君に出会えた奇跡

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初めてアイツに逢った時のことをを覚えている。
初めて宿舎に入ったときだ。
「オレ、フランシス。良かった〜ルームメイトがイカツイ奴じゃなくて!」
どこかふざけたような奴だった。無感動に差し出された手を眺めていると、フランシスは困ったように「え〜と…」とオレと自分の手を交互に見やる。
すると、何を勘違いしやがったんだ!
「マイネームイズフランシス!ナイスチュミ―チュ〜」
そういって抱きついてきやがった!!オレは驚いて思わず殴り飛ばしていた。
「イキナリ抱きつくな!!」
「海外の挨拶だよ!ハグだよ!!知らないの!?」
「しらねーよ」

最初の印象は『変な奴』だった。
学校って場所は異質な者を疎ましがる。オレは噂と中小の的だった。どこに言っても誰かが何かを言っている。
でもフランシスは違ってた。
「フランシス、オレといるとお前もハブにされるぞ?」
「バーカ、気にしない、気にしない!」

オレの噂を全く気にしない、フランシスはオレの唯一の友達だった。
いつか、オレ目当てでケンカを吹っかけてきたくせに一緒にいたフランシスまで中傷した。
それにどうしようもなくて気がついたら俺はそいつを殴り飛ばしていた。
「フランシスに謝れ!!」
そう言って殴り続ける俺をフランシスは後ろから羽交い絞めにして止めた。
「アーサー止せ!!」
なんで止めるんだ?こいつはお前の家族にまでひどいことを言ったんだぞ!?憤りは収まらず再びフランシスの腕を抜け出そうとしたオレをフランシスは再度抱え込んだ。
「こんな奴のためにお前の手を汚す必要はないよ。」
そう言って、頭をそっと撫でてくれた。
「ありがとう」

いつでもフランシスの言葉は身に染みる。不思議だ…その度に胸が熱くなる。
『必ず前を向け、光のある道を進め!』
お前はそう言ってくれた。
けど、 無理だよ。
だって、
フランシス…、お前がオレの光だったんだ。

コンコン
ノックの音が聞こえる。だがオレは反応する気にもなれなかった。
すると、ばん!と大きな音を立ててギルベルトが扉を蹴破ってきた。

「な、なんだよ!勝手に入って来てんじゃねーよ!」
オレは慌てて涙をぬぐった。そうやって背後を見せてる間にギルベルトはどかりとベッドに腰掛ける。
「神父さまの特別相談室、ってな。」
「………教会なんか、何の救いにもならねぇよ…神様なんて信じねぇ!フランシスを助けてくれなかったじゃねぇか!!!」
ぬぐったはずの涙が溢れ出す。
「フランシスを…ちがう、本当は…」
ぎゅっとシーツを握る手に力をこめた。
「俺のせいでフランシスが、親友の誓いなんて交わしたから、だからフランシスは!!」
それが真実だった。どう考えてもおれが、オレがフランシスを殺した!
「うっうぐ、うぅ…」
涙が溢れる。もうどうしようもなかった。
「お前が悪いんじゃねぇーよ。」
ギルベルトがぎこちなくぽん、と頭に手をのせた。
「…人は生まれてくる時、天界の長と約束するんだ。三つの夢を。それをすべて叶えると、また長の御許に呼ばれる。」
それはこの国に生まれたものなら誰でも知っている御伽噺。
「フランシスの三つ目の夢は、きっと、『大切な奴を命がけで守りたい』」
「だからアイツの願いは全部叶って、最後の最後は穏やかに天へ召されていった。」
「フランシスはお前を守れて幸せだったはずだ。」

「…そんなの残された人間のキレイ事だ。オレを慰めようとしてるだけなんだろ。」
「まぁその通りかもな。でもアイツはもう…お前を側で見守ってるんだぜ?」

その言葉に顔を上げた。久しぶりに見たギルベルトの顔は何かをたくらんでるようで…

「おい!置いてくなよな!!」
開け放れた扉から声が聞こえた。少し高い少年の声だ。
でも、この、声?

身体が固まる。胸がドキドキする。
聞いたことがある気がするんだ。
だって、知ってる。この声よりは少し低いけど、ずっと一緒にいた。だから、分かる。
「ったく、一緒に連れてけって言っただろう?」
「悪いな、こいつ頭固そうだったから。」
闖入者とギルベルトが話してる。
それを背中で聞きながら俺は顔を上げれずにいた。
だって、これが夢だったりしたら、悲しすぎる…

ぐっとシーツを掴む手に力をこめた。すると、うつむく視界に誰かの足が入る。
「アーサー?」

耳を震わせる音、声。
「アーサー。ね、聞いてる?」

聞き覚えのありすぎる、声。夢を見てるのかもしれない。都合のいい夢。

怖くて、夢だった瞬間の絶望が怖くて、オレはなかなか顔を上げられなかった。
闖入者とギルベルトがそろってため息を吐いたのが聞こえる。

だって、怖いんだ!仕方ないだろう!?
半ばやけっぱちになってそう心の中で叫ぶと、ストンと目の前にいた人物がしゃがんだ。

視界に入るのは朝日に輝く金糸と深い深い海の色。
知っているはずの彼より幾分か幼いが、それはまさしく彼で…

「ふらんしす?」すぐにでも消えてしまいそうなかぼそい声で名をつむいだ。
「本当にふらんしす?」ほとんど泣きそうになりながらもう一度つぶやくと、目の前の少年はにっこり微笑んだ。
それは最後に見た彼の笑顔のような儚い笑顔ではない、生きてる人間の生命力に溢れる笑顔。

「ただいま、坊ちゃん。」

「ふ、ふらん!!」

こらえきれなくなった涙が頬を伝う。力をこめて抱きついても、フランシスは崩れたりしなかった。
あたたかい、血の通った身体。

「一度この世を離れても、広い世界でたった一人、お前を見つけて帰ってきたんだぜ。」
頭上でギルベルトの声が聞こえた。

オレはフランシスに聞かなければならないことがたくさんあった。

でも、今度こそ聞ける。恐れず、聞くことが出来る。だって、俺たち二人にはまだたくさんの時間があるのだから。


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