あいの歌をもう一度

ピピッ
「アーサー?アーサー!聞こえてる?」
ガリアは内蔵の通信機を開いた。
『…ガリア?』
その声に返事が返ってくる。
「フランス、アーサーいる?」
それはフランスとガリア。兄弟機であるからこその通信機だ。
『ガリア?アーサーなら横にいるよ。アーサー、ガリアから。』
『あぁ…』
良かった。アーサーはちゃんと側にいるようだ。ガリアがアーサーが出てくるのを待っていると、
「アーサーと話?」
「い、イングランド!」
本棚の隙間にガリアの姿をめざとく見つけたらしいイングランドがいつの間にか傍まで来ていた。ガリアがうまい言い訳を考えているとイングランドが嬉しそうに尋ねてくる。
「アーサー、どうしてる?」
くりっとした瞳で尋ねてくる彼にガリアはちょっとときめいた。しかし、そんな場合ではない。通信機からアーサーの声が聞こえてくる。
『ガリア、どうかしたのか?』
「ぅ、ぁ、アーサー、げ、元気だったか?」
『…はぁ?そのために連絡してきたのか?』
「い、いや…」
「アーサー!元気?」
ガリアは折角繋げた通信なのに!と歯噛みしたい気持ちでいっぱいだった。だが、イングランドがキラキラとした目でじっと見つめてくる。
『イングランドか?』
「フランス!元気?」
『おぉ―元気、元気。アーサーも元気だぜ?』
『久しぶりだな。イングランド。』
弾む会話にガリアの顔がひきつる。折角繋げたのに!
別の話がしたいのにイングランドが楽しそうにしているせいでなかなか本題に切り出せない。フランスやアーサーはこちらの気持ちに気がつかないで楽しい会話を続けている。
「フランシス、やさしいんだ」
幸せいっぱいに告げるイングランドの言葉にアーサーは少し押し黙った。その沈黙がガリアには少し切なかった。
『……そうか、よかったな』
優しく告げられた言葉にガリアのまがいものの心が痛んだ気がした。

『話はそれで終わりか?なら会議があるんだ。切るぞ?」』
「アーサー…」
無邪気に告げるイングランドにアーサーの顔が歪む。フランスはその姿を見ていられなかった。自分のオリジナルとは言え、主にこんな顔をさせるあいつを殴ってやりたい。
「あ、でも、えっと…」
ガリアが迷っている声が聞こえる。きっとこの間の件を聞きたいのだろう。でも…
『ガリア、その件はまた今度だ。今は…』
また今度、の言葉にガリアは僅かな希望を見出す。いずれ話してもらえると言うことだろう。イングランドが名残惜しそうな声をあげる。フランスが明るく告げた。
『それじゃあ、また今度ね!』
ブチリと切れた通信にイングランドが寂しそうな顔をした。本棚の外では、フランシスがガリアを探しているようだ。その声に答えて、ガリアは慌てて外に飛び出した。
「ガリア〜?」
「な、何?」
ガリアは慌てて飛び出した。
慌てすぎてつまづいた体をフランシスはそっと抱き止めるとそのまま抱えあげる。
「大丈夫だった?ギルベルトはとっちめといたから。」
柔らかな微笑みを浮かべるフランシスにガリアはぎこちない笑みを浮かべた。
「……うん、ありがと」
惜しみない慈しみはまるで失った何かの代わりのようで、あまりいい気分にはなれなかった。フランシスが優しいのはわかる。だが、その優しさはなんとなく自分じゃないものに向けられているように感じた。ガリアの後からやや遅れてイングランドが現れる。彼の姿を見てフランシスが自分に向けたものと同じ笑みを浮かべる。
「イングランドもいたんだね。」
そう言ってガリアにしたのと同じように抱き上げてやる。
その姿をイギリスはじっと見ていた。ふと、気がつくと横にギルベルトが立っていた。ギルベルトにしては険しい顔で3人を見ている。それが不思議で、
「ギルベルト?」彼の名を呼ぶ。
「アーサーとフランシスが接触したらしい。ガリアが教えてくれた。イギリス、しばらく注意してろ。」
その言葉に自然とイギリスの顔も険しくなる。
「何か話したのか?」
「何も話さなかったらしい。……だが、お前はアーサーに見つかったら確実に壊される」
用心しておけ、と年を押すギルベルトにイギリスは大きく頷いた。フランシスたちはそんなことを気にせずになごんでいる。その輪の中に簡単に入っていけないの自分がイギリスは少し腹立たしかった。

あれから表向きは何もなく穏やかに時間が流れた。相変わらずギルベルトはフランシスにパソコンを教えにくるし俺たちはお互いケンカしながらも仲良く暮らしている。ただ、変わったといえば、フランシスは時々物思いに沈むようになったしガリアがそんなフランシスを心配そうにおろおろと見ていることだろうか…
「俺たちは揃いも揃って不器用だよな…」
「なんか言った?イギリス」
ただの独り言にイングランドが聞き返してくる。
それになんでもない。と自分とよく似た髪をくしゃくしゃと撫でてやる。何も知らないイングランド。イギリスはこの弟分が何も知ることのないよう、傷つくことのないよう祈った。
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