あいの歌をもう一度

12

「ただいまぁ…」
フランシスが帰ってきた音にイングランドが元気よく駆け寄った。
「フランシス、おかえりぃ!」
その後ろをガリアとイギリスがゆっくりとついてゆく。
「おかえり。」
「おかえり、フランシス。」
「ただいま。あ、そういや今朝ギルベルトの話、してたよね?」
その名前にガリアの体がピクンと震える。
「さっき電話あってさぁ、明後日俺の仕事休みだから来るってさ。何だろう…」
2日なんてあっという間だった。
イギリスとガリアを一旦本社に持ち帰ってメンテナンスをしたいというアーサーの嘘の命令に、ギルベルトはフランシスの家にやって来た。だが、ギルベルトは迷う。アーサーの言うとおりにしなければならないのは、彼にだってわかっていた。だが、このままでよいとも思えない。フランシスの愛した彼女の記憶を奪い取ったままで、日常が過ぎていく。それはとても切ない。彼女やアーサーもギルベルトにとっては友人で、だからこそ、ギルベルトはアーサーに手を貸している。フランシスの家のインターフォンを見つめながら、ギルベルトは呟く。
「どうしたら」
誰もが幸せになれるのだろうな。だが、その呟きの答えは誰も知らない。すっとギルベルトは手をのばす。いつまでもここで突っ立っていても意味はないから。
「イギリス…」
ガリアは落ち着かなさげにきょろきょろしたりうろうろしたりしている。
「どうかしたの?」
そんなガリアの姿にイングランドが不思議そうに声をかけた。
「べ、別になにも…」
「だって変だよ。」
そんな二人をイギリスは落ち着いた様子で見ていた。フランシスはキッチンで昼御飯の支度をしている。
ピンポーン
鳴り響くチャイムの音にガリアがわかりやす固まった。イギリスは逃げるでも隠れるでもなく堂々と座っている。
「あ、きたきた。はーい。」
フランシスが扉を開けてギルベルトを迎える音にガリアは体を強ばらせた。
「よぉ!俺様が会いに来てやったぜ!」
「いらっしゃい、ギル。」
フランシスは扉を開いて迎えるとギルベルトはずかずかと中に入ってきた。
ガリアはチラリとギルベルトを見た。そして、やはり彼は自分とイギリスを連れにやって来たんだとしか思えなかった。困惑するギルベルトを尻目にイングランドだけがわけがわからない様子だった。イギリスは動かない。逃げるつもりはないようだ。けれど、とガリアは考える。このままギルベルトに連れ出されたら、イギリスは確実に壊されてしまう。その事を考えると胸の真ん中がきゅっと痛くなった。そんなのは嫌だ。ガリアはいつの間にかここが好きになっていたから。やさしいフランシス、不器用なイギリス、そしてかわいいイングランド。三人と過ごすこの部屋が大好きなのだ。たから、意を決してガリアはイギリスの腕をつかむ。
「おらおら!俺様が来てやったぞ!」
ギルベルトが声を上げるがそれに返る声はない。
「どうしたの?」
黙りこくった三人にフランシスが不思議そうに首を傾げた。それでも三人は動かない。元よりイギリスもイングランドもギルベルトと仲の良い方ではない。出迎えるとしたらガリアしかいないだが、
「ど、どうしたんだよ。おまえら。」
ガリアは足に根が生えたように動かない。ギルベルトが不思議そうな顔をして近づいてくるのをただ見ていた。
明らかにいつもと異なるボーカロイド達の様子にフランシスは首をかしげる。中でも様子のおかしいガリアの名前を呼んだ。するとガリアははじかれたように動き出した。
「イギリス!逃げて!」
「え?うわ、おい!」
ガリアはイギリスの腕を掴み走り出したのだ。
「ほわぁ!」
突然イギリスが引っ張られたことによりイギリスの側にいたイングランドが転がった。
「えぇ!?」
ギルベルトが呆気にとられる。
そうしている間にもガリアはイギリスを引っ張ってフランシスが扉を開けたまま立っている足元を抜け外に飛び出した。
「えー!?」
二人の行動に一番驚いたのはフランシスだった。出ていく前に捕まえようとしたものの、簡単に彼らは腕から抜けていってしまった。イングランドの泣き声が聞こえる。戸惑うギルベルトの声も聞こえてきた。逃げる二人を追いかけようと外に出ようとすると泣きながらイングランドがフランシスの足元までかけてきた。泣いている彼を抱き上げ、室内へ向かって叫ぶ。
「ギル、あとお願い!」
それだけいうとフランシスは外へ急いだ。二人を見失わないために。

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