きみの心に触れさせて
幸せのかたち
「もう、ダメだって言ってるでしょう!」
あれから俺たちはみんなでスーパーに買い出しに来た。
でも、予想外に難航している。それもこれも…
「アメリカ!そんなにお菓子買ってどうするの!戻してきなさい!」
「アメリカ!何こっそりカゴに入れてるの!」
「イギリス!そんなの買って何に使うつもりなの!?」
「カナダ!メイプルシロップはイギリスの家にもちゃんとあるから…」
はぁ、もう!このお子様たちは!
買い物中にぎゃーぎゃー四人で騒いでいると、案の定、店員から注意を受けた。フランスがまるで三人の母親のように恐縮し、謝った。そのため、今度は静かな攻防が繰り広げられることになる。結局はさっきとやっていることは同じなのだけど。
「まったく、お前らったら」
苦笑するフランスはどこか楽しそうに見えた。
「もぅ買い物だけで疲れたよ。
四人がスーパーを出た頃には一時間が経過してた。予定してた今日の食材とイギリスの食材を買うだけだったのに…
でもこんな風に四人で騒ぐのって久しぶりだなぁ…
そう考えて頬を緩ませるとイギリスがおい!と声をかけてきた。
「なにニヤニヤしてんだよ…」
「ん?なんかさ、幸せだなぁって…」
そう笑いかけるとイギリスはツンとそっぽを向いて「そうか」と言った。
「はい、到着!」
そう言ってフランスは合鍵を取り出し扉を開く。
買った荷物はアメリカとイギリスが持ってくれていて両手が塞がっていると思ったからだ。
幸せだなぁと笑うフランスは可愛かった。一時間もかけて食材を買っていたらしいが、イギリスはそんなに長い時間には感じなかった。イギリス野家の前まで帰りつくと、フランスがすぐさま合鍵を取り出す。するとアメリカがちょっと驚いたように口を開く。
「あれ、君なんでイギッ、った」
しかし、アメリカが最後まで言葉を告げることはなかった。
「アメリカ、後で二人ではなそう。じっくりと」
カナダがすかさずそんなことを告げる。アメリカはそれを聞いて楽しそうに笑った。
「ワォ、なんか楽しそうだね、それ」
能天気なアメリカの言葉にあきれながら、イギリスは彼が言おうとしていたことを予想して、深く突っ込まれないでよかったと安堵した。
食材をテーブルに置くとどさりと重そうな音を立てた。
その中からこれだけは買ってやると妥協したアイスを取り出し三人に渡す。
「これあげるからリビングで大人しくしてて!」
キッチンをアイスを押し付けられて追い出された三人は仕方なく、DVDでも見ることにした。イギリスの家にはAVなんかの他に、ホラー映画のDVDもあるので、さっそくそれを彼らに見せることにした。
「そんなに怖くねぇやつだから安心しろよ」
不安そうなカナダにそういいはなって再生する。それから数十分後、二人の悲鳴がキッチンに届いた。
フランスは思わず包丁を握る手を止めた。
「…なに?」
フランスがリビングを除くとカナダがクッションで顔を覆ってアメリカがイギリスにしがみついてるなかイギリスだけが一人でDVDを見ていた。
イギリスがフランスに気づいて気にすんなと手を振る。
「…わ、わかった。」
それからも食事の準備をしつつもフランスは時々聞こえてくる悲鳴に腕を止めるのだった。
「うわぁあっ! ヘルプ! すきゅありー! ヘェルプっ!」
「あああ、クマ三郎さんどこ? これすごく怖いよー」
「別にこんなん大したことないだろ」
そんな会話を繰り返し、DVDが終わる頃食事ができた。フランスは悲鳴が気になるのかちょくちょくリビングの様子をうかがいにやってきた。 アメリカとカナダは目にうっすら涙を溜めながら、フランスに告げる。
「フランスっ、フランスっ、今日は一緒に寝ようよー」
「フランスさん、怖かったです」
震える二人の頭を撫でるフランスは困ったような顔をしていた。
「う〜ん…」
涙目で訴えてくる二人は非常にかわいいのだけど…
「一緒に寝るのは構わないんだけど、でもおにいさん夜は家に帰るつもりだったんだけど…二人ともうちで一緒に止まってく?」
どうしよっかなぁと思って考え付いた妥協案を提示したらイギリスが驚いた顔でこっちを見た。
てっきり今日もうちに泊まるんだとばかり思っていたイギリスはフランスの発言に目をむいた。
「えー、ここに泊まればいいじゃないか!」
フランスの家までいくのが面倒くさい。アメリカの顔がそう言っていた。
「いやいや、この部屋に四人泊まるのは難しいってお兄さんは思うな〜」
イギリスの家にはゲストルームが一つあるがこれはシングルベッドだ。
流石に大の大人が3人でシングルとかは不可能だろう。
イギリスの寝室はダブルだが、イギリスの家で勝手に寝室を借りるなんてあまりにも論外だ。
ならフランスの家に戻って自分のダブルを使えば眠れるんじゃないかと考えたのだが、
…やっぱ面倒くさいよね。
「でもここでは3人では寝られないよ。」
改めてそう言うと三人という言葉にイギリスが反応した。
「別に三人でゲストルーム使うこともないだろ」
イギリスの言葉に他三人が目を丸くする。
「じゃあどうするの?」
フランスが不思議そうにイギリスを見る。アメリカもカナダもフランスと似たような視線をイギリスに向けた。
「どうするって……、リビングで雑魚寝とか……」
「雑魚寝って…俺はいいけど、二人に風邪ひかせちゃったらどうするの?」
そう言いながらフランスはスプーンを口に運ぶ。
すると夢中で食べてたアメリカが顔をあげた。
「俺は雑魚寝でいいんだぞ!」
「僕もそれで一緒に寝れるなら…」
と、カナダまで必死に訴えてくる。
あぁ、そんなに怖かったのかな?
フランスはそんなことを思いながら最後には了承したのだった。
イギリスの提案に少しだけ渋ったフランスだったが、最終的にはその提案をのんだ。その事にほっとしたイギリスだが、ふと布団が足りるかどうか心配になるのだった。しかし、そんな心配をよそに、他三人は楽しい会話を繰り広げ始めていた。フランスの料理は美味い。楽しげな会話を聞きながら、イギリスはそんな風に考えて小さく笑った。
食事を終え後片付けすると居間からはゲームの音が聞こえてきた。
「あぁ!なんだい君、今の反則じゃないかい!?」
「あ゛ぁ!?ふざっけんな!なめんなよ!ゲームに反則なんてねぇんだよ!」
「い、イギリスさん、アメリカも、落ち着いて!」
その声をBGMに聞きながらフランスは後片付けを続けた。
食事のあと、アメリカがゲームをしたいと言い出して、イギリスはその相手をすることにした。カナダも誘ったのだが、得意なゲームじゃないらしく見ているだけにしたようだった。対戦は白熱し、言い合いもヒートアップ。カナダがそれを止めようとしたが、控えめすぎて止まらなかった。
「イギリスもアメリカも子供だねぇ」
キッチンから戻ってきたフランスがしみじみそんなことを告げたがイギリスは聞こえないふりをした。
フランスは白熱する二人をよそにテーブルにデザートを置いた。
そしてソファにひとり座ってるカナダの隣に腰かける。
「うわぁ。ホットケーキだぁ!」
カナダの喜ぶ顔が見れただけでフランスは満足だった。
「カナダが食べたいってリクエストしてくれたからね。」
二人で話してるとイギリスとアメリカが気がついたようにこちらを向いた。
「アイスもついてるじゃないか!」
アメリカが嬉しそうに喜ぶ。
「食べていいよ。イギリス、お茶〜」
唐突な命令にイギリスは少し驚いた。
「なんだよ、いきなり」
イギリスの言葉に得意げにフランスは答える。
「ホットケーキには紅茶だと思わない?」
その言葉にイギリスはちょっと納得のいかない顔をした。
「俺はコーヒーが良いんだぞ!」
アメリカの言葉にイギリスは冷たく返す。
「うちにそんなものはない」
「で?いれてくれるの?くれないの?」
そう笑うフランスはイギリスが断るなんて微塵も考えていない。
そしてその笑顔にイギリスは弱いのだ。
「座ってろ。」
そう言い残してイギリスはキッチンに向かう。
「ぶぅ、コーヒーがいいんだぞ!」
「まぁまぁ…アメリカだってイギリスの紅茶、嫌いじゃないだろう?」
「僕はイギリスさんの紅茶大好きです!」
「だよね―」
そんなおしゃべりをしていたらカチャカチャと音を立ててイギリスが戻ってきた。
イギリスが四人分の紅茶を入れて戻ると、アメリカが拗ねたような顔をしていた。
「コーヒーが飲みたいんだぞ!」
「アメリカはコールタールでも飲んでれば良いよ」
カナダが冷たく告げる。
「コールタールってなんだい?」
しかしアメリカはそんなひどいことを言われても気にしていない。
「ありがとう、イギリス」
紅茶を受け取ってフランスが緩く微笑む。それがイギリスには嬉しかった。
食後のティータイムは穏やかに過ぎていった。
問題は…
「で、雑魚寝って、どうするんだい?」
「あ゛―…どうするかなぁ…」
イギリスは困ったように頭をかいた。
「う〜ん…とりあえず机とソファをどけて…あぁっと日本の家みたいに布団があればいいのに…」
「布団なら二組までならあるぞ」
ふと思い出したようにイギリスが告げる。その言葉の意味を深読みしたかのごとくフランスが少し顔をしかめた。
「なんで二つあるの?」
「日本に貰ったんだよ」
ちなみに国旗柄の布団だ。日本が気を使ったのかはよくわからないが、何故か柄はイギリス国旗とフランス国旗だった。
「でも、二つ足りませんよね、どうしましょう……?」
カナダが困って眉を下げる。
「ソファベッドがあればよかったのにな!」
アメリカがそうやって笑った。
「ならとりあえず二組敷いて、まぁちょっと狭いけどさ、三人なら寝れるよね…」
フランスは考え込むようにまぶたをふせる。
次に開かれた時、イギリスはその爆弾発言に目を開いた。
「んじゃ、まぁイギリスはソファをどうぞ?俺たちは布団で寝るか。」
お前ら怖いんだよな?
そうフランスはアメリカとカナダに笑いかける。
空気が凍りついた気がした。
凍った空気に珍しくフランスは気がつかない。アメリカの表情がちょっと凍っていた。
「あ、ははは、やっぱり三人じゃ狭いよ、なっ、カナダ」
「う、うう、うん、そうだね、アメリカ」
カナダも焦ったような声をあげる。フランスは不思議そうな顔で二人を見る。
「えー、大丈夫だろー」
そんなやりとりを聞きながらイギリスが慌てて口を挟んだ。
「ちょっ、ちょっとまて、フランス!」
「え、何?」
「なっ、なんでさっきから俺がはぶかれてんだよ!」
「え?だってアメリカとカナダが怖いから一緒に寝ようって、だからこうなったんでしょう?」
何をさも当たり前のことをと言わんばかりのセリフにアメリカとカナダの方が凍り付く。
「い、いやぁ、四人でも眠れると思うんだぞ!」
「っえぇ!?アメリカ、何いって!」
アメリカ、ナイスだ!
イギリスは大きくなってから珍しくアメリカを手放しで誉めたいと思った。フランスがきれいに整えられた眉をひそめる。
「えー、無理だって。誰かが床で直接寝ることになるよそれ」
フランスの言葉は正論だ。アメリカもカナダもイギリスも言葉につまる。だが、イギリスは自分だけ他のところに寝るのは嫌だった。
「え〜?俺床で寝たくないよ?」
「俺が床でいいから!」
いつも以上のイギリスの剣幕にフランスは驚いた。
「ぇ、えぇっと、そんなにお兄さんと一緒に寝たいの?」
「なっ、そっ」
フランスの言葉にイギリスが顔を真っ赤にして絶句する。その様子を見てカナダが喧嘩になりそうな雰囲気を感じ取って声をあげる。
「僕らもイギリスさんとフランスさんと一緒に寝たいよね! ね、アメリカ!」
カナダの必死さに思わず、アメリカも頷く。
「そ、そうなんだぞ!俺もみんなで寝たいんだぞ!」
「アメリカ…!」
その言葉にイギリスが嬉しそうに瞳を輝かせた。
「いや、そんな、感動されても困るんだぞ…」
アメリカの目がうつろう。
カナダはそんなアメリカにまぁまぁと抑える。
これで問題は解決した。アメリカとイギリスが布団やタオルケットなどを取りに行きフランスとカナダが布団を広げられる場所を確保する。
でも問題は終ってなかった。布団を敷き、さぁ寝るぞという段階でさらに勃発することになる。
「俺が、フランスの隣で寝るんだぞ!」
「ぼ、僕、フランスさんの隣がいいです!」
アメリカやカナダの発言に隠れて密かにイギリスが俺もフランスの隣に何て言っていたが二人の発言にかき消されていた。カナダとアメリカが睨みあう。
「フランスの隣は俺のものなんだぞ!」
「ちっ違うよ! フランスの隣は僕!」
こればっかりは譲れないと二人は睨みあう。そんな二人を見ながら、フランスは苦笑している。
「相変わらず、お兄さんモテモテよねー」
「いってろばかぁ!」
二人の言い争いに割って入ることができないイギリスは悔しさを紛れさせるようにフランスを罵った。
イギリスが二人の勢いにおされてしょぼんとしているのは可愛そうだが…
「…しょうがないなぁ」
フランスは嬉しくてでもくすぐったいような気持ちで微笑った。
「大丈夫だよ。アメリカ、カナダ。お兄さんの隣は左右両方あるんだから。」
フランスの言葉にひっそりとイギリスは彼に尋ねた。
「お、俺はどうなるんだよ」
「えー、イギリスははカナダかアメリカの隣で」
フランスがそう答えるとイギリスは複雑そうな顔をしていた。因みにアメリカとカナダはフランスの先ほどの発言でおとなしくなった。
「さぁ、みんなで寝るんだぞ!」
イギリスには可哀想だけどたまにはいいよね…
ようやく寝る場所が決まって四人はごろんと転がった。
案の定イギリスが布団からはみ出てタオルケットにくるまっている。
「川の字なんだぞ!」
「四本だけどね。」
アメリカが嬉しそうに声をあげるとカナダがすぐさまつっこんだ。
まったく、この子達はなんて可愛いのだろうか。
「川の字か〜あの頃でもしたことなかったのに、なんか不思議な感じだね、イギリス。」
「一緒に暮らしてた時か?確かに四人一緒に寝ることはなかったなぁ…」
床に直接寝ると身体が痛いが我慢だとイギリスは自分に言い聞かせる。チャンスがあればフランスの隣に転がり込んでやる。イギリスは密かにそんなことを思う。するとフランスがこんなことをいってきた。
「川の字か〜あの頃でもしたことなかったのに、なんか不思議な感じだね、イギリス。」
フランスの言葉にイギリスは昔を思い返しながら答えた。
「一緒に暮らしてた時か?確かに四人一緒に寝ることはなかったなぁ…」
あの頃はアメリカとカナダを一緒のベッドに寝かせて、フランスとイギリスは別々のベッドで寝ていた。アメリカたちに比べ、イギリスたちは大人で一緒のベッドに寝るなんて可笑しかったからだ。
「みんなで寝ると楽しいですね」
カナダがふわふわ笑いながらそう告げた。
「あの頃もしとけばよかったよ。四人で寝ると気持ちぃね…」
そうフランスはふわりと笑った。
それに合わせてカナダがぎゅっと抱きついてくる。
「!?なぁに?珍しいカナちゃんが甘えたさんだぁ。」
そう言ってフランスもカナダをぎゅっと抱き返した。
「あっ、カナダだけずるいんだぞ!」
アメリカがそう告げてカナダに負けじとフランスに抱きついてくる。
「なんか今日はアメリカも甘えたさんだね」
嬉しそうにフランスが笑う。その様子にちりちりと心が焦げ付いてイギリスは叫んだ。
「俺もっ」
そこまでいってイギリスは自分が抱きつくところがないことに気がついた。
「うっ」
イギリスが行き場のないことに気づきうっと詰まった。
そんなイギリスにフランスは困ったように苦笑する。
「もう、イギリスってば、お兄さんでしょうが!」
そう言うとイギリスがしゅん、としてしまった。
「まったく、君はこどもかい?」
「お前にだけは言われたくねぇ」
アメリカの言葉にイギリスがそう返す。その言葉に確かにと苦笑するのはカナダだ。フランスはすんでところで笑いを噛み殺した。
「もー、イギリス。八つ当たりしないの」
「そうだぞっ! 八つ当たりする男はカッコ悪いんだぞ」
フランスを味方につけたと思ったアメリカが続けてふんぞり返る。イギリスはその言葉にカチンときたがなにも言えない。
こんな幸せな夜にケンカなんてしたくない。
フランスはそっと上半身を起こしてアメリカを乗り越えるように手をついた。
「昨日も一緒だったし、明日も一緒だから、ね?機嫌なおしてよ。」
そう言って頬にキスを落とす。
するとイギリスは真っ赤になって布団に潜り込んだ。
フランスはそれに満足して体をもどす。
そんな二人を真下から見ることになったアメリカが真っ赤になっていた。
「な、なな!人の上で何してるんだい!」
いきなりのキスに驚いてイギリスは布団のなかに逃げ込んだ。まぁ、その顔は当然のように嬉しそうだったのだけど。アメリカの抗議にフランスは軽い謝罪をいれる。
「あっ、ごめんごめんアメリカ」
「なっ、なんか謝罪が軽いような気が」
「気のせい気のせい。さぁ、もう夜も遅いし寝ようなー」
子供をあやすように告げられた言葉にアメリカは少し文句を告げたがすぐに静かになった。
結局俺たちはなかなか寝付けやしなくてなんだかんだと眠りにつくころには2時を回っていた。
四人でこんな風に過ごせる時間がとても愛しい。
イギリスと二人で過ごせる時間がとても愛しい。
夢ではイギリスの隣にいれますように。
フランスはそう願いながら眠りについた。
イギリスは隣のアメリカに脇腹を蹴られて目をさました。これ以上蹴られてはたまらないと思い、イギリスが布団を彼に明け渡すと当然のようにアメリカは一人で布団を陣取った。イギリスはそんな彼に途方にくれたが、ふっとフランスの方を見ると、アメリカとの間に一人分くらいの空きスペースができている。これ幸いとイギリスはその空きスペースに入り込み、見事フランスの隣をゲットしたのだった。
「ん…?」
フランスは体に絡み付く感覚に目を覚ました。
寝返りをうちたかったのに…
からだが動かない?
ふっとフランスは瞳を開くと
「っつぅ!?」
大声で叫びだしそうになるがフランスは慌てて声を抑えた。
「な゛、なんで?イギリスってばいつの間に?」
とりあえず絡み付く腕をなんとかしたいが…
離れない。
「どうしよう…」
窓から少しばかりの朝日が部屋の中に差し込んできている。朝と言えば今は朝だが、まだ早朝だ。そんな時間に幸せそうに眠るイギリスを起こすのは忍びなかった。
「どうしよう……」
フランスはそう呟く。すると、その言葉に反応してカナダが身体を起こした。
「ふぁ、どーしたんですかぁ?」
寝ぼけ眼の彼はまだ夢と現実の間をさ迷っていた。
「あっ、おはよう。カナダ。」
もぞもぞしていたため起こしてしまったのかカナダを起こしてしまった。
「起こしちゃってごめんね…」
「ふ、ぅえ?い、いえ、それはいぃですが、どうしたんです、か?」
カナダはねむたそうに目をこすりながら俺を見てそして盛大に固まった。
寝ぼけているカナダはフランスの方を見て事情を察したのか、欠伸をし ながら口を開く。
「ふぁ、朝から仲良しですねー」
安心しました。カナダはそんなことをいいながらタオルケットに再びくるまる。どうやらまだ完全には目覚めていないようだ。
「あの、カナダ……? 悪いんだけどお兄さんを助けてくれるとうれし」
「ふにゃ、メイプルもうたべられません〜」
今さら助けを求めてみたが、その頃にはカナダはまた夢の世界へ行ってしまっていた。
もう一度眠っていたカナダを起こしたくなくてフランスはじっとした。後ろ目に背後の様子を見るとやはりイギリスが背後からしがみついている。
フランスはそっとイギリスの腕を撫でる。
ふっと腕に何かが触れた気がしてイギリスがゆっくりと瞳を開けると、視界いっぱいに金髪が広がっていた。
「ん……?」
一瞬なんだかわからなかったが、すぐにフランスの髪だということがわかった。ほんのり甘そうな匂いがする。
「…………起きたの? イギリス」
そんなことを考えているとフランスが小さく声をかけてきた。
イギリスがもらした声にフランスはイギリスの覚醒を知った。
「やっと起きた。とりあえずなんでお前俺の横にいるの?」
まず、一番気になってたことを聞くと、
「隣が空いてたから。」
と答えになってるようでなってないような返事を返された。
「と、とりあえず離れてくんない?」
離れろとの言葉にまだ寝ぼけているイギリスは素直な気持ちを告げた。
「いやだ」
「えっ、なにいってんの?」
「もう少し…」
イギリスはそんなことを言いながら、腕の力を少し強くした。フランスがそれにびっくりしたのか少し身体を固くしたのがわかった。だけれど、イギリスには離れる気はないようだ。
うん。顔絶対赤くなってる。
な、なんなんだろう。最近のイギリス、デレモードが多い…
「お兄さん、もたないよ…」
「ん?なんか言ったか?」
「なんにも…それより、離してよ。朝ごはん作りに行くからさ…」
朝ごはんの単語にアメリカがが反応した。
「お腹が減ったんだぞぉお!」
しかも飛び起きた。イギリスがそれに反応して、フランスから慌てて離れていく。アメリカが寝ぼけたままで告げる。
「ハンバーガーが良いんだぞー……むにゃむにゃ」
そしてまた布団のなかに戻っていった。イギリスはそれでやっと意識が完全に覚醒したらしい。
「おおお、おはよ」
「うん、おはよー」
真っ赤になってそんなことを告げるイギリスにフランスは苦笑した。
「それじゃぁ、ま、お兄さんは朝ごはん作ってくるからお前ももう少し寝てていいよ。」
そう言って頬にキスを落としフランスはキッチンに向かった。
今ごろ赤くなってるかもな〜
キッチンについてまずは食材を見渡す。
泊まる予定はなかったがイギリスのために買い込んでおいた食材があって良かった…
でももう一回買い出し行かないと行けなくかるかな?とフランスは思う。
なんせ、アメリカもそれには劣るがカナダも食べ盛りなのだ。
フランスが食材を見渡し何を作るか決めて調理に取りかかろうとした時、階段を降りる足音が聞こえてきた。
「ん―?誰が起きてきたの?」
キッチンにやって来たのはアメリカだった。眠い目を擦りながら、アメリカは顔をしかめている。
「ぐっもーにんなんだぞー。ねー、フランス。なんかイギリス熱があるみたいなんだけどー」
間延びした声にフランスは苦笑する。イギリスはフランスの予想通り真っ赤になっていたようだ。アメリカはマイペースに体温計と呟きながら、食器棚の中を探している。やっぱりまだ寝ぼけているようだ。
「アメリカー? お兄さん、食器棚の中にはないと思うなぁー、体温計は」
「んぁ?」
声をかけてみるもののアメリカはわかっているのかいないのか生返事しかよこさない。
まったく…
フランスは手を止めて棚から体温計を取りアメリカに渡してやる。
「ほら、持ってけ。別に熱はないと思うけど気がすむまで計ってこいよ。」
「ありがとう、フランスー。カナダー体温計だぞー」
フランスから体温計を貰ったアメリカはカナダの名前を呼びながらキッチンに戻って行った。フランスがその声に苦笑する。
「イギリスはどうしたんだよ」
そんな呟きを漏らすと洗面所の方からイギリスが現れる。
「俺がなんだよ」
どうも顔を洗っていたようだ。フランスはなんでもないと首をふる。
「カナダー、体温計なんだぞー、両手をあげろー」
「ふぁっ、クマ吉さん、ちょっと太った……?」
寝ぼけ眼の二人はそんなカオスな会話を繰り広げていた。
「ふふっ。二人とも寝ぼけちゃって。かわいいよね〜ね?イギリス。」
「あ、あぁ。で何してんだ?あの二人。」
フランスは手を動かしながらもイギリスに答える。
「なんかね、イギリスに熱があるからってアメリカが体温計取りに来たんだよ。」
「……アメリカが俺のことを……!」
イギリスは久々に弟に心配されて嬉しいようだ。感動の涙を流しそうな勢いである。
「でもなんかそのうち興味がカナダに移っちゃったみたい」
残念だったね、と苦笑するフランスに対して、イギリスはがっくりと肩を落とす。それから、慰めてほしそうにちらりとイギリスはフランスの方を見た。
ぁ、その目線…
フランスは巻き終わったオムレツを皿に移して一度フライパンを置いた。
本当は一気に仕上げたかったんだけど…
「い―ぎ―りすっ!」
そう言ってフランスはイギリスに抱きついた。
「拗ねない拗ねない。ね?」
そう言ってぎゅっと力をこめる。
「機嫌なおして。」
ちゅっと頬に音を立ててキスを落とした。
するとイギリスは真っ赤になる。
「べ、別に拗ねてなんかねぇよ!てか何してんだよ!」
慌てるイギリスに対し、フランスは可愛らしく尋ねてくる。
「お兄さんのキスじゃダメなの?」
アメリカに心配された方が嬉しいの?
そんな風に言われた気がして、イギリスは真っ赤になりながら素直に答える。
「だっ、ダメじゃ、ない、けど」
「じゃ、もう機嫌なおった?」
嬉しそうにフランスが笑う。イギリスはその問いかけにそっぽを向きながら答えた。
「別に、拗ねてなんかなかったんだからなっ!」
「なら良かった。」
フランスは最後にもう一度、今度は唇にキスを落として調子良くもう一つのオムレツにとりかかった。
「に、ニヨニヨしてんな、ばかぁ!」
「何してるんだい?君たち。朝から大声出したりして、」
近所迷惑なんだぞ、とようやく目が覚めたアメリカが声をかけてきた。
「まったく君たち朝っぱらから暑苦しいんだぞ」
アメリカが肩をすくめながらわざとキッチンを通って洗面所に向かう。
「なっ、なにいって」
「いちゃつくなら隠れてやりなよ」
鼻で笑ったような声にイギリスが真っ赤になってなにも言えなくなる。カナダもその声に起き出してきた。
「君の声が一番うるさいよ、アメリカ」
フランスは何事もないふりをして料理に意識をうつす。しかし、その両耳は真っ赤だった。
4つ全てのオムレツを焼き上げてサラダと一緒にトッピングする。
焼き上がったパンと共に食卓に並べている間にイギリスは紅茶をいれたら立派な朝食の完成だ。
「よし、出来た。アメリカ―カナダも朝食出来たからおいで!」
フランスはリビングの片付けをしていた二人を呼び食卓に腰かける。
呼ばれてやって来た二人も座り終えた頃ティーカップを持ったイギリスも戻ってきた。
四人分のティーカップがそれぞれに配られる。アメリカは少し嫌な顔をしたが、隣のカナダに肘で小突かれて表情を変える。
「なんで小突くのさ、きみ」
「理由は君の心に聞いた方が早いよ」
「……わかった! カナダは寂しがりなんだな!」
俺にかまってほしいんだろう!
自信満々のアメリカの言葉をすぐさまカナダは否定する。
「違うよ!」
「じゃれあいもその辺にしろよ、お前ら」
二人のやり取りを見ながらイギリスが呆れている。
イギリスも席について食べはじめた。
それにしても…
「朝からすげ―食欲だな。お兄さんびっくり。」
アメリカのだけみんなの倍の大きさでオムレツを焼いておいたのにペロリとたいあげられた。
「ま、作った人間としては嬉しい限りだけど…」
アメリカの横ではカナダもオムレツ(普通サイズ)を食べ終わってイギリスの入れた紅茶にメイプルシロップを追加してた。
早々に食事を終えそうなアメリカに対して、イギリスが禁句を発する。
「アメリカ、お前最近、体重」
「その話題は禁止なんだぞ!」
しかし、アメリカは最後までイギリスに言わせない。それを見て思い出したようにカナダが口を開く。
「でも、最近、アメリカ、触り心地がなんか柔らかくなっ」
「あーあーなにも俺には聞こえないー! きっこっえっなっいっ!」
必死に抵抗するアメリカ。
「体重計は風呂場にあるよ、アメリカ」
追い討ちをかけるようにフランスが最後に告げた。によによと笑うアメリカ以外の三人。アメリカはその視線なんか気にしないと言うようにかぶりをふった。
「あ、お前らその話はそこまで!早く食べろ!学校、遅刻するぞ!」
フランスはふと時計を見て慌てたように声をかけた。
「うわっもうこんな時間じゃねぇか!お前ら食べ終わったんならさっさと支度してこい!」
イギリスもそう言うと二人を洗面所に追いやり自信も食べ終えた食器をシンクに置き二階へ着替えに行った。
なんか急に慌ただしくなっちゃったな…
フランスは食器を軽く水で洗い流しながらそれでも楽しくてクスクス笑った。
いきなり部屋の中が慌ただしくなり、ドタバタとみんなが学校へいく支度をしてる。
「あっ、それ僕のネクタイだよアメリカ!」
「フランス! 俺の上着知らないか?」
「イギリス! それ俺のスラックス!」
「あー、俺の鞄がどれかわからないんだぞ! これかな?」
口々に相手の話を半分聞き流している。お互いにあーでもないこーでもないと言いながら、準備を進める。一番早くに支度を終えたフランスが時計を見て悲鳴をあげた。
「やばい!このままじゃ遅刻する!」
フランスはまだバタバタしている3人を放っておいて戸締まりに回った。
窓に鍵をかけ、火の確認をする。ようやく戸締まりを終え玄関に行けば準備を終えた3人が待っていた。
「おい!早くしろよ!」
そう呼ぶイギリスのもとへ駆ける。
「じゃあ行きますか!」
そうして四人は家を飛び出し、学校までの道のりを駆け出した。
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