君に贈る唄

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 フランスの手のひらをイギリスの涙がじんわりと濡らした。
「ねぇ、もう寝ようよ。明日も、会議だし。」
「いやだ。」
「ほら、もう夜中の3時だよ。寝よう?」
「いやだ。一人は、」
「一人じゃないよ。」
「一人はいやだ。」
「お兄さんも一緒。一緒に寝よう?」
「一緒?」
「うん。」
「一緒…」
「うん。だから、寝よう?」
「いやだ。」
「うーん…お兄さん困るなぁ…」
「困るのか?」
「困るよ。」
「…」
「寝てくれる?」
「いや。」
 覆い隠した手のひらをずらすとすでにイギリスの瞳はとろんとしていて眠るのは時間の問題に思える。フランスはソファの柔らかさを確かめると、イギリスを抱えたままゆっくりと体を倒した。別に一晩ソファで寝たからと言って風邪をひいたりしないだろう。まぁ体はバキバキになる気もするけど、それよりもベッドに移動するまでにイギリスが逃げ出しそうで、そちらの方が問題だった。アルコールで気が高ぶっているけどイギリスだって眠らせなきゃ。
「寝ないからな!絶対、ねないからな!」
 イギリスは眠たそうな目をしているくせに逃げ出そうともぞもぞともがいている。それを押さえつけるようにぎゅっと抱えなおして、フランスは口を開いた。
「〜♪」
 イギリスがまだフランスの召使になって日が浅かった頃、突然住み慣れた森と引き離されてフランスに連れてこられて、なかなか寝付けないときがあった。当時イギリスの部屋は、フランスの隣に用意されており、たとえ自分を侵略した敵国だとしても、フランス以外に知っている人も頼れる人もいなかったイギリスはいつも泣きそうな顔をしながらフランスの部屋に来た。森で寝起きしていたのだ。夜が怖いと言うのはないだろうが、それでも確かに夜の城はとても不気味なもので、イギリスにはそれが怖かったのだろう。フランスはそんなイギリスにいつも歌を歌ってやった。イギリスのための子守唄。それが当時のフランスに出来た精一杯の優しさだった。
「この唄…」
 英語の歌詞。イギリスの唄。眠れない夜にフランスが歌ってくれた、子守唄。
 さっきまでとは違う、熱い涙が滑り落ちた。
 あの当時、フランスがわざわざイギリスの言葉で歌ってくれた、その意味。
「寝ないからな。絶対、寝ないから…」
 出来るならずっと聞いていたい。耳に心地よい歌声、歌詞。
「ねない、から…」
 それでも体は正直で唄を聴けば聴くほど目はとろんとなりまぶたが次第に重くなっていく。

 2番目の歌詞を歌い終えたところでフランスはイギリスの呼吸が落ち着き、すっかり眠ってしまっていることに気が付いた。小さい頃もそうだ。フランスが歌ってやるとイギリスはすぐに眠りに落ちた。二人の間のいろんなことが変わってしまったけれど、そんな所は変わってないなんてなんだかおかしくて、フランスは体にかかる心地よい重みとぬくもりを抱きしめながら瞳を閉じた。






愛してるのかわりにこの唄をお前に贈るよ。


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これ以上ないぐらい失敗しました。お題:かっこいい兄ちゃん。
ということで、かっこいい兄ちゃんパターンA:包容力のある兄ちゃん。
私が書いたこれのどこに包容力なんてものが備わっているのかはわたしにも謎です。
実はパターンCまで考えました。
葵紗様。相互リンクありがとうございます。
素敵な小説を頂いておいてこんなものしか返せなくて申し訳ございません。
返品されるのを待っております。


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