ここは愛の国フランス。そのフランスでも最も華やかな都パリ郊外に緑に囲まれるように建つ家があった。白く塗られた壁と空と同じ青い屋根の家はその外観と緑に囲まれているさまはまるで異世界のようだと思う。
そんな可愛いらしい家の主は今日も毎日のように朝食づくりに張り切っていた。
「ふん♪ふ〜ん♪」
鼻歌まじりに動かすその手は一切の無駄がない。いっそ鮮やかといってもいい。
この家の主、フランスはとてもご機嫌だった。
なぜなら…
くいくいとエプロンが引っ張られる感触にフランスは視線を落とした。そこには5歳ぐらいの少年が眠そうに目をこすっている。
鈍色の金髪が朝日に照らされてきらきらと光っている。まだ眠い目をこすりながら見上げる瞳は新緑の若葉のようなグリーンで、顔に似合わない太い眉毛はまぁ慣れたらチャームポイントだとフランスは思う。
フランスは手元の火を止め少年を抱き上げた。
「おはよう。イングランド。」
そういってちゅっと頬にキスを落としてやると少年はふわりと笑って「おはよう、ふらん」と頬にキスを返してくれた。
先月からこの家の居候となった彼の名をイギリスという。正式名称は、面倒くさいからいいや。
今はわけあって彼をイングランドと呼んでいる。
というのも、本来彼の身長は俺と同じ175cm。しかし、今は身長100cmにも満たない。そのことからも察して欲しい。彼は身も心も約1000年近く昔の子供時代に戻ってしまっているのだ。
「イングランド、顔洗っておいで。そしたら朝ご飯にしよう。」
そういうとイギリスは嬉しそうに微笑んでとたとたと洗面所に向かって走った。
あぁ!そんなに走ると…
とてん!と音を立ててイギリスがつまずく。体よりも頭のほうが重くて転がってしまったのだ。
「イングランド!ほら、大丈夫か?」
そう言ってもう一度抱き上げると、イギリスは痛かったのかぎゅっとフランスのシャツを握り締め涙をこらえていた。
「お、泣かなかったな。えらいえらい、男の子だもんな。」
と頭を撫でてやるとぎゅっとしがみついて、
「あたりまえだ!おれはつよいこだからな!」
と返してきた。
あぁ。この可愛い子をいったいどうしてくれようか。
フランスはイギリスを抱き上げたまま洗面所に連れて行く。洗面所ではあまりに高い洗面台のため先日用意してやった足場にイギリスを立たせた。
そしてがんばって顔を洗ったイギリスの顔を丁寧にぬぐってやる。
「よくできました。」
そう言って仕上げにあたまのてっぺんにキスをおとす。
するとイギリスは嬉しそうに、でも顔に出さないように必死にがんばる。
その証拠に顔をどんなに隠しても耳が真っ赤に染まっているのだ。
さぁリビングに戻ろうかとフランスはイギリスに手を差し伸べた。
だがイギリスはその手をじっと見たままとろうとしない。
「イングランド?」
どうしたの?と問いかけるように名を呼べばイギリスはフランスを見上げ両手を伸ばした。
「だっこ!」
あぁ。この可愛い子をいったいどうしてくれようか。
「だ〜め。ちょっとの距離だろう?帰りは自分で歩きなさい。」
甘やかせてばかりではいけない。それはイギリスが育てたアメリカを見てよ〜く理解している。だから抱っこしてやりたい気持ちを抑えてイギリスにそういった。
「うぅ〜、だっこ!」
「だぁめ。ほら、お手てつなごう?」
それでも諦めたくないのかイギリスはう〜とうなってだだをこねる。
「イングランドは俺の作った朝食いらないのかな?わがまま言う子は…」
駄々をこねるイギリスも十分可愛いのだが早く戻らなければせっかくの料理が冷めてしまう。だから、最終手段としてイギリスにどうするの?と問いかけるとイギリスは「や!」と言ってフランスの手をぎゅっと握る。
「やだ!だめ!あさごはん食べるの!」
「じゃあはやくお部屋に戻ろう?」
そう手を引いてやると今度は大人しくついてきた。
キッチンに着き、もう一度抱き上げてイスに座らせ朝食を出してやる。今日はフレンチトーストだ。
おいしそうに食パンを頬張るイギリスにフランスはふわりと頬を緩ませた。
この家の主フランスは今日もとてもご機嫌だ。
なぜなら可愛い可愛いイギリスが今日も一緒にいてくれるからだ。
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