ふわ
イギリスはシーツを空高く広げる。すると妖精だろうか?舞い上がったシーツは落ちることなく、ゆっくりと物干し竿に掛けられた。シーツの白と空の青さにイギリスは満足そうにうなずいた。
ロンドン、天気は快晴。絶好の洗濯びよりだ。
目覚めた瞬間降り注いだ太陽の光にイギリスは朝から上機嫌だった。今日は1日休みだし貯まっていた洗濯物も片付けた。後はこんなにいい天気なのだから庭にテーブルを出してティータイムにすれば素晴らしい休日の出来上がりである。イギリスは鼻唄でも歌いそうな勢いだ。
その様子を見て妖精達が「ご機嫌ね。」などと声をかけてくる。それに答えながら室内に戻ろうとしたとき車が止まるブレーキの音、すぐにチャイムの音が鳴り響いた。
「帰れ。」
イギリスは扉を開いた瞬間即座に返した。
「ちょそれ酷くない?」
それに来訪者が文句を言うがそんなもの知ったことではない。
「酷くない。帰れ。」
そう言って扉を閉めようとするとがしっという音と共に男が体を挟んできた。
「ったく、何なんだよ、フランス。」
イギリスが問えば来訪者、フランスは狭い扉の間からバスケットを取り出して、
「どうせ暇でしょ?お菓子作ってきたから一緒に食べよ。」と笑った。
「はぁ、なんだってんだよ。」
結局なんだかんだ言って断れずずるずると言われるがまま二人が今いるのはロンドン郊外から更に離れた田舎町だ。
「なんで菓子食うのにこんな遠出しなきゃなんないんだよ。」
「だって、せっかく良い天気なんだから満喫しなきゃ!」
シートを木陰に広げわざわざ持ってきたティーポットと共にフランスの持ってきたお菓子を広げれ素晴らしいティータイムの出来上がりだ。
色とりどりのマカロン。ふんわり焼き上がったマドレーヌ。
甘いお菓子にぴりりと刺激を与えるダージリン。
「イギリス、おいし?」
「ん?あぁ、悪くはないな。」
「もぅ、もっと素直に誉めてくれてもいーのに…」
フランスが拗ねたように呟くのをイギリスはただ聞いていた。素直に言えたらこっちだって苦労しねぇんだよ!アーサーが唇を尖らせたのを見てフランスはふふっと笑みがこぼれた。目の前の存在はどれだけ時を経ようともその本質を変えることなく今を生きている。膨大な時の中でそれはなんという奇跡なのだろうか。
争い傷つけ合いそれでも共にある存在。
「なんだよ。」
じっと見つめる俺に気付いたイギリスが訝しげに問う。
「いや、好きだなぁって思って。」
「な、何言ってんだっばか!は、恥ずかしいこと言ってんじゃね、っ!」
それに答えるとフランスはイギリスの答えを聞き終える前にごろんと転がった。
勿論イギリスの膝に己の頭が当たるように、だ。
「な、なな、何やってんだ!このくそ髭!」
「ん―?」
フランスが生返事と共に見上げるとイギリスは耳まで真っ赤にして必死に目を合わせないようにそっぽを向いていた。その様子があまりにもかわいくて、そっと起き上がりちゅっと唇に唇を触れさせる。
「かわい」
そして微笑むとイギリスはまだ赤くなれたのか!?と思うほど赤くなった。
「ば、バカなことしてんな、このばかぁ!」
口ではそんな憎まれ口を叩くが一向に振り落とされる気配はない。それに気をよくしたフランスがさらに手を伸ばした、その時。
ぽつり
頬に落ちた水滴にフランスはぴくんと体を震わせる。そうしている間にも、
ぽつん
今度はアーサーの睫毛に落ちた水滴がするりと滑りフランスの頬にたどり着いた。
「あめ?」
フランスの呟きにイギリスが空を見上げる。そうしている間にもぽつんぽつんと雨粒はその数を増して降り始めた。
「あ―あ。大丈夫?」
「あぁ。」
突然降り始めた雨に慌ててピクニックセットを片付けた。そうしている間にも雨脚は増して今いる洞穴にたどり着く前に二人ともびしょびしょになってしまった。
「これだからイギリスは…」
聞こえてきた呟きにイギリスはきっとフランスを睨み付けた。
「なんか言ったか?ったく、てめぇが勝手に来たんだろうが。文句があるならさっさとてめぇの家に帰れ。ってか、あ―あ…帰ったら洗濯のやり直しだな。」
「あ―、だね。妖精さんは取り込んでくれないの?」
「あいつらにはちょっと重いだろう。」
バスケットに入れていたクロスでお互いをぬぐいあいながらあーだこーだと言い合う。
ふと気がつくと、ごく間近にフランスの顔があってイギリスは体をこわばらせた。その体をほぐすようにそっと触れた唇から温もりが分け与えられる。
「んっ。」
舌を絡めあわせる。フランスの口の中は暖かくて、イギリスは思ったより自分の体が冷え切っていることに気づいた。
・・・きもちいい
気がついたら夢中で口づけを返していた。深く、優しく、激しく。フランスの腕がイギリスの体をそっと暖めるように抱き締める。
「ふぁっ」
「ごちそうさま。」
ちゅっと音を立ててフランスが離れる。イギリスはぼぅっとしびれたように動かない。それににフランスは苦笑して、ふと外を見た。
「あ、雨あがった。」
「え?あ、本当だ。」
フランスの言葉に目を醒ましたようにイギリスが答える。
二人が洞穴を出るといつの間にか雨はすっかりあがっていた。
「あ、虹。」
フランスが木々のすき間に覗く空に七色の帯を見つけ声をあげた。つられたようにイギリスも空を見上げる。
「あ、本当だ。」
「なぁ、もっとよく見えるとこ行こうぜ。」
フランスの提案に二人はゆっくりと木々の切れ目を目指して歩き始めた。フランスの片手にはバスケット。反対の手は、ゆっくりと絡めあった指先をきゅっと握る。そうしてたどり着いた先には、
「海。」
「意外と海岸の近くだったんだなぁ…」
そこはドーバー海峡に面する海岸で…
「虹が…」
空を見上げると虹がこの島と海峡の向こうを繋ぐように伸びていたのだ。
ふと、二人の脳裏に何かがよぎったような気がした。
「…なぁ、前にもこんなことなかったか?」
「あ、お兄さんもそう思った。」
「あ―思い出せねぇなぁ…」
「だねぇ。でも、ふふ、あれだね。二人を結ぶ運命の赤い糸、みたいな。」
「…赤くねぇよ。」
「あれ?運命って所は否定しないんだ?」
おやっと思ってフランスがイギリスを見ると、「ニヨニヨすんな、ばかぁ」と返ってきた。
「さてと、そろそろ帰りますか?」
フランスがあたりを見渡して手を差しのべる。いつの間にか二人を照らす光は辺りをオレンジ色に染め上げている。しかし、イギリスはその手を見つめたまま動こうとしない。
「…どうかした?」
「かえ、るのか?」
「へ?」
「帰るのか?」
「帰るよ。
イギリスの家にね。」
ユーロスターの終電はまだまだ先でしょ?
フランスがそう答えるとイギリスはほっとした表情で手を握り返した。
「帰りますか。」
「あぁ。」
例え記憶になくったってあの日の願いは本物でした。
BACK
どこが続きなんだ!?
期待に添えなくてすいませんでしたorz
ブラウザを閉じてお戻りください。