きみの心に触れさせて

親愛なる弟たち

 ふわふわとイギリスは心地よい感覚の中にいた。空を飛んでいるような、陽光の中で昼寝をしているような感覚だ。隣には当然のようにフランスがいる。
「フランス」
 名前を呼べばこちらに微笑みかけて、イギリスの腕に自分の腕を絡める。幸せそうに笑うフランス。それを見てイギリスも笑う。幸せだ。そう感じた。
「………ギ……リ…ス……?」
 フランスの声が少し遠い。
「……ん?」
「………………イギリス、起きて」
 ゆるゆる瞳をあけるとフランスがしょうがないなと笑う。
「もう朝だよ、起きて。朝御飯もできてるから」

「んっ…」

 カーテンの隙間から溢れる光にフランスは目を覚ました。

 瞳を開けると目の前にはイギリスの顔がって、

 近っ!

 ビックリして顔を離そうとしても身動きしづらい。なんで…とまだぼんやりしている頭で考える。

 昨日はイギリスと一緒に寝て、それで、なんでイギリスに抱き締められてんの?

 どうやら寝ている間にイギリスはフランスをだき枕にしていたらしい。

 フランスはそっとイギリスを起こさないように腕の中を抜け出した。

「さてっと、朝食の準備をしますか。」

 何も入っていない冷蔵庫は昨日と変わらない。

 フランスはもう一度冷蔵庫や棚を確認し腕をまくる。

 そうして30分後そこには見事な朝食が並んでいた。

 主食がないなら作ればいいと強力粉をねって焼き上げたパン。紅茶をたしなむイギリスが常備してある牛乳を使ったスープ。

 保存のきく干し肉を戻して、昨日使わずに残しておいたじゃがいもと和えたポテトサラダ。卵は賞味期限が心配で使わなかった。ここに緑の野菜があれば良いのにと思ったが高望みは止めておこう。

 そしてフランスはちらっと時計を見る。時刻は7時。イギリスを起こさなければ、とフランスは二階へ上がった。

 フランスが目の前に居たことを一瞬だけイギリスは不思議に思ったが、すぐに昨日のことを思い出した。
「おはよう、イギリス」
 ふわふわ笑うフランスの頭を引き寄せてキスをする。
「ちょっ、イギリス」
 びっくりして瞳を見開くフランス。軽いキスをして、話を戻す。
「今、何時?」

 キスされてビックリした。でも心が甘いもので満たされる。

「もう7時だよ。だから、」
 起きて、とフランスはキスを返した。

 キスを返されてもう一度と思ったのだが軽くかわされた。仕方ないのでベッドから降りる。
「おー、起きる」
 寝ぼけ眼のまま答える。身体はまだ睡眠を欲していたがそろそろ起きて準備をしないと遅刻する。
「うん、良い子!」
 子供を誉めるような口調に、顔をしかめた。
「……やっぱりもう一回寝る」

「もう、何言ってるの!生徒会長が遅刻なんてしたら全校生徒に示しがつかないでしょ!」

 そう言ってフランスは身を翻して先に階下に降りる。

 イギリスだけではない。フランスはこれまで何人もの国を育ててきた。だからわかる。つまりこれは構って要求だ。

「いぃから早く降りてきなさい。」

 そう言い残しフランスは先に階段を降りた。

 放っておかれたイギリスは仕方なく、起きることにした。フランスも構ってくれないことだし、これ以上駄々をこねても意味がない。階下にいくとフランスの言っていた通り、すっかり朝食の準備ができていた。
「紅茶、どうする?」
「自分で淹れる」
 尋ねられた言葉にアクビを噛み殺しながら答える。キッチンはなにか使った形跡がない。いつの間にか綺麗になっていた。フランスの仕業だろう。
「お前は何飲む?」
「今朝はイギリスと同じものが飲みたい気分」
 可愛らしい返答に適当に答える。気のきいた台詞は残念ながら頭に浮かばなかったのだ。

 今フランスは自宅で登校の準備をしていた。

 あれから朝食を終えたのを見届けてすぐにフランスは登校準備のために自宅へ戻ったのだ。

 フランスは制服に着替え、髪を整える。

 準備が出来上がって
「よし、行くか」

 と立ち上がると同時にチャイムがなった。

「ナイスタイミング。」
 と呟きフランスは玄関へ向かう。

「はぁい!」
 と言いながら扉を開けるとそこには予想通り登校準備を終えたイギリスがいた。
「行くぞ。」
 それだけ言って先に歩き出すイギリスに駆け寄ってフランスは指をからめた。
「うん。行こう」
 そう言って微笑むと驚いたのか、照れるのかイギリスが真っ赤な顔をしていた。

 あまり早い時間ではないが、登校している生徒は少なかった。フランスが絡めてきた手が触れたところが熱い。知り合いがいないのが唯一の救いなのかもしれない。知り合いにこの姿を見られたら、嫌なからかわれ方をする。そんなことをイギリスが考えていると、フランスが誰かを見つけたらしく声をあげた。
「あ、日本」
「おや、イギリスさんにフランスさん。おはようございます」
 きっちりとした格好で日本は特に驚くことなく、いつものような無表情で会釈をした。

 その無表情のまま「仲がおよろしいですね。」なんて言われた。
 
 俺は笑顔で「うん」って答えるつもりだったのに顔を真っ赤にしたイギリスに先に手を振り払われてしまう。

 これはさすがにしょうがないよね。とフランスは真っ赤になったイギリスに苦笑した。

「……はっ、早いな、日本」
 振り払ってもフランスは苦笑するだけだった。問いかけに日本が少しだけ眉をさげて答えた。
「いえ、いつもより遅いくらいですよ。昨日はいろいろありまして」
「いろいろ?」
 尋ね返すと日本は少し嫌みっぽく答えた。
「えぇ、どこかのトラブルメーカーがうちに来て完徹しました、ホラー映画を見て」
 ため息をつく日本になんと答えてよいのか迷う。イギリスとフランスが断ったためにお鉢が日本にまわってきたようだ。もう、ご愁傷さまと言うしかない。

「ご、ごめんね、日本…」

 もうそれしか言う言葉がない。

「すまない、日本。あいつらは後で叱っとくから。」

 横でイギリスも謝っている。

 それに対して日本は、
「お気になさらないで下さい。お二人のせいではありませんから。」といってくれた。

 あぁ笑ってくれても目の下のクマが痛々しいよ…
「本当に今度何かお詫びするよ。」

 日本は自分の失言を恥じているのか、遠慮がちに答える。
「本当にお気になさらず。あの方に悪気がないことは重々承知しています。それに、」
「それに?」
 二人で尋ね返すと日本はくすりと笑う。
「寂しかったんだと思いますよ、お二人に誘いを断られて」
 密やかに笑う日本は言葉を続ける。
「ですから、今日はアメリカくんを少し構ってあげてください」
 それだけで私の苦労も減りますから。淡く微笑んで、日本はドイツとイタリアを見つけたのか、二人にまた会釈してそばを離れていった。

「あぁ―、俺はともかくイギリスがアメリカの誘い断るとか本当に珍しかったもんね―。」

 日本の後ろ姿を見ながら横目でイギリスを見やると、イギリスもばつの悪そうな顔をしながらも、
「お前が気になったんだから仕方ねぇだろ。」
と言った。

 その言葉に頬が緩むのを抑えられなかった。

 あの時、イギリスは最も大切なアメリカよりも俺を選んでくれたのだ。

 こんなこともう二度とないかもしれないな、と思う。

 一人でそんな事を考えながらニマニマしてると、「なんだよ。」とイギリスに訝しげな顔をされた。

「なんでもないよ。それより、今日!一緒に夕飯食べようって約束してたけど、ふたり、呼ばない?」

 フランスの言葉に驚いた。
「えっ?」
 まさかそんなことを言われるとは思わなかった。今朝のよこしまな妄想がイギリスの頭の中でガラガラ崩れさる音がした。フランスが不思議そうな顔をした。
「嫌なの?」
「べっ、別に嫌なわけじゃねぇよ!」
 慌てて否定するとフランスが先ほどと同じようにニヨニヨと笑う。
「なっ、なんだよ」
 軽く抗議の意味を込めて睨むがフランスは笑っていた。
「ううん、なんでもないよ。まぁ、今日は、アメリカに付き合ってあげようよ」
 その言いぐさになんとも言えない気持ちになった。アメリカに付き合うならいつでもできるのにな。
「……わかったよ」
 そんなことを思いながらイギリスは答えた。

 昇降口でフランスはイギリスと別れた。フランスはそのまま教室に行くがイギリスは生徒会室に行かなければならない。

 フランスが一人で教室に向かうと、見覚えのある後ろ姿を見つけた。

「カナダ!」

 イギリスがフランスと別れ、一人生徒会室に向かう途中でふと不穏な空気を感じとればそこにはアメリカとそしてロシアが対峙していた。
「おい、お前ら、何やってんだ」
 あまり声をかけたくなかったが、大きな事件があっても困るのでイギリスは仕方なく声をかけた。二人はイギリスの方に顔を向けて口を開く。
「イギリス君、おはよう」
「なんだ、イギリスじゃないか」
 ロシアはいつも通りの笑みを浮かべ、アメリカは少し不機嫌そうだった。

「おはようございます。フランスさん。」

 声をかけたら振り向いたカナダがふわりと笑って答える。

 その姿はいつも通りだけど…

「昨日、大変だったな。目の下、くまができてる。」

 そう言ってそっと目元を撫でるとカナダは慌てたように一歩下がってごしごしとこすった。

「ちょ、そんなに乱暴にしたってくまはとれないから!」

 フランスは慌ててカナダの腕を掴むとカナダの顔は案の定赤くなっていた。

「もう。何してるの!」
 そう叱るとカナダはしゅんとしてしまった。

 フランスはそんなカナダの頭を撫でながら呼び止めた本題を思い出す。

「そうだ、カナダは今日、ひま?」

「?なんでですか?」

「良かったら夕飯をイギリスの家で一緒に食べない?アメリカも誘って!…昨日、断っちゃったお詫び!」

 するとカナダは嬉しそうに笑って頷いてくれた。
「じゃあ、また放課後、生徒会が終わったら教室に迎えに行くよ。」

 そして二人はそれぞれの教室に向かった。

 ロシアがいつも通りの笑顔を浮かべて告げる。
「ふふっ、相変わらず、仲が良いよね、フランス君と」
 まるで朝の様子を見ていたように告げられて、イギリスの頭が沸騰した。アメリカが冷たい視線を向けてくる。
「ふぅん、俺の誘いを断って二人でよろしくやっていたみたいだね」
 告げられた言葉の意味をイギリスは深読みした。
「よろっ、」
「仲良しだねぇ」
 ロシアがのんびり告げた。アメリカは拗ねた子供のようにそっぽを向いた。

 始業時刻ぎりぎりになってイギリスは戻ってきた。

 なんか少し不機嫌、かも?

 とにかくカナダを誘ったこと、伝えなくちゃ!

 国の仕事とは、なんてぶっちゃけ今更だよと思うだるい授業をなんとなしに聞きながらフランスは今日の献立を考えていた。

 拗ねたアメリカはほとんどイギリスとまともな会話をしなかった。なんとかイギリスは彼なりにアメリカをなだめようとしようとしたのだが、上手くいかなかった。始業時刻ギリギリに教室に飛び込んだイギリスは不機嫌と言うよりは、どうすればアメリカの機嫌がなおるかを考えていた。フランスと二人の時間を邪魔されるなら、せめて四人で楽しい時間を過ごしたい。イギリスはそんなことを考えながら、授業を聞き流していた。

「ねぇ、イギリス!」フランスは授業が終わってすぐにイギリスに声をかけた。

「ん?」

 …なんか生返事…

「い、イギリス、なんかあった?」
「?あ、あぁちょっとな。」

 怪しい…

 でもまずは、
「ねぇ、さっきカナダにあってね?今日の約束をとりつけたよ。あとはアメリカだけど、…」

 な、なんか、眉間にシワがよった気が…

 アメリカの名前に頭の痛い思いをする。今朝の出来事が思い返されたからだ。フランスが不安げな顔をする。
「なんか、苦虫噛み潰したような顔してる」
「……そうか?」
「うん。アメリカとなんかあったの?」
 フランスの問いかけにイギリスは正直に答えた。
「いや……、日本の言う通りの態度をとられただけだ」
「アメリカ、拗ねてたんだ」
 小さくフランスが笑う。
「子供みたいにな」
 答えるイギリスも似たように笑った。

「なら大丈夫!きっと今日誘ったら機嫌なおしてくれるよ!」

 フランスがそう請け負うと、イギリスはまだ少し心配そうな顔だったが頷いてくれた。

「カナダがもしかしたら伝えてくれてるかもしれないけど、やつぱりイギリスの口から誘ってもらった方がアメリカは喜ぶと思うよ?」
「そ、そういうものか?」

「そういうもの、そういうもの!」

 そう言ってフランスはイギリスの腕を掴み駆け出した。

 一方、アメリカはカナダとそれから彼と一緒にいたセーシェルと顔を付き合わせていた。むっつりと不機嫌をあらわにするアメリカのことを、カナダもセーシェルも特に気にしてはいない。
「ふぇ〜、フランスさんたちあっという間に仲直りしましたねー」
「まぁ、いつも通りにね」
 セーシェルの言葉にカナダが苦笑する。二人の会話を聞いていたアメリカは横から口を挟んだ。
「まったく、はた迷惑なカップルだよ」
「君と比べたらかわいいものだけどね」
 カナダの言葉にさらにアメリカが機嫌を悪くする。それは小さな子供の癇癪のようなものだ。だから、カナダもセーシェルもそれを取り合わない。

 空気に暗雲が立ち込め出した所にガラリと音を立てて教室の扉が開かれた。

 音につられてカナダが振り向くとそこには噂をすればなんとやらと当人たちが来ていた。

「かぁなだ!ボンジュール!さきほどぶり!」
「じゃ、邪魔するぞ。」
フランスさんが明るくイギリスがこちらを伺うように声をかけこちらに向かってくる。

「あっ、どうも」
「こんちはー」
 カナダもセーシェルも満面の笑み。だが、アメリカはむすっとした顔のままだ。フランスがイギリスを肘で促す。
「ほら、早く」
「おっ、おう」
 フランスに急かされて、イギリスは慌てて口を開いた。
「お、おい、アメリカ」

「なんだい?」

 不機嫌をそのまま声に出されイギリスがひるんだ。

これは予想以上にすねてんな―

 イギリスがひるんで話しかけないので俺が話しかけた。

「アメリカ、カナダにはもう言ったんだけど、良かったら今晩イギリスの家で夕飯一緒に食べない?」

 フランスの言葉にアメリカは少しだけ嬉しそうな顔をしたが、すぐに拗ねた表情に戻る。
「……もちろんフランスが俺の好きなもの作ってくれるんだよね?」
「アメリカ、無理言わないでくれよ。子供じゃないんだから」
 カナダが厳しく告げるがアメリカはそっぽを向くだけだ。聞いていないという意思表示だ。
「セーシェルもどう?」
 フランスがセーシェルにも声をかける。すると彼女は残念そうな顔をした。
「すいませんです、今日はリヒちゃんやハンガリーさんたちと一緒に遊びにいくんです」

「そっか…それは残念。また今度おいでよ、セーシェル。」

「はいです!眉毛の家なんて行きたかないですが、フランスさんの料理が食べられるなら絶対行くです!」

 そう言ってセーシェルは脱兎のごとく逃げ出した。遅れてイギリスが怒りの声をあげるがセーシェルの後ろ姿は遥か彼方だ。

 元気になった途端相変わらずなんだから。と、フランスは苦笑する。

「まぁまぁ」と言ってイギリスの腕を掴み引き寄せるとイギリスはあっという間に大人しくなった、というよりも黙り込んだ。

 それを見ていたアメリカは話の途中で放っておかれてむぅ〜っとこちらをにらんでる。

 フランスはこの手のかかるよく似た兄弟に苦笑混じりにため息をついた。
 アメリカの頭を撫でてやる。

「夕飯、買い物はまだしてないから、食べたいもの、リクエストしていいよ。カナダも」

「本当ですか! なら僕は」
「ハンバーガーか、ポテト! オムレツやオムライスでも良いんだぞ!」
 声高に告げるアメリカにカナダもなんとか口を挟もうとするが、声量が足りない。
「僕はキャセロー」
「まぁ、フランスの料理なら何でも良いけどね! フランスの料理なら!」
 フランスの料理ならという言葉を強調するアメリカ。イギリスがその言葉になにか言おうとして、返す言葉がなかったのか口をつぐんだ。
「まった、アメリカは作りがいのないことを、そんな簡単でいいのかよ。」
 お兄さんちょっとショック―

 アメリカのまるで小学生のようなリクエストに笑いが込み上げる。

 ま、らくでいいんだけど…
 そう心の中で呟いてフランスはカナダに向き直った。

 カナダはアメリカの勢いに押され泣きそうになっている。そんなカナダの目尻をぬぐい頭をなでてやる。

「で、カナダはなにがいい?」

 自分の意見を聞いてもらえるとわかってカナダが瞳を輝かせる。
「はいっ! 僕はポテトキャセロールやホットケーキが良いです!」
 満面の笑みのカナダ。メイプルかけると美味しいんですよーなんてのんきな言葉を続ける彼をさえぎってアメリカがまたも遮る。しかし、カナダの食べたい料理も簡単なものばかりだ。

「ん〜なんか簡単だけど、まいっか…」

 フランスは二人が食べたいならそれでいいかと思い直し頭の中で必要な材料を展開させた。

 上の空になったフランスの腕を掴みイギリスは二人に放課後迎えにくるから。と告げ、フランスを連れて教室に戻った。

 二人が教室に戻るとほどなくして授業が始まった。教師が並べる言葉をつらつら聞き流しながら、イギリスは自分の仕事のことを思い出していた。生徒会の仕事を含め、昨日の分が少しだけ溜まっているのだが、放置しようと決意する。どうせ残っているのも少しだけであるし、俺にかかればあんなのあっという間に終わるという自信もある。にやにやしながらそんなことを考えていたら、あっという間に放課後になっていた。
「さっきからにやにやしてて気持ち悪いよ、坊っちゃん」
イギリスはフランスに言われたくはない、と思った。

 授業なんて千年以上国をやってきた俺にはまったくもって必要ない話だ。
 だから俺は今日の夕食会のことで頭を一杯にしていた。

 デザートはどうしよう…
 サラダのドレッシングは?

 食べてみんなに美味しいと言ってもらえる、もちろん美味しいって言わせる自信がある、その時を想像しただけで頬が緩んでしまう。

 ふとイギリスをみやるとイギリスもなんだか絞まりのない顔をしている。

 だからフランスは授業が終わりイギリスに声をかけた。

 するとお前もだろと無言の視線が突き刺さってくる。

 なんか、楽しいな…

「んじゃイギリス!生徒会の仕事を超スピードで片付けますか!」

「……今日くらいやらなくてもいいだろ?」
 フランスの明るい言葉にそうイギリスが答えると相手は驚きすぎたのか、不安そうにこんなことを告げた。
「……イギリス、具合悪いの?」
 あー、だからさっきから気持ち悪かったんだね、悪い菌が頭まで回っちゃったんだぁ。泣きそうな顔でフランスがそんな失礼なことを告げた。

「おい!」

 イギリスのツッコミもフランスには届かない。

「だって、だって!あの仕事命のイギリスが!」
 今晩を楽しみにしてくれてたのは知ってるけど、でもでも!あのイギリスだよ!

 そうバタバタ考えていたらイギリスは次第に不機嫌オーラを撒き散らし始めた。

「そんなにいうなら仕事するか?あぁ?」

 っぅわ、大英帝国さま…

「いえいえいえ!仕事がないのは大歓迎!っほらアメリカ達待ってるよ!行こう!」

 普段、こいつが俺のことをどう思ってるかわかったきがする。そんなことを思いながら、急いで弁解するフランスに手を引かれ、イギリスは二人を迎えにいくことにした。迎えにいくとアメリカたちは帰る準備をもう終えていた。アメリカは昼間の不機嫌が何処かへいってしまったらしく、いつも通りのテンションで叫ぶ。
「おっそいんだぞ、二人とも!」

「アメリカ!まだ終業時間から五分もたってないじゃないか!フランスさん、イギリスさんもお早かったですね。」

 生徒会のお仕事おわってからだと思ってました〜

 そうほわほわ笑うカナちゃんは超かわいいよ!で、でも!…それ地雷!

「たまには、休まないと効率が悪いからな」
 さらりと答えるとカナダは素直な言葉を返す。フランスがなぜか少しだけ拗ねたような顔をしているような気がした。
「そんなことどーでもいーんだぞ! さっ、早く帰ろうじゃないか!」
 言いながら駆け出すアメリカの後を急いでカナダが追う。
「もー、アメリカ! まってよ〜」
 ぽてぽてて後を追うカナダの後ろについてイギリスも歩き出す。
Copyright (c) 2009 All rights reserved.