血に塗れた記憶の向こうで

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 シャッ

 軽い音を立ててカーテンが開かれる。まぶしく降り注ぐ太陽は今日の天気の良さを如実に伝え、そのまぶしさに眼を眇めながらルルーシュは軽く伸びをした。

 むぅ…

 太陽の光がベッドに降り注ぐ。突然差し込んだ光に反応したのかスザクがかすかにうめいた。

 スザクが黒の騎士団にいるようになってから1ヵ月、スザクを起こすのはルルーシュの役目だった。

「おい、スザク起きろよ! もう朝だぞ! いい天気だ、ほら早く起きろ!」
「むぅ…るるーしゅ…まだねむいよ…」
「眠いよ…じゃない! 早くしないと朝食抜きだぞ! 早く起きろ!」
「ぅわぁ! ご飯、ルルーシュのご飯食べる!」

 軍務のときはどうしてたんだと思うくらいスザクは朝に弱くなっている…

 夢を見たくないんだ。そういって瞳を伏せたスザクはまだ記憶に新しい…

 あの男の施したギアスはスザクにさまざまな影響を与えた。
 悪夢を見るから眠りたくないもその影響のひとつだ。毎晩うなされて飛び起きては俺に気づかれないようにベッドを抜け出す。スザクは俺が気づいていることに気づいていない…それほどまでに余裕がないのだろう…

 そして影響の最たるものが…

「邪魔をするぞ、ルルーシュ」

 そう言ってC.C.がいきなり部屋へ入ってきた。

「うぁっ…」途端にスザクが小さく呻いて身体を揺らした。俺はあわててスザクに駆け寄り強く抱きしめる。「ここにいる、だから大丈夫だ。」言葉に出さぬ思いを乗せて抱きしめる。スザクは俺が近づいたときからすがりつくようにルルーシュの背に手を回していた。

 しばらくすると、スザクは落ち着いたのか背に回した手を緩めた。俺もそれに合わせて力を緩める。
 が、お互い完全には手を離さない。わずかにできた隙間でスザクは身体をねじりしっかりとC.C.に目線を合わせた。

「ごめん。おはようC.C.」

 あれ以来、スザクは極端に俺以外の人間との接触を怖がるようになった。
 聞こえてくる…らしい。俺以外の人間からは自分を断罪する声が聞こえてくるんだ。人殺しだとそういう声が聞こえてくるんだ…とスザクは瞳に涙をいっぱいためて訴えた。
 
 最初のときはそれこそ毎度のようにパニック状態に陥っていたが、それを思うと随分マシになったのだと思う。

「スザク、今日は公園まで散歩に行こう。いい天気だし、きっと気持ちがいい…」

 俺は窓の外を眺めながらスザクを誘った。スザクを何とか外に連れ出そうというのはすでに俺の日課同様になっている。スザクは人との接触を避けるためか極力部屋を出ようとしない。

「あぁ行ってこい、今日はせっかく何もないんだ。散歩でも何でも行ってこい。」

 そういってC.C.はチーズ君を抱えて部屋を出て行った。

「何しに来たんだ? あの魔女は…そうじゃなくて、スザク、行こう?」

 だけど差し伸べた手はスザクに振り払われた。その勢いのまま抱きつかれてバランスを崩し、二人してベッドに沈む。

「どうして行かなくちゃいけないの? 僕はここでいいよ。この部屋がいい。外の空気を吸わなくちゃいけないなら窓をあければいい…いやだ、行きたくない! 外に出たくない! みんなが僕をせめるんだ…人殺し! 人殺し!!って…いやだ、ここがいい、ここがいい!ルルーシュ! 俺はどこにも行かない!!」

ちっ タイミングを間違えたか…C.C.が来て不安定な時に言うべきではなかった!

「すざく、落ち着け、落ち着け! 大丈夫だ。わかった。今日は部屋にいよう。大丈夫だ、どこにも行かない。ここにいる、ちゃんとここにいるから! スザク! 手を、離せ! ちからゆるめろ! くるしっ!!」

 そこでやっと全力で抱きついていたことに気づいたのか、スザクはあわててからだの力を抜いた。

「ごっごめん、ルルーシュ。本当にごめん、僕思いっきり…本当にごめん!」

「馬鹿が! いい加減自分の馬鹿力を学習しろ!」
 
 ルルーシュの白い二の腕が軽く赤くなっていることに気づいてスザクの瞳が曇った。

「ごめん…」小さくなってうなだれてしまったスザクに苦笑する。

「もういい、大丈夫だ。それより、外に出なくても朝ごはんはきっちり採ってもらうからな。」
「うん! それは大歓迎だよ! だってルルーシュのご飯大好きだもん!!」

 スザクが部屋を出るのはたまたま調子が良くて外に出れる日か戦闘時のみ
 これがどれだけの異常事態なのかルルーシュの感覚は麻痺してしまってもうよくわからない。
 ただ分かっているのはスザクが自分に依存している。
 
 そのことに対する暗い、暗い優越感

 自分たちがどれだけ歪んでいるか気づいていて、それを改善しようと口にする割には決定的な行動を起こさない。

 そんな俺自身が歪みきっているのだろう。
 


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