君の心に触れさせて

すれ違う心



 言葉があふれる。

 止められない。

「イギリス、一度もこっち見ようとしない。俺のことなんて見るのもいや?」

「そっ」
 あふれてしまった言葉に反応してイギリスが何かを叫ぼうとしたのをさらに遮ってフランスは言葉を続ける。
「調理室からずっとだよね?俺何かした?イギリスは俺のこと嫌いになった?なんでだろう。苦しいんだ。胸が、苦しい。片想いしてた時よりずっと、胸が苦しいんだ。」
 そう言って胸元を握りしめた途端、耐えきれなくなった涙が一筋流れ落ちた。

 違う。違うんだよフランス。俺は…。言おうと思ったことが全く持って言葉にならない。違う。フランス、俺は、お前が。思わず、席から立ち上がりかけたとき、また謀ったように部屋の扉があいた。

「フランス、お前ほんと考え直したほうがえぇよ!」

 やって来たのはスペインでそれだけ言って帰っていった。フランスが呆然と閉められた扉を見つめる。イギリスはそれでやっと口を開くことができた。

「俺は…」
 みっともなく声が震える。それでも言わなくてはいけないと、イギリスは強く思っていた。

「俺は…」

 そう必死に言葉を紡ぐイギリスの声はしかし、フランスには届いていなかった。
 フランスは呆気にとられた顔でスペインが去っていった方を見ていたからだ。

 フランスはこちらを見ない。
「フランス」
 名前を呼ぶとフランスの肩がびくりっとはねあがる。
「フランス、俺は…」
 振り向かないフランス。イギリスはそのそばにゆっくりと近寄っていく。手をのばして彼の身体を抱き込む。彼の髪からはなんだか甘い匂いがした。
「俺が、」
 ひっそりと謝罪の言葉を彼の耳元でささやく。

「悪かった」

 そう耳元で囁かれた瞬間堪えていた涙は完全に決壊していた。

 後ろから抱き締められた体をゆっくりと向かいあわせにされる。

 泣いてしまったことが恥ずかしくて今度はこちらが目を合わせられなくなる。
 目線を斜め下にうつむき加減になっていると目元にそっと指が当てられる。イギリスの指は優しく涙をぬぐってくれてそのまま手を滑らし頬に添えられた。コツンと合わされた額に否応もなく視線が重なる。
「…イギ、リ、ス…」

「フランス…、好きだ」
 告げると恥ずかしそうに頬を染めるフランス。そんなフランスが可愛くて、キスをしようと思ったのだが…。

「ただいまっすー! えへへっ、今度はベルギーさんにワッフルもらいました!」
 元気よくセーシェルが帰宅した。俺が言うのもなんだが空気読め。イギリスはそんなことを思いながら、フランスにキスを迫った。

「好きだ」
 そうごく自然に言葉にされたのが嬉しくて、「俺も」と言葉ごとイギリスの唇に吸い込まれ、ると思いきや、突然開かれた扉に全身が緊張する。
 そうだセーシェル!
 瞳わ横にずらせばワッフルを構えた状態でフリーズ知ているセーシェルと目があった。

 固まった俺を再び動かしたのはセーシェルが要るにも関わらずまだキスをしようとしているイギリスだ。
「ちょ、ちょっとまっ、いぎ…」
 セリフは最後まで紡がれることなくイギリスの唇に塞がれてしまった。
「んっ、ぁっ、イギ、リスっぅ、だめっ」

 セーシェルも突然始まった口付けに固まっていたがイギリスの視線を受けて、「し、失礼しましたぁ!」と真っ赤な顔で生徒会室を出てしまった。

 セーシェルが脱兎のごとく部屋から逃げ出していった。だが、イギリスはそれを気にすることなくキスを続ける。フランスが腕の中から抜け出そうとするが、それを強い力でとどめる。扉は開けっ放しだ。後でセーシェルに注意しよう。イギリスはそんなことを思いながら、フランスから唇を離した。腕の中で真っ赤になっているフランスがかわいかったので、もう一度キスをしようとせまったら本人止められた。
「ちょっ、たんまっ! 一度落ち着こう、イギリス。ドア開いてるし…!」
 告げられた言葉に、表情で不満をあらわにするが、フランスはほだされてくれなかった。

「誰かに見られたらどうすんの!」
 そう言って肩を押した。その出来た隙間から抜け出して扉を閉める。
「なんだよ。見られたら困るのかよ。」
 後ろからはそんなふてくされた声が聞こえる。
 フランスは扉が閉まっていることを再度確認し、振り向き、そのままの流れでもう一度、今度は自分から抱きついた。
「何言ってるの。俺たちは国、なんだよ?今は平和でも何時なんどき何が弱味になるかわからないんだ。」
 知ってるだろう?とイギリスを宥めた。

「弱味握り返したらいいだろ」
 自信たっぷりに笑う。あいにくイギリスはそういうことが得意だし、フランスだって似たようなものだ。第一、イギリスやフランスの弱味を握って得になる人物はいただろうか。ぼんやりとそんなことを考えながら、フランスの肩に顎をのせた。
「悪どい顔」
 楽しそうにフランスが笑う。
「でも、そういうかおも好き」
 そうやってフランスが言うものだから、イギリスはなんと答えて良いのか迷った。やっぱり、素直になるのは難しい。ふっと我に返ると自分の言動が恥ずかしくなるからだ。

 ふと困った顔をしたイギリスに小さい頃のイギリスの姿が重なった。
 昔からイギリスは素直じゃなかった。素直になれなくて時たま言葉を言い渋ったり、言いづまる時があった。そういう時は必ずと言って目線が合わないようにキョロキョロしてるのが可愛くってわざと怒らせたりも…

 あれ?

 今考えたことに既視感が…

 それって今のイギリスに似てない?

「そっか…」
 胸にストンと落ちてきた感覚とともに自分の愚かさに笑いが込み上げてくる。
 そんな姿に「な、なんだよ!」とにらんでくるイギリスを無視してフランスはとても綺麗にほほえんだ。

 どうして忘れてたんだろう。こんなに、こんなに簡単な事なのに。

 そのままフランスは今度は自分からイギリスにキスを落としその肩に顔を埋めた。
 すると、「な゛、」っと驚いた様子はあったがそっと腰を抱き返してくれた。少し目線を上げると耳元が真っ赤に染まっているのがよくわかる。

 イギリスのことが好きで、好きで、すきで、すきすぎて、イギリスの性格とかとても単純なことに盲目になっていた。今日のあれもこれもイギリスの性格を考えたら仕方ないことだったのに、

「俺ってばか。」
 自嘲するように呟いた言葉にイギリスは「あっ?」と聞き返してくる。それに正面から目を合わせて

「イギリスのことが大好きってことだよ」

 と告げた。

 告げられた言葉に顔が真っ赤になった。自分の真正面で微笑むフランスは昔と寸分たがわず、とても綺麗だ。

「……おう」
 そんなことを考えていたら、間抜けな返事をしてしまった。鼻でそんな情けない自分を笑われるかと思ったのだが、フランスは昔と違ってイギリスを笑わなかった。フランスの青い瞳がイギリスを映す。どんなに取り繕ってもその瞳の前ではイギリスは無力だ。カッコいいところを見せようと思ってもいつもうまくいかない。

「フランス、俺もお前のことが」
 喉の奥がひきつる。だが、好きだと言いたかった。
「好きだ」
 部屋の中で反響する声がずいぶんと頼りない。しかし、これが今のイギリスの精一杯だ。
「キスしようよ」
 フランスが柔らかく笑ってくれる。首に回った腕が愛しい。誘われた通りに唇を奪ってやれば、喉の奥で嬉しそうにフランスが笑った。その余裕さが少し腹立たしかったので、フランスの舌をきつく絡めとってやった。

「ふっ」
 いつもよりきつく吸われ、声がこぼれてしまう。
「んっ」
 くちゅ、ぴちゃ
 鳴り響く水音に聴覚ごと犯される。

「ふぁ、い、ぎり、すぅ」
 足元が震えるのをイギリスにしがみつくことで耐えた。

 いったん唇を離し、フランスの顔をまじまじと見る。快感に震える表情が色っぽい。艶やかにそまる顔色にイギリスの心が急いた。
「んっ、いぎり…す…」
 見上げてくる青い瞳にイギリスは自分の体が熱くなるのを感じた。

とさっ

 突然宙に浮いた体がすぐにソファに着地する。

 その衝撃を目をつむって逃し、次に瞳を開くととても間近に翠緑の瞳があって、
 吸い込まれそうなその瞳に釘づけになった。

 だんだん近づく緑に焦点が合わなくなったと感じた瞬間再び唇に熱を感じた。

 ソファにフランスを押し倒すとイギリスはもう一度彼にキスをした。角度を変えながら口内を犯すとくぐもったフランスの声が耳に届いた。逃げる舌を追いかけ、絡めとる。激しい口づけはフランスの瞳を蕩けさせた。キスをしながら、イギリスは彼のセーターに手をかける。
「まっ…、ちょっと…、まって…ッ」
 フランスがそれに気がついて唇を無理矢理引き剥がして待ったをかける。

 イギリスとの口づけは本当にきもちよくて、

 うっかり流されそうになった。

「ま、まって、まって!こ、ここ、学校だよ?」
 そう言って引き離すと眉をしかめて
「だから?」
 と返された。

 こんの、エロ大使!

「気にすんな」
 そっけなく返せば、フランスが憤慨する。
「気にするよ! だっ、第一、この部屋鍵かからないし…、こんなとこ誰かに見られたら…ッ!」
 抗議するフランスの太ももをやわやわと撫でながら聞き返す。
「見られたら……?」

 ふとももを撫でる手に背筋に何かが走ったように感じた。
「んあっ!っぅ、い、イギリス、だめだって、」
 それでも例え人の出入りが少ない生徒会室でも学内なのだ。
「だめだって、っひあぁ!」

 首筋に口づけるとフランスの身体がビクビクとはねる。いまさらとめられねぇ。イギリスは止める気もないのに言い訳がましくそんなことを思う。
「やっ…、ホントッ……、ッ、まっ…て!」
 太ももの内側を優しく撫でれば、フランスが快感から逃げようと身体をひねる。

 思わず体が逃げようとするフランスを押さえつける。

 より強く押さえられ、ふと気付くと、シャツのボタンが外されている所だった。

 やめ、もう止まらなくなる!と最後の力を振り絞ったがそれもイギリスの手が胸元をかすった感覚に全身が総毛立ち力がぬけてしまった。
 フランスの胸に手を這わせれば、甘い声をあげる。あらわになったそこを優しく撫で上げれば、フランスはいやいやと首をふる。
「いぎっ…りす…、ホンっ…トに……、ッぁ…」
 イギリスを止めようとする手が肩をか弱い力で押し返す。
「……やっ…だッ…て…、ここじゃ…、んっ」

 いっそこのまま流されてしまいたい。

 ぼんやりしだした思考の端でそう思う。

 でも、

 校庭から校内から放課後を満喫している生徒の声が響いている。

 …ここだけが、別世界みたいだ。

 イギリスから与えられる快感に流されかけた時、ひときわ強い刺激に体がはねる。

「っは、だ、めぇ!」

 涙でかすみ始めた視界でイギリスがいつの間にかベルトを外しフランスのものを取り出していた。
 そっと握られた手がゆっくりと動き出す。

「んっ、っは!ゃぁあ!だめ、だ、って、イギリス!」

 目の前で喘ぐフランスにイギリス自身、自分をうまくコントロールできていない。嫌だと言うフランスもまた扇情的なのだからしょうがない。欲望の赴くまま、イギリスはフランスの身体を撫でていった。
 フランスのものを緩急をつけながらすきあげるとひときわ甘い声があがる。ぼんやりと聞こえる喧騒は扉一枚しか隔てていないのに、とても遠くで起こっていることのように思えた。今のイギリスには目の前のフランスが全てだ。

「んっん゛―」

 既に快楽に沈められた体はあと戻り出来ないぐらい高められてしまった。
 それでも、否定の言葉しか紡げない俺に業を煮やしたのかイギリスが己の唇で俺の口を封じてきた。
「んっっはぁっふっ」

 その間にもイギリスの手は止まることを知らず、フランスのものは固く立ち上がっている。
 先をぐりぐりと抉る指に、口付けに、視線に、イギリスの全てにフランスは犯されていた。

 口づけは深く、フランスの言葉を奪う。涙で滲んだ青い瞳がイギリスの姿を映す。強くフランスのものをすきあげれば、彼の身体は大きく跳ねた。そこまできてふっとイギリスはあることに気がついた。いったん唇を離して、呟く。彼の目の前ではフランスが乱れた息を整え始めていた。
「ローション、この部屋にねぇな……」
 いつかはここでやろうとは思っていたが、まさか今日そんな事態になるとは思いもよらず、イギリスはそこまで用意していなかった。

 体があつい。

 イギリスに高められた体は既に取り返しのつかない所まで熱を孕んでいた。

 なのに、

「ローション、この部屋にねぇな……」

 そうイギリスの言葉が聞こえた瞬間手は勝手に自らのカバンを指差していた。

「ローション、は、ない、けど、ハンドクリームはある、か、ら」

 吐息とともに声を紡ぐ。
 だから最後までシテ

 そう、耳元で囁いて自分からキスをねだった。

 限界を訴える体は思考と現実を曖昧にさせる。

「もっと、」

 と囁いた瞬間イギリスはばっと体を離し、乗り上げていたソファーを降りカバンを漁り出した。

 かばんからころんと出てきたのはチューブに入ったカモミールのハンドクリームだ。

 イギリスはそれを掴み、直ぐに再びフランスの上に覆い被さった。

 ハンドクリームを探す時間さえ惜しい。荒っぽく鞄を漁りながらイギリスはそんなことを思う。わりとはやく探し当てられたそれのフタを開けてから、イギリスはフランスの太もも辺りに申しわけ程度にひっかかっているズボンと下着を彼の足元まで一気に引き下ろす。それからフランスの後孔が見えやすくなるように、彼の両足を高く持ち上げた。そり返ったフランスのものと、濡れそぼった後孔がイギリスからはよく見えた。カモミールの匂いがするハンドクリームを掬い、イギリスはフランスの後孔にそれを塗りこめる。

「ふっや、ぁっ」

 カモミールの香りを感じたと共に後孔にイギリスの指が挿入されるのを感じた。

「っぁ!あっ!」

 いつもよりも早急なその仕草に体が震える。

「ゃっ!ぃ、いぎりす!っぃったぁ!っあ!」

 ぐいぐいと押し込められた指が痛くてもう少しゆっくりと口を動かそうとするが、イギリスに自分の良いところを刺激されてただの嬌声にしかならない。
 今までとは比べ物にならない刺激に声を抑えられず喘ぐ。

「ん゛あ゛!っぁ、ああぁ!」
「ちょっと黙れ。外に聞こえる。」
 あまりにも止められない声にイギリスはフランスの口をふさぎ、それと同時に自らを挿入した。

「む゛、ん゛―っ!」
 いきなり突き立てられた熱に悲鳴を上げるがそれもイギリスの手のひらに吸い込まれた。

 あまり慣らしもしなかったが、すんなりとイギリスはフランスの中に入ることができた。ふっとドアの向こうの近いところで誰かの声が聞こえて、慌ててあんなことを言ってフランスの口を塞いだ。声の主は知り合いではなさそうだが、見られたら面倒だ。動きを止めてフランスを見るとその瞳からボロボロ涙が溢れていた。無理をさせたなとイギリスは罪悪感に駆られた。ドアの向こうで誰かの声と足音が通りすぎる。
「……フランス」
 名前を呼べばフランスの濡れた瞳がこちらを向いた。フランスが何か言いたげな顔をしたが、なにも言わなかった。
「……辛いなら、指噛んでもいいぞ」

 指を噛む?
 そう言われた瞬間反射的に返事を返していた。

 声を押さえなきゃいけないのはわかってる。その為には何かを噛み締めるのが一番で、そのためにイギリスが提案してくれたのも解ってる。

 でも、

「イギリスの、ゆび、好きだから、ゃぁ、だっ!」

 頬に、目尻に、唇に。触れてくれるイギリスの綺麗な指が大好きだから。

「絶対、きずつけたく、ないっ!」

 そう言いきりフランスは己の手の甲に歯をたてた。

「おっ、おい!」
 フランスが自分の手の甲を噛んでいるのを見てイギリスは慌てて、そのくちに自分の指を割り込ませようとした。
「噛むなよ…!」
 先ほどとは正反対のことを告げてフランスの唇付近を撫でる。指をなんとか彼の口にいれてやろうとするが、フランスは頑として口を開かない。
「口をあけろ、フランス」
「や、らぁ…」
 少しだけ厳しい声色で言ってみたが、フランスはそれを拒否した。

「ぜったい、やだ!」
 イギリスの指を傷つける。そう考えただけでいやでいやでしょうがなくてより一層手の甲を噛み締める。
 そんなフランスにイギリスは慌てたように無理矢理腕を引き抜いた。
「あっ、だめ!」
「っの、馬鹿!歯形どこれか血がでてんじゃねぇか!」
 どんなに強くかみしめたんだよ、とイギリスの指が手をなぜる。
「だって、」
 傷つけるなんて絶対嫌だったんだ。
「だってじゃない!ったく、わかった、わかったから、これ、こっち噛んでろ。」
 そういって口に添えられたのはイギリスのネクタイだった。
「っでも、これ!」
 いつも身だしなみをきちんと整える彼を気遣ってそう応えると、
「いいから!」
 といって無理矢理口に噛まされた。

 我ながら切羽詰まった選択をした。
 イギリスはフランスの口に自分のネクタイを噛ませながらそんなことを思う。指くらいどうってことはない。むしろお前が傷つく方がよっぽど嫌なんだ。そうやって思うもののイギリスはそのことを口に出せなかった。かわりに傷ついたフランスの手の甲を優しく撫でる。それから、思い出したようにイギリスは腰をゆっくりと動かしはじめた。
「んんっ…、んっ…、…ッ」
 フランスの噛み締めたネクタイがじんわりと色を濃くしていく。

 再開された律動と共に腰がはねる。
「っぅ、ん、っは、」

 もうイギリスのことだけしか考えられない。

 激しさをます律動にフランスは己の限界が近づいてることを感じた。

「い、いぎ、ひ、すぅ、っぁ!んっ!も、もぅひ、ひっちゃ!っあ!ひっひゃう!」

 そう己の限界をネクタイ越しに訴え、その首に腕を回す。

 すると開いた口の端から銀の筋が流れた。

 その姿を見てイギリスは興奮してくれているのだろうか?

「む、ふぁ、や゛っ、ま、またおっひくなったぁ!」

 限界を伝える声に欲情する。首にまわされた腕がいとおしい。律動を繰り返す。フランスのこと以外考えられない。いや、フランスのこと以外考えたくもないんだ。フランスがあられもない可愛らしい声をあげ、イギリスの下半身に熱が集中する。すがりついてくる腕が快感に震えている。

 フランスが、好きだ。

 視界の端で揺れる金糸と耳に届く声に改めてイギリスはそう思う。
「いぎっ…ッ…り、すぅッ…ッん」
 名前をその声で呼ばれるのが一番下半身にクるんだよ、バカッ!

頭の中が真っ白になる。
「ふ、らんすっ」
掠れた声で耳元で名前を囁かれた瞬間頭の中が弾けた。

「っぁ!ぁああああ!!」

 体の熱が弾ける感覚と共にあられもなく声を上げた。
 体が弓なりにしなる。
 全身の筋肉が収縮したと共に体の中でイギリスの熱がはじけたのを感じた。
「あ、ぅぁ、っ!あっつぃ!」
 そのすぎる快感が怖くて俺はイギリスにしがみついた。

 強い力でしがみつかれて、怖がるフランスと目があった。小さく笑ってやれば、相手が少しだけ安心したように見えた。荒い息をしながら、快感の余韻に浸る。息を乱すフランスを見ながら、イギリスはぼんやりと思う。生徒会室にどうやって風呂場を設けるか。問題はそこだ。

「いぎ、りす?」
 自分で思っていた真面目な顔をイギリスはしていたらしい。不安げにフランスがこちらをみている。
「ど…、か、した?」
「いや…」
「?」
「…………風呂場が欲しいな、と思っただけだ」

「へ?」
 イギリスの言葉を受けてフランスはぽかんとした。 
 快感の余韻に震える体をイギリスにしがみつくことで逃がす。そんな時にイギリスが怖い顔をするからもしかしたら俺とのセックスが気持ちよくなかったのかもしれないと思って不安になった。

 …だというのに…

 お風呂って…

 何だか体の力が余計に抜けるような答えに苦笑するが、ふと、はたっと気がついた。

「…イギリス、お風呂ってまだここにはないんですが…お兄さんこの後どうすればいいの?」

「あー、アレだ。プールのシャワーとか……」
 明後日の方向を見ながら告げる。
 畜生、この事を見越して風呂とまで贅沢言わないからシャワールーム作っておくべきだった。イギリスはそんなことを思いながら、フランスの方に向き直る。怒っていると言うよりはあきれている瞳と目があった。
「……ここからプールまで、すっごく遠いじゃん」
「……じゃあ、給湯室で」
「狭いよ」
 苦笑するフランスにイギリスはどうすれば良いのか必死で考える。

「だからダメって言ったじゃん」

 この後の事を考えておらずわたわたしているイギリスにそう呟く。
 いや、結局俺ものってたんだから同罪だけど…

「で、どうすんの?」

 さっきまで自分を組み敷いてた人とは別人のようにわたわたするイギリスにフランスはニヨニヨとした笑いながら聞いた。
「っそれは、だなぁ…」
 そう言いつつも目が泳いでいる。

 きっとイギリスの頭の中では最善の策とやらが練られているのだろうが。
 ま、この部屋を出た瞬間アウトだな。まだ下校時刻じゃないし。となるとこの室内、つまり給湯室しかない。
 ならば適当にタオルで体を吹く程度だなと算段をつける。幸い?衣服は脱がされて汚れてないしイギリスも幸いにも?中出しだからそう汚れはひどくない。

 というか、普段は頭キレるくせになんでこういう事には頭回らないかね坊っちゃんは…

 どうするか…。いっそ、トイレに放り込むか…? いっそトイレでやっとけば事後処理が楽だったな。イギリスの考えはだんだん横道へとそれていく。しかし、途中で我に返った。フランスがこちらに甘えるように擦りよってきたからだ。
「と、とりあえず、ティッシュだな」
 とりあえず、拭き取るものがあればあとはなんとかなるだろう。安易にそう考えてイギリスは部屋の中を見回した。

「と、とりあえず、ティッシュだな」
 そう言ったイギリスの言葉に眉を潜めるが現在フランスはイギリスに抱きついているためイギリスには見えないのが残念で仕方ない。
「ちょ、イギリス、お前さぁティッシュで拭いときゃいいやとか思ってない?」
 声に少し険を込めて見上げるとイギリスの顔にはまさしくその通りですと書いてあるように見える。
「だ、だからなんだよ?拭いときゃ大丈夫だろ?」
 あぁばっちし書いてあったらしい。
 お兄さん正解。
「あのさぁ、お兄さんを襲っておいて労りってものはないわけ?」

 イギリスの対応が悪かったのか、フランスが険しい顔をしている。しかしながら、イギリスには今の状況での最善策はこれくらいしか思い付かない。第一、労りって何すりゃあいいんだよ。不満げに相手を見れば相手も不満そうにこちらを見ている。奇妙な雰囲気のまま見つめあうのは変な気分だ。
「労るって、どんな風にだよ」
 一応、イギリスはそうやって尋ねてみた。すると、冷たい返事が返ってくる。
「それくらい、自分で考えろよ。坊っちゃん」

 あぁ、なんでこんな格好で喧嘩しなくちゃならないの?

 それでもイギリスは本当にさっぱりわからないという顔をしてこちらを見ている。

「はぁ。」
「な、なんだよ!」
 思わず出るため息に敏感に反応してイギリスが言い返してくる。

「なんだよって、後始末してくるの。どいて。」
 そう言ってフランスはイギリスを押しのけて服を拾い、鞄に入っていた体育の授業用のスポーツタオルを掴み給湯室へ歩く。

 しかし、2、3歩動いた所で直ぐにイギリスに腕を捕まれよろめいた。
「なに?お兄さん服来たいんだけど?」
 意識して無表情を装ったことが効をそうしたのかイギリスはひゅっと息を飲み手を放した。

 分かってよ。喧嘩なんてしたくないんだから。折れてやるからここを通して。

 どうにもイギリスはフランスの機嫌を完全に損ねてしまったようだ。咄嗟につかんだ手はフランスの冷めた顔にびくついて離してしまった。すたすたと給湯室に向かうフランス。
「おっ、おい、フランスッ」
 咄嗟に声をかけたがあとが続かない。
「……何?」
 面倒くさそうにフランスがこちらを振り向く。なんと言えばいいのかわからないが、イギリスはとにかく勢いに任せて叫んだ。
「お、俺も、手伝う」

「お、俺も、手伝う」
 何やら必死さもかもし出してそう言ってきたイギリスに正直吹き出しそうになった。
なにこの可愛い子!
「いいょ。給湯室狭いから。」そう言い俺はイギリスを振り切った。

 イギリスをずるいと思うのはこの時だ。
 俺は気分を害してた。最終的には俺も乗ったとは言え押し倒して挙句余韻浸らせてくれないひどい奴。
 
 でも、でも、そんな顔をされたら、そんな、

 遠い昔。
 実の兄に傷つけられて、全てに臆病になってたイギリス。
 俺に嫌われたくなくて、好きでいてほしくて、でもどうしたらいいのかわからなくて、

 途方にくれてたイギリスの顔。

 そんな顔をされたら全て許したくなってしまうではないか。

 フランスはやっとの思いで振り切り一人きりになった給湯室の壁にずるずると座り込んでしまった。

 イギリスは部屋の中に一人取り残された。フランスは給湯室の扉の奥に消えた。どうしよう。少しだけ、イギリスは途方にくれた。だが、なぜかイギリスは唐突にイタリアがこの前いっていた台詞を思い出した。

『恋愛って時々は強引なやり方をしないと上手くいかないよねー』

 それだ! イギリスは唐突に確信した。人間、切羽詰まった状態だといろんなネジが飛んでしまうようだ。イギリスはよくよく自分の行動の意味を考えもせずに給湯室の扉を開けた。

 ばん!と勢いよく扉が開いた時、フランスは扉を背に蹲っていた。

 イギリスは一瞬体調が悪いのかと慌てて見やるがフランスの指が後孔に突き立てられているのを見て事情を知った。

 フランスは何事かと驚いた顔でふり返っている。
「…手伝う。」
 その顔にぶっきらぼうにそう告げて、イギリスはフランスの腕を掴み無理矢理たたせてシンクの方にフランスの体を押す。
「えっちょっなんなの!?」
 突然行動を起こしたイギリスにフランスは戸惑いの声をあげるが、イギリスはフランスがよろめいてシンクのふちを掴んだのを確認し、フランスの声を全て無視してフランスの後孔に指を突き立てた。
「ひぃやっっぁあ!な、にしてんの!っあ!」
 
 信じられない。何してんだ、この坊っちゃんは!中で出したものを書き出そうとしているのは分かる。解るけどだなぁ!

「い、やぁ、はなせ、はっなせぇ!」

 そうは言ってもつい先程までもっと大きいものをくわえ込んでいたそこはイギリスの指などあっという間に飲み込んでしまった。

「はい。終わり。」
 終止無言で作業をしていたイギリスが作業の終了を告げて手を放すとフランスの体はずるずるとしゃがみこんでしまった。
 フランスはイギリスをキッと睨む。
「おっまえ何考えてんだ!」
 怒り心頭であるのに新しく反応している己の下半身が悔しい。
 イギリスはなぜ?という戸惑った顔でこちらを見ている。
 どうせこの坊っちゃんの頭の中では今のは良いことをしたとして捉えられているのだろう。
 余計なお世話だっつぅの!
 フランスは未だ戸惑っているイギリスを残し素早く衣服を身に付けて生徒会室を飛び出した。その時にアメリカとすれ違った気がするのは気のせいだと思うことにする。どっちにしろこの廊下の先には生徒会室しかない。

そのまま廊下を駆けていると
「自分何しとんの?」
「お前何してんだ?」
 と見慣れた友人達の姿を見つけてそのままの勢いで二人に飛び付いた。


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