血に塗れた記憶の向こうで

BACK NEXT 


06




ここ2日はそんなことの繰り返しだった。落ち着いて会話もできる時もあれば、突然パニックに陥ってしまう。それ以外はただぼぉっと何もない宙を見ていた。
 
 ルルーシュはただひたすらスザクのそばに寄り添いパニックになればスザクを抱きしめ続けた。そうすれば自然とパニックは収る。それだけが今唯一わかっていることだった。
 
 その一方で、ルルーシュは政庁の情報を探っていた。表立ってナイトオブセブンに関わるニュースも発表もなされていなかったが、政庁では混乱が広がっているようだ。

 スザクがどんなことを言ってここに来たのかわからない以上下手に動けない。

 このままではいけないことはわかっていた。だから、

 今日は朝からパニックも収まっていてスザクは窓の外をぼんやりと眺めていた。ただ意識ははっきりしているらしく、俺のとりとめのない話を聞きながらかすかにうなずいたり、俺が部屋を出ようとするとすぐに気づいて泣きそうな顔をする。

 今も立ち上がったルルーシュにスザクはぴくりと反応し、ぱっと俺の動きを見る。出て行くのかどうかが気になるらしい。それに安心するように微笑みそばによった。

「ルルーシュ」

 近づいてそっと頭をなでると子供のように微笑んでよろこんだ。

「スザク…なぁスザク、何があったのか話してはくれないのか?」

 手が震えた。たったこれだけの事を聞くことがとても怖かった。
 スザクは軽くうつむいてしまって顔を上げない。
 
 また、パニックになったら?

「いやっ話したくなかったらいいんだ! 全然! 俺は・・・」
「ルルーシュ」

 俺の言葉をさえぎるようにスザクは口を開いた。

「ルルーシュ。ごめんね。何も言わなくて。何も聞かないでいてくれて、ほっといてくれてありがとう。話すよ、全部話す。」

 思ったよりもしっかりした言葉に俺は胸をなでおろした。

 でもここからだ。
 スザクが直接何かを聞いたのは俺がゼロなのか、それだけだ…
 俺もきっと話すことになる、何かを、全てを、今まで話してこなかったことを、

「ねぇルルーシュ…この拘束ほどいてほしいな…信じてもらえないかもしれない。けど、絶対逃げたり、君を傷つけたりはしないから…この拘束を解いて?」

 スザク…

 スザクのためを思えば拘束をはずしたほうがいいのだろう、身体を拘束するということは精神的にも影響のあることだ。しかし…

「だめ、だよね…ごめん 無理言った」

 くっ! こんな顔させるつもりは!!

「スザク後ろ向け!ほら!」そう思った瞬間からだが勝手に動いていた。
「えっと、うん。いいの?」スザクも本当に解いてくれると思ってなかったのか戸惑っている。
「いいから、ほら! ・・・悪かったな、拘束して」

 拘束を解くとそこはパニックを起こした時に擦れたのか赤くなっていた。
 痛い…そう思いそこに手を触れようとした時、力強い、懐かしい感じが…

 これは

 スザクの 腕の 感触…

「やっと抱きしめられた…ずっとこうしたかった。抱きしめてくれるのも嬉しいけど、やっぱり君を抱きしめたいな」

 そうやってくすくすと笑う姿は混乱状態のときのスザクとは比べ物にならないくらい穏やかで

「馬鹿が…」

 俺は夢を見てしまう。ずっとこのままであればいいと…このままふたり一緒に、

 そんなこと起こるはずもない 夢物語

「ルルーシュ…

 そんな思考を断ち切るかのようにスザクは言葉を重ねた。

 ねぇ、ルルーシュ、もし、もし、君が今まで信じてきたものが、信じてきたことが偽者だったとしたら・・・どうする?」

「それは…どういうことだ? 今まで信じてきたものが嘘だったら?」
 それは関係のある話なのか?
「いったいどういう意…」

「嘘だったんだ。僕が信じてきたもの。全部嘘だった。違う嘘じゃない! 僕は本当に僕は、僕は!」

 


BACK NEXT 

ブラウザを閉じてお戻りください。