君に出会えた奇跡

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冷たい手のひら。気づくべきときはいくつもあった。
あぁ、でも、たとえ気づけたとしても、既に遅かったんだな。あの日、俺たちが別れたあの日、既に運命は決まっていたのかもしれない。

「な、何言ってんだ?お、お前を殺せるわけないだろう!!??」
「それなら、はやく…っ、にげろ!」
フランシスが何かに耐えるように震えだした。
「?にげる?」
「オレじゃない誰かがお前を狙ってる…」
何を言われてるのか、何を言ってるのか分からなかった。
「チクショウ!お前を売ったりなんかできるかよっ…!お前だって家族と同じぐらい大切なんだ!」
「理由を言えよ!そんなお前を放っておけるわけないだろ!?」
崩れ落ちそうになる体を支えるために手を伸ばすとその手はフランシスによって振り払われた。

「何やってんだ!ここからは一人で行くんだ!!」
―怖いんだ、アーサー…行かないでくれ…
「お前に逢えたおかげでいつも胸があったかくて幸せだった…」
―いやだよ。お前が居ないと寂しいんだ…
「オレがお前を傷つける前に行くんだ!!」
―オレの家族を見殺しにしないでくれ!!

「まさかおまえ!軍に何かされたのか!?」
俺の声はもうお前には届かない。あぁ、お前は何を考えてた?吐き出す言葉の裏で何を思ってた?

「大好きだ、さようなら…」

『逃がさないよ、アーサー。僕と一緒に帰るんだ』

フランシスの手からザイフォンが放たれる。違う!あれはフランシスじゃない!!
フランシスの体の中に軍からの追っ手が潜んでた!?そんなバカな!!いったいどうやって?

フランシス!オレはどうすればおいいんだ!!??

このときのオレは、本当にどうしようもなく子供でした。
たった一人の友を救うことも、何も出来ない、おろかな子供でした。

「鬼ごっこは終わりだよ。アーサー・カークランド。軍から逃げられると思ってるの?」
フランシスの声なのに、フランシスじゃない。地面に呆然と立っているしか出来ないオレの前でフランシスの背中から片翼の翼が現れる。
骨でできた翼。悪魔に魅入られた使い魔の証。
「お前、使い魔なのか?」
その言葉に男はあざけるように笑った。
「使い魔?僕はそんなに優しくないよ。」
「お前が誰だか知らないが、どうして俺の友達にそんなことするんだ!?直接俺だけを狙えば良いだろう!?」
俺の声がむなしく響く。
「それともこれは取り引きなのか?俺が軍に戻ればフランシスを返してくれるのか!?」
「取り引き、だって?君にそんな権利はないよ。」
男の姿が消える。
「本当は殺してやりたいところだけど」
次の瞬間背後に現れた男に取り押さえられた。
「がはっ!!」
嘘だろう!?動きが全く見えなかった…!!
「僕の手を煩わせないでくれるかな?」
どうしよう、どうしよう!どうしたらいい!?
なんとかしてフランシスを助けなきゃ、…そうだ!
あの翼を壊せば!!
俺はザイフォンを翼にたたきつける。
でも、
すり抜けた!?
「無駄だ。」
再び背後から攻撃をくらい俺は床に叩きつけられる。
無様に床に転がった俺の首を男は無造作につかみ持ち上げた。
足が地面を離れる。
「ぐ…っ」
「僕は使い魔じゃないよ。この翼を斬ればこの体は死んじゃうよ?」
「…っフランシスを返せ!!」
それでも諦めない俺に男は冷えた目で見返してきた。
「…今の君に何が出来るの?君のそれが正義だって言うんなら力なき正義なんてただの無能だよ。」
「愚かだね。フランシスの魂は二度と戻らない。君を二度もかばって軍を裏切った罰だ。」

そんな言葉、信じられなかった。信じるわけにはいかなかった。

フランシスは命を懸けて俺を守ったんだ!諦めてたまるか!!死ぬときは一緒だって誓ったんだ!!

結果的に何が起こったかわからなかった。

目の前に広がる漆黒のローブ。

だれ?

「傲慢なところは相変わらずだね。プロイセン。」
ローブの向こうから男の声が聞こえる。
プロイセン。その名前、どこかで…
アーサーは急速につい最近の記憶を掘り返す。シスターエリザベータに教えてもらったのだ。協会を守る7人の守護神像。
まさか、あのセブンゴーストの一人!?

「てめぇ、フランシスの身体をもてあそんだのか…!!」
プロイセンが怒声を上げる。
「ま、待ってくれ、フランシスはきっとまだ生きてる!!」
俺は目の前に広がるプロイセンのマントにすがりついた。
―誰でもいい、もしお前が神様なら

遠くから流れ込むように男の声が聞こえる。
「アーサー・カークランド。フランシスの魂は永遠に救われずに絶望の淵を彷徨うことになる。」

―どうか、神様なら…

「声を上げずに泣いている。苦しくて、悲しくて。言ったでしょう?だから君は「手ぬるい」んだって。」
その言葉に情景が浮かぶ。俺の運命を変えた日。卒業試験の日、あの日俺に同じ言葉を言ったのは誰だった!?

男、イヴァンがプロイセンが構えていた鎌を無造作につかみフランシスの身体におろした。

「僕が憎ければ我が帝国軍に復讐しにおいで?」

その言葉と共にフランシスの身体から生えていた片翼の翼がパキパキ、と音を立てて砕けた。
それと同時にふっとフランシスは瞳を閉じ再びゆっくりと開くと、俺に目を合わせてにっこりと綺麗な笑顔で微笑んだ。
翼とともにフランシスの身体が砂のように溶け輪郭を失う。
フランシス…
「行くな!!フランシス!!」
俺は必死で走った。
俺たちは誓ったんだ!死ぬときは一緒だって―
走る勢いのままフランシスの腕に飛び込む。

行かないで、行かないで!置いていかないで!!一人にしないで!!!

あふれ出した涙で視界が霞む。フランシスが消えてゆく。

怖くて、どうしようもなく怖くてフランシスを抱きしめる腕に力をこめた、そのとき、

ふっ、と抱きしめていたはずの腕が宙をかいた。

「ぁ、…」

消えた感触、フランシスのぬくもり。
腕の中をかつてフランシスだったものがすり抜けていく。

「ぁ、あ、ああ、あ゛ぁあああああああああ!!」

俺は消えてしまったフランシスを追いかけるように意識を失った。

神様、フランシスが、      しにました


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