君に出会えた奇跡

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俺はただ、お前とずっと一緒に、一緒にいられればそれでよかった。

それだけで、幸せだったんだ。


記憶もなく身寄りもない。体に押された奴隷の烙印。

俺にとって士官学校は一人でいることが当たり前なんだと思ってた。


でも、違った。
だって俺は、お前に出会った。

「おい、見ろよ!ゲルマン理事長のお気に入りだぜ!相変わらずの仏頂面」
「ははは、おはよう!アーサー・カークランド坊ちゃん!」
「へーあんなのでも特殊過程の生徒なんだ。」
「あんなちびでついてこれんのかよ!」
「おい、怒らすなよ!」
「知ってるか?あいつ元奴隷身分なんだぜ!」


どいつもこいつも!!廊下をただ歩いてくるだけで聞こえてくる罵詈雑言。
うぜぇ。どいつもこいつも好き放題言いやがって!聞こえてんだよこらっ!
いちいちいらいらしてたらやっていけない、落ち着け、落ち着け俺。
アーサーはいちいち聞こえてくる音を頭から締め出しながら深呼吸する。
ここで喧嘩を買えばこっちの負けだ!!

「おっはよう!うわさの坊ちゃん!」
いらいらと廊下を歩いていると後ろから肩を叩かれた。って、この声…
「うっとぉしいんだよフランシス!!」
叩かれた肩を軸に振り上げた手は宙をかいた。
「おわっ!」
そうすればこの1年でなじんだ金髪がきらきらと朝日を反射して目に入る。
「あれ?やっぱ分かっちゃった?」
「1年もダチやっててわかんねぇってか?ったく、あ゛−!!!!もう!平常心!平常心!!」
「お前何殺気立ってんだよ…大丈夫か?」

フランシス・ボヌフォア
俺のたった一人の友達

「なぁ今日の昼飯一緒に食おうぜ。」
「他の奴と食えよ。俺と居たらハブにされんぞ。」
「聞き飽きたぜそのセリフ。」

誰もが俺のことを邪魔者扱いする中でたった一人話しかけてくれた。
一緒に居てくれた。

それがどれほど嬉しかったか、どれほど救われたか。
こんな日々が永遠に続いたらいいのに。

本気で俺はそう思っていた。

けれど…

運命の日がやってくる。

卒業試験 当日

「はーい!今日はいよいよ卒業試験でーす!10人グループでそれぞれの会場に入ってください!」
 
「俺とお前同じAチームだぜ、アーサー」
「あぁ、足引っ張るなよ。」
「な、それはこっちのセリフだっつの!!」
卒業生一同が集められた中でフランシスが近づいてくる。
一緒のグループだって言われて正直ほっとした。そんなこと言ってやらねーけど…

「はい!Aチームの皆さん!卒業試験はこの囚人を倒すことです!」
そう言って入ってきたのは両手両足に鎖を付けた天井にまで身長の届きそうな大男で…
周りの生徒たちが息を呑む音が聞こえる。思わず1歩下がったものさえいた。
「倒せなかったり仲間を見捨てたりしてたら失格ですからね☆」
「あ、今まで学んだことをちゃんと応用してみんなで力を合わせないと本当に殺られてしまいますよ?」

「それでは、試験開始!」

囚人の鎖が解かれる。開始直後に生徒の1人が吹っ飛んだ。
すぐに次の一撃が来る。
「オレ様はお前等を倒すごとに服役期間が短くなるんだぜ!」
そういって繰り出された拳は試験会場の地面を砕いた。
オレとフランシスはその衝撃を受け流すように飛び上がる。数人の生徒がタイミングを逃し壁に打ち付けられるのが見えた。
1人の生徒が防弾ガラスで閉鎖された壁を叩いてるのが目に入った。
「助けてくれー!!殺される!!!」
俺を中心になっていじめてたやつだ。
その後姿を囚人が見たのが分かった。
「危ない!!」
思わず体が動き体当たりでそいつを弾き飛ばす。が、変わりに俺の体をつかまれ持ち上げられてしまった。
「アーサー!!」
フランシスの声が聞こえる。くそ!俺が振動に合わせて手を抜け出すと視界の端でフランシスも飛び上がったのを確認する。
俺がそいつの腕に膝を叩きいれるとすぐその横でフランシスがひじを叩き込んだ。
ごきっ!と大きな音が鳴り囚人の骨が砕けるのを感じる。
地面に降りた俺たちはすぐにその反動を利用してまた飛び上がり俺は拳を、フランシスは蹴りを叩き込む。
その隙を見逃さず俺はザイフォンを展開した。

ザイフォン。
それは主に手を媒介とし、神が与えし、生命の源を様々な形に変換できる。

それを囚人の首下に突きつける。
「降参しろ。動けば殺す!」
これで終わりだ!
「まだ終わってませんよ。私は敵を殺しなさいと言ったはずです。」
壁の向こうで先生がそう告げる。
「コイツは本当の敵じゃない。殺す必要は…」
ドッ!!!
そう言った瞬間大きな音を立てて囚人の首が離れた。
「手ぬるい。」
驚いて振り向くとそこには…

試験終了のベルが鳴る中俺はそいつから目が離せなかった。
黒尽くめの軍服。人目で軍の高官だと分かる。

軍の最高幹部イヴァン。

神様、こいつとさえ出会わなければ俺は今でもあいつと共に居られましたか?


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