君に出会えた奇跡

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オレはその晩夢を見た。
いつも見る夢。知らない男の人。赤く濡れた大地。これは…

オレは朝から先生に報告書を提出するために廊下を急いでいた。
運命の歯車が回る。

聞こえてきた声、オレの話?

戦争?候補生?何の話だ?

扉から見えるのは先生と昨日の軍幹部の男イヴァンとその側近たち。

頭が割れそうだ。
「っ…」
蘇る夢の光景。
赤く濡れた大地。襲いくる敵。知らない男、あれは、父さん、だ。

オレは割れそうな痛みに頭を抱えてうずくまった。
あの時父さんの側に立ってたのは…

ズキン、ズキン

イヴァン、

ズキン、ズキン

あの男は、敵。

頭が割れるっ!
「う、あ、あぁ…」

それからはあっという間だった。
オレは自分自身を制御できないまま何かに突き動かされるようにザイフォンを展開。
気がついたらその側近に取り押さえられ牢に入れられた。

身動きされると両手足に繋がれた鎖がカシャンと音を立てる。
こんな状況だというのに頭は妙にさえていた。

思い出した…いつも夢に出てくるあの人は父さん。オレの父さん。
10年前の戦争で滅ぼされた隣国の王。

どうしてこんなことになっているのだろうか?オレはいったいなんなんだ?
分からない。分からない…

ただ一つ分かることそれは『もうここにはいられない』それだけだ。
フランシス。たった一人の友達。ごめん、オレはもうここにはいられない。

ガチャ。誰かが扉を開けて入ってくる。
もうここを出れば取り返しはつかない。頭をよぎるのは黄金の髪と青の瞳。

ごめん。フランシス。

「はぁっ!!」
手を振り上げて入ってきた男に拳を叩きいれる。まずは一人、そして二人、次々と男たちを沈める。
最後の男を沈めたとき、

「アーサー!お前…!」
肩が震える。恐る恐る振り返るとそこには、
フランシス。
「ごめん…オレもうここにはいられない、今までありが…」
最後まで言い終わらないうちに急に腕を引かれた。
慌ててオレは前を見る。見えるのは風になびく金の髪、後姿。
「よせっ!お前を巻き込みたくない!!」
そう叫ぶとフランシスは振り返った。それでもその足は止まらない。
「殺されてーのか、バカ野郎!!あのイヴァンに楯突いて生きてる奴はいねーんだ!!」

「今は生きて逃げ延びろ!!他には何も考えるな!!」

涙が溢れる。

もし本当に神様がいるのなら、フランシスを守って…

「この先にかっぱらったホークザイルがある!!急げ!!」
後ろから追っ手がかかっている声が聞こえる。

このままじゃフランシスまで!!

「動くな!!」
オレはとっさに持っていた剣を後ろからフランシスの首に突きつけた。
「動けばこの人質を殺す!!」
「…アーサー。」
「下がれ!!」
そう叫ぶと追っていた奴らがひるんだように一歩下がった。
耳元にフランシスだけに伝わるように囁く。
「お前まで罪人にする訳にはいかない。フランシス、ここからはオレ一人で行かなきゃ…」
頬に涙が伝う。
「俺たちはずっと最高のダチだよな。」
もう二度と会えないかもしれない。たった一人のオレの友達。

「当たり前だ。」行け!アーサー!!
その言葉に押されるようにして俺はフランシスを衛兵に押し出しホークザイルに飛び乗った。

神様、ただオレが願ったのは友の無事、それだけでした。


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