つまり、嫌いじゃないんだよね。

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2


泣きたい。結局フランスは昼ごはんを食べることもできないまま奔走することとなった。
 そして会議終了後。やっと終わったぁ…と息を着くのもそこそこに書類を片付け終え今にも会議室を出ようとしているイギリスに慌てて追いついて声をかけたフランスがお返しにもらったのが一発KOだった。
 思いっきり拳で頬を殴り飛ばされたフランスはそのまま意識を飛ばして冒頭に戻る。

「「なんで?」」
 カナダとアメリカが声をそろえてもう一度聞いてくる。
 改めてそう聞かれるとちょっと困る。なんでだろう?なんで俺イギリスと付き合ってんの?
 フランスは傷む頬を抑えて恋人を思った。
 暴力的で女王様で甘えたいのに意地っ張りで泣き虫で、あとツンデレで。良いところっていわれても多分答えられない気がする。
 それでも
 殴られた瞬間久方ぶりに瞳があった。
 その瞳が凍てついた翠なら俺にできることは何もない。キレて、暴れて、怒鳴り散らして、気が済むまで殴られて待つしかない。でも、…
痛いのはこっちだってのに自分が痛いような顔をして、まるで風に揺られた湖面のように揺れる瞳に目が離せなかった。まぁすぐ気を失ってしまったけど。1000年以上隣にいた。だからわかる。あれは泣く寸前のイギリスの表情。どんなにポーカーフェイスで覆い隠そうと俺にはわかってしまう。
 きっと泣いてる。俺の愛しい森の子が。
 そう思ったらいてもたってもいられなくなっていた。探さなければ。だってあと5時間もない…
「なんでかな。お兄さんにもわからないや。でも、もう行くよ。イギリスを探し出して抱きしめてあげなきゃ。」
 そう言って微笑む笑顔は愛しさがにじみ出るようなそんな笑顔で、アメリカは「なんだい?結局ラブラブなんじゃないか。」とどこかふてくされたようにそっぽを向いてしまった。
 そんな兄弟にカナダは「まったくもう!」とまるで大人が子供をたしなめるかのように言うものだからアメリカは余計に機嫌を悪くしてしまった。
 カナダはそんなアメリカの頭をぽんぽんと撫でながらフランスに向き直った。
「イギリスさん、たぶん家に帰ったんじゃないかと思います。追いかけてあげてください。」
 その言葉にうん!と肯定を返し腰を上げたフランスにアメリカはカナダにされるがまま露骨に嫌そうな顔をした。結局なんだい?これ全部盛大なのろけだったのかい?そう思うとわが兄達ながら馬鹿らしくてやってられない。アメリカはさっさと行けばいいよ!とフランスを追い出した。
 追い出されるフランスに、カナダも見送った。
「本当、ありがとうな、アメリカ。カナダ。」
 そう言ってぱたんと扉をしめるとパタパタと走り去る足音が聞こえた。残された二人は疲れたとでもいうようにふぅっとため息をついた。
「全く、世話の焼ける二人なんだぞ!」
「仲直り、できるといいね。」
「そんなの知らないんだぞ。」
「もう、そんなこと言って」
 それでもどんなに面倒くさくてもダメな兄たちでも、フランスとイギリスはカナダとアメリカにとって大切な、大切な家族なのだ。二人は明日が二人にとって大事な日だということをちゃんと知っている。
だから、
 不器用な兄と器用すぎる兄が明日一日幸せに過ごせますように。二人はそれだけを願った。

 二人と別れたフランスはちらっと時計を見て顔をしかめた。あれからすぐにユーロスターに飛び乗ったのはいいものの思ったよりも気を失っていた時間は長かったらしい。
「イギリス!」
 フランスがイギリスの屋敷にたどり着いた時にはすでに日はとっくに落ち、あたりは夜の闇に支配されていた。
 にもかかわらずイギリスの家には灯り一つ点っていない。いないのかな?フランスの心に焦りが募る。
 時間がないのに!
「イギリス!ねぇいないの?イギリス!」
 ベルを鳴らしても戸を叩いても誰も出ない。もしかしたらここにはいないのかもしれない。フランスが他の場所にも探しに行くべきか悩んでいるときぃっと音を立てて玄関の扉が開いた。
「、イギリス?」
 その声に返事はない。イギリスが開けたのでないならば可能性は一つだけ。
「妖精さん、Merci!」
 目には見えない見方にフランスは礼を告げ、フランスは闇に覆われたイギリス邸に足を踏み入れた。

 イギリスはすぐに見つかったフランスは飛び込んだ勢いのままリビングにイギリスがいないことを確認するとそのまま2階への階段を駆け上った。そしてある扉の前で自分の足にブレーキをかける。フランスには予感があった。フランスは、ここにいる。
 フランスがそっと扉を開くとフランスの予想通りにイギリスはそこにいた。フランスがイギリスの家に泊まる時にいつも使っているフランス用の客室、そのベッドにうつぶせてイギリスがそこにいた。
「…イギリス。」
 そっと近づくがイギリスはピクリとも動かない。
「…寝ちゃったの?」
 フランスはベッドの端に腰をかけてそっとイギリスの髪に指を絡ませるとイギリスは肩をぴくんと跳ねさせた。やっと反応を返してくれた。そのことに安堵しながら指を滑らせる。ふと、イギリスの肩が跳ねたのではなく震えていることに気づいた。
「イギリス、…泣いてるの?」
 すっと指を滑らせて髪を掻き分けるとすんと鼻をすする音が部屋に響く。その音に疑問が確信に変わる。イギリスが泣いてる!
 フランスは驚いて、そして慌てた。
 きっとフランスを殴ったことを後悔して、後悔なんかしちゃってる自分に後悔して、ぐるぐるぐるぐる泥沼にはまってるんだろうなぁ、それか全部フランスが悪い!って怒ってるかな、なんてそんな風に考えていたのに、たしかに泣きそうな顔はしていたけど本気で泣いていたなんて!
 つまりそれは涙をこらえるという精一杯の虚勢でさえもはや機能していないということ。
「イギリス、っ」
 正面から向き合いたくて。抱きしめて、キスして、もっと抱きしめてやりたくて伸ばした手は鋭い音を立てて叩き落された。それが悲しくて。
こっちを向いて、お兄さんを見て?シーツに爪立てるぐらいならお兄さんに立ててよ。イギリス、イギリス、イギリス…


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