君に贈る唄

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 イギリスの闇雲に振り回した手がフランスの頬にぶつかった。
「っ、ってー」
 思わず顔を顰めて叩かれた方に手を添える。切れてはいないようだが地味に痛い。
「あっ…」
 赤くなった頬を見てイギリスはひるんだ。ったく、そうやって後悔するぐらいなら最初から大人しくしてろっつの。フランスはその一瞬の隙をついてイギリスの腕を取った。
「は、放せ!」
「いいから大人しくしてろ。あ!殴んなよ!」
 腕を取られたことでまた暴れだそうとしたイギリスに赤くなった自分の頬を強調させて言えば、さすがに悪いと思ってくれているのだろう。イギリスは暴れるのはやめたがぎっと睨んできた。
 でも、
 怖くないよ?
 そんなにぼろぼろと涙をこぼして、全然怖くない。
「はい、できた。」
 最後に頬のかすり傷に絆創膏をピッと貼って、仕上げにその上からちゅっと口付けを落とす。
 フランスが自分の手当てのできばえに満足して微笑むと、その笑顔を見た瞬間イギリスの中のトゲトゲした何かがするりと抜け落ちた気がした。後は、ただ悲しくて、悲しくて。
 ぼろぼろと涙が頬を滑り落ちる。
「ふ、う゛ぅ〜…」
 もう嗚咽をこらえることなんて出来なかった。
 本格的に泣くことに専念し始めたイギリスを前にフランスは困った。イギリスの涙は苦手なのだ。イギリスの泣き方は小さい頃からずっと変わってなくて、思い出してしまう。俺がイギリスを裏切った日。武器を携えイギリスを侵略したあの日、泣き出したイングランドを。泣かないで。フランスは救急箱をテーブルに置き、イギリスの隣に座った。そしてそっと慰めてあげたくて手を伸ばす。
「はなせ!さわんなばかぁ!お前には関係ないだろうう!」
「イギリス、」
「お前には関係ねぇ!アメリカは、アメリカ、アメリカ!」
「イギ、」
「なんで?なんでだよ。愛してたのに。大好きなのに、なんでいなくなっちゃうんだよ。」
「ねぇ、」
「アメリカがいなくなって俺、また一人ぼっちになったじゃねぇか!どうせ、どうせ俺なんて!アメリカ、アメリカ、アメリカぁ…」
 イギリスの言葉は次第に支離滅裂になりつつある。きっとアメリカを思うイギリスの瞳に俺は映っていないのだろう。
 坊ちゃん、こっちを見てよ。俺を見て?一人ぼっちだなんてそんなこと言わないで。
 俺はいつだって隣にいるのに…
「坊ちゃん…」
「触んな!さわんなよぉ!お前にはわかんねぇんだよ!お前にはわかんねぇ!俺の気持ちなんて、絶対、わかん」
「わかるよ。」
 フランスがイギリスを抱きしめようと手を伸ばしたがイギリスに振り払われた。フランスに近寄ってほしくないのだろう。フランスには当たらないようにそれでも近寄る隙のないように腕を振り回しながら叫ぶイギリスの、その言葉を聴いてフランスは思わずさえぎった。
「わかるよ。わかる。」
 目を閉じれば思い出す。俺に背を向けた小さな後姿。次に会ったときはお互いに剣を握り締めていた。
「わかるから。」
 振り回していたイギリスの手がぴたりと止まったことにも気が付かなかった。ただぎゅっと目を閉じていると、
「…なんで?なんでお前、なんでお前がそんな悲しそうな顔するんだよ…」
 イギリスの声にフランスは目を開いた。するとイギリスが苦しそうな顔でフランスを見ていた。
 見ないで。
 イギリスの瞳に映った自分の歪んだ顔を見てフランスは思わずイギリスの視界を奪った。後ろから抱きかかえるように、こちらを見ることができないように、さらに手のひらでイギリスの瞳を覆い隠して。
 見ないで。
 だって、
「知らなくていい。わからなくて、いいよ。」
 知らないで。分からないで。俺の苦しみ、悲しみに、気が付かないで…
「ふら、」
「知らなくていい。」
 だってお前はきっと背負ってしまう。アメリカだけでも抱えきれないくらいなのに俺の苦しみまで、そんなの必要ない。


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