩踏み出す。身体が震えた。無意識に足が後ろへ後ずさる。
 叫びたいのに   声が   でない
「あっぁぅ うぁっ」
 口から出てくるのは意味を成さないうめき声

 分かるのはこの男が敵だということ

 そう思った瞬間体が動いた。明らかに自分より大きく強い男にスザクは身体ごと突っ込んだ。意表をついたのかわずかに男の身体がよろめいたがすぐに体勢を持ち直し腕の一振りでスザクを吹き飛ばした。

 圧倒的な体力差   
 勝てるはずのないことはスザクにも分かっていた。
 こいつは父を殺した男
 許せなくて、諦められなくて、負けを認められなくて男をにらみつける。

 その瞬間男の纏う空気が変わった。

 


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