あいの歌をもう一度

6

口論は時間がたつごとに激化する。菊はしばらくすると我に返って口をつぐんだが、イギリスとガリアの口論は止まらない。
「フランシスに謝れよお前!」
言いながら強くイギリスがガリアを睨み付ける。
「やだ! だいたい悪いのは俺じゃなくてあの変態だ!」
ガリアも負けじと叫んで睨み返す。そんな堂々巡りの会話が二人の間では続いていた。そんな頃、キッチンでは紅茶を淹れるフランシスの様子をまじまじとイングランドが見ていた。そんな彼のようすが可愛くってフランシスは苦笑をこぼす。
「はい。出来た。」
キッチンにいるフランシスはすでにリビングがどうでもよくなっていた。
「いいにおい…」
それもこれもこのイングランドが可愛すぎるせいだ!俺が紅茶を入れる間パタパタと付いてきては興味津々といった様子で眺める。
なんてかわいいんだろう!
フランシスはそっとカップに紅茶を注ぐとティースプーンでそっとすくってイングランドの口元に運ぶ。
「はい、イングランド、あ―ん。」
「あーんっ」
フランシスが口開けて?というように誘うとイングランドは小さな口を開けてくれる。そこに紅茶を少量ながしてやる、とイングランドはふにゃんと頬を緩めた。
「おいし?」
そう聞くと頬を赤くしてこくりと頷く。それが可愛くて繰り返し飲ませていると、
「あ―!おっさん!イングランドに何してんだよ!」
ガリアが目敏くそんな彼らの様子を見つけ、声をあげる。フランシスがそちらをみるとイギリスもむくれたような顔をしている。ぴょこぴょこと跳ねるようにキッチンまでやってきたガリアはフランシスとイングランドの間に立った。
「俺のイングランドにさわるな!」
キッと睨み付けられてフランシスは苦笑するしかない。イングランドはガリアの言葉が気に触ったのかムッとした顔で呟く。
「……おれはおまえのじゃない」
「何言ってるんだ!お前は俺のなの!」
「だ、だれがお前のものだ、ばかぁ!」
さっきまでかわいい笑顔でふにゃんと笑っていたイングランドの機嫌が急速に降下していた。それを止めに入ろうとすると足元にしがみつかれる感覚。
「フランシス!俺にも紅茶!」
「あ、イギリスちょっと待って!」
「嫌だ待たない!」
イギリスはいやいやと、俺に構えと言うように首を振る。
「しょうがないなぁ…」
フランシスはイギリスを抱き上げテーブルの上に乗せてやる。用意してあったイギリス用のティーカップともう1つに注ぎ出してやるとイギリスは嬉しそうに、でも不満そうにちらっとティースプーンを見て大人しく飲み始めた。テーブルの上では新たに勃発したガリアとイングランドの口喧嘩がひどくなっているが口だけならもういいやと諦めリビングの菊に紅茶を出してやる。
「はい。どうぞ。」
「ありがとうございま」
「おい!オレのぶんは?」
「ギルはさっき勝手にいろいろ飲んでたでしょうが。」
「んだよー、パソコン弄ってやんねぇぞ?」
ぶつくさ文句を告げるギルベルト。そんな彼の言い分にフランシスが本来の目的を思い出した。
「そうだ! パソコン!」
はやくイギリスの歌を聞きたいと思っていたのに、いろいろあって忘れていた。フランシスの反応に満足したのかニヤリッと笑う。
「まぁ、この俺様にかかれば一日でセッティング終わるぜ?」
それからお前に音楽ソフトももってきてやったぜ! ふんぞり返るギルベルトは学生時代からまったく進歩していなかった。
ソフトのダウンロードなどでしばし時間がいると言われフランシスはひとまずその場をギルベルトに任せて俺は菊の隣で簡単な説明などを聞いていた。まぁそれさえも聞いてなかった自分に驚いたけど…
そうしていると紅茶を飲み終えたのかイギリスがもぞもぞと膝の上に乗ってきた。イギリスをなんとなしに撫でながら話を聞いていると「う゛ぇ、ふぇ〜ん」と泣き声が聞こえてきた。とうとうガリアがイングランドを泣かせてしまったらしい。
「ったく、いつもあぁなの?」
しょうがないなぁと思いイギリスをどかしてたちあがろうとすると、
「ダメだ!」とイギリスがしがみついてきた。
「えっ?」
「行くなよバカッ!」
引き留めるイギリスにフランシスは困惑する。今までそんなことをイギリスが言った覚えがなかったからだ。すがり付くような視線にフランシスは困惑するしかない。その間も甲高いイングランドの泣き声が響いている。
「でも、イングランドが泣いてるし……」
控えめに告げた声にイギリスが不満げに口を尖らせる。
「そんなん……菊がいけばいいだろっ!」
呼ばれたとうの菊はと言えば、あらあらというように苦笑するが自分が動く気はないらしい。そうしている間にもイングランドの泣き声はますますひどくなるし、ガリアのうろたえたような声が聞こえる。
「ねぇ、イギリス。お兄ちゃんでしょ?」そう言ってどかそうとするがイギリスはてこでも動かない。
「……なんだよ、俺よりあいつがいいのか?」
ふくれるイギリスにフランシスはどう答えようか迷いながら、なるべく無難な言葉を選んだ。
「俺はイギリスもイングランドも好きだよ」
にこりと笑ってみたが、イギリスは納得いかなかったらしい。柔らかそうに見える頬をハムスターのように膨らませている。一方、ガリアは泣いているイングランドをなだめようとその身体にてを伸ばした。
「なぁ、泣くなよ、イングランド」
しかしそっと伸ばしたガリアの手はイングランドに拒否される。
「さわんなバカッ! お前なんかきらいだ!」
そうやって叫んでイングランドは一目散にフランシスの元へと走り出した。その場に取り残されたガリアは泣きそうな顔をしてしばらく呆然としていた。
「うわっ!」
横からイングランドが抱きついてきて俺は慌てて抱き止めた。
「…イングランド、喧嘩しちゃったの?」
そっと抱き上げてやると手のひらのイングランドが親指にぎゅっと抱きついてきた。そのままうりうりと頭を撫でてやるとくすぐったいのかくすくすと笑い出した。
「あ、笑った。」
そうやって俺が微笑めば恥ずかしそうに頬を染めてうつむいた。
「フランシス!」
その姿を見てか、イギリスが不満そうに服を引っ張る。フランシスは空いた片方の手でイギリスの頭を撫でてやったがイギリスはむずがるように払いのけてしまった。
ちょ、どうしたいのよ!
ギルベルトはパソコンに向かっているし頼みの綱の菊は面白そうに見ているだけだ。そして、ちらりと横を見ると…
泣きそうな顔でガリアが立ち尽くしていた。
「あ―、えっとお二人さん、俺としてはガリアを慰めてやりたいのですが…」
フランシスが言うと二人はキョトンとしてフランシスを見上げる。よく似てますこと…
「いや、男としては女の子は泣かせちゃダメでしょう?」
「だ誰が女の子だ!」
ガリアが叫んで走ってフランシスの前までやって来る。その瞳にはうっすら涙がたまっていた。
「えっ、女の子じゃないの?」
どこからどう見ても可憐な少女にしか見えないガリアの風貌をフランシスはまじまじとみた。ガリアはそんな彼のようすが満足いくものだったらしく、目の前でふんぞり返る。
「たっ確かに俺は超絶美しいよ? だけど性別は男!」
「……うっそだー」
「ほんとだぞ、ガリアは男だ」
フランシスの言葉にたどたどしくイングランドが答える。フランシスは菊の方を見た。彼はとてもきれいな笑みでゆっくりと頷いた。
「うわぁ…オレも小さい頃は散々女みたいだって言われたけど…うわぁ、可愛いなぁ、お前」
オレが思わず呟くとガリアは満更でもないようだ。オレがガリアとばっかり話しているとイングランドとイギリスがぐずったようになついてくる。イングランドは親指をハグする力を強めるしイギリスはシャツを握りしめる力を強くした。これは構ってっていうことですか?
そうこうしているうちにガリアも寄ってきてなんとかイングランドの近くに行こうとする。まるで保育園の完成だ。フランシスが困り果てているとクスクス、と笑う声がした。思わずジト目で伺うと菊が思わず、というように笑っていた。
「流石ですね。フランシスさん。ボーカロイドたちがこんなになつくなんて、モテモテですね?」
嬉しそうに笑う菊を見てフランシスは情けない顔をするしかない。なつかれたり、好かれたりすることは純粋に嬉しい。だけど、今の事態はちょっと面倒だ。
「……菊ー、なんとかしてぇ」
「なんとか、とは?」
楽しそうに菊が尋ねてくる。他人事だと思って状況観察するのを大いに楽しんでいるようだ。
「なんとかって、とにかく、うちにはイギリスがいるし、貧乏だし、イングランドやガリアまではまかなえないよ」
ひっそりと告げると菊がご安心をと笑う。
「大丈夫ですよ、お金はうちの主任がなんとかしますから」
それに先に反応したのはオレではなくギルベルトだった。
「おいおい、あいつが払うのか?」
本当に払うのかよと揶揄するようにギルベルトは笑う。
その言葉にフランシスはあっと気づいた。
「そっかぁ主任さんっとことはギルの上司になるんだね。」
ご愁傷様と思いをこめるとギルベルトはどういう意味だよおい!とでも言うように突っかかる。
「ってか何言ってんだよ、知らないのか?うちの主任、」
続けられようとした言葉は何なのだろうか。
「ああああ――――!!」
イギリスは大声をあげる。
「余計なこと言ってんじゃねぇよ!」
「余計なことってなんだ―!」
そのまま二人は舌戦に入ってしまう。そんな舌戦を不思議そうに見るフランシス。そんな場の空気にそぐわないのほほんとした笑顔で菊はギルベルトの疑問に答えた。
「ガリアとイングランドの事となると主任は大甘ですから」
「まぁ俺たちよりフランスを気に入ってるみたいだけどね」
ガリアがそういって肩をすくめる。そこでフランシスは唐突にセーシェルとの会話を思い出した。
「そういや、ボーカロイドの開発者のアーサーなんとかって人は俺と同じくらいなんだよな。菊はその人のこと知ってる?」
フランシスの口からあいつの名前が出てきて、俺の心臓がもしあったなら止まってたんではないだろうか。そんなオレをよそに菊はにっこり笑って答える。
「もちろん存じあげております。我らが主任様ですからね。」
その言葉にフランシスは驚いたようだ。
「へぇ、俺と同い年で主任なんて、そいつスゴいんだな。」
感心したように呟く声においおいと反応したのはギルベルトだ。
「何言ってんだ?お前、アーサーってこうこ…」
俺はギルベルトが続けようとした言葉を体当たりで潰す。まったく油断も隙もありゃしない!
「えぇ、とても頼りになる方です」
「へー、すごっ! あっ、俺も一応なんかご挨拶とかしたほうがいいかな」
「……いえ、主任は忙しい方ですので、私の方から言っておきますよ」
営業スマイルで菊は簡単にフランシスを丸め込む。その様子にイギリスが安堵したのもつかの間、潰したはずのギルベルトが復活してくる。
「ってぇなぁもう。おい、フラン。アーサーは生徒会だぜ?」
そんな彼の言葉にフランシスは思いっきり固まった。
「へ?」
ギルベルトの言葉にフランシスはぽかんと口を開いた。
「ギルベルトさん!」
「ギルベルト!」
菊とイングランドが慌てたようにギルベルトを諫めるが、イングランドがちょんちょんとフランシスの指を引っ張った。
「フランシスはアーサー知らないのか?」
「え?おれ?」
イングランドが不思議そうな顔をして首を傾げている。それにガリアも寄ってきた。
「俺のモデルお前だぞ?」
どんっと突きつけられた真実にフランシスはなんといって良いかわからなかった。セーシェルも言っていた彼らの主任。同じ高校だとは聞いていたけど同じ生徒会って俺なんで覚えてないんだろう?しかも俺がガリアのモデルって…
イギリスが固まったままのフランシスの元までやって来て心配そうに見上げてきた。
「大丈夫か……?」
「……えっ! あっ、うん、大丈夫」
イギリスがぎゅっとフランシスにしがみついて顔をうかがってくる。その顔をフランシスはじっと見つめた。
くすんだ金髪、緑の瞳、何よりこの特徴的な眉毛…
あー。確かに見覚えがあるような気もするけど良く思い出せない。
仲が良いでもなかったのか?確かクラスも違ったような気がする。
どんな顔だっけ?あーでも、うん。絶対…
「…………イギリスのが絶対かわいい」
なんとなくそんなことを呟いていた。
フランシスはイギリスを見やる。イギリスのが絶対に可愛い、そう思った時には既に口を滑らせてた。
その瞬間イギリスの顔が真っ赤に染まる。
いや、耳まで染まるとか、すごいもの作ったなぁ…
「ば、ばかぁ!嬉しくなんてないんだからなぁ!」
その叫びは表情を見れば照れ隠しなのだということは一目瞭然だった。
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