虹のはじまりにあるもの

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「はぁはぁ、ほら!はしれよ!」
「はぁはぁ!走ってるよ!」
 森の中を二人の少年が駆け抜ける。二人手を繋いで、きらきらと雨の雫を身にまといながら。
 よくあることだ。特にこの島は雨が多い。
 イングランドと二人、森のなかでたくさんのお菓子をつめたバスケットを開けてピクニックをしていた。
 しかし、

 ぽつり。

 頬に濡れた感触。二人は慌ててバスケットの中身を濡らさないように片付ける。そうしている間にも雨は勢いを増し、
「こっちだ!」
 イングランドがフランスの手を引き駆け出す。フランスは引かれるままに駆け出した。たどり着いたのは小さな洞穴。
 イングランドが雨に濡れた髪をふるふると子犬のように震わせる。それに苦笑しながらフランスは持ってきたクロスをバスケットから取り出し自分をそしてイングランドをぬぐってやった。
「あぁびっくりした。濡れちゃったね。」
「俺のせいじゃねぇ…」
 フランスの言葉にイングランドが拗ねたように答える。
「誰もお前のせいなんて思ってないよ。」
 フランスはそれに呆れたように答えた。
 この幼い隣人は少々ひねくれ過ぎだと思う。半分以上は自分のせいなのだが。フランスはため息をついた。優しくしてやりたいのに上手くできない。傷ついたこの小動物のような少年を守りたいのになぜ上手にできないのか?きっと大人になった彼からすれば若かったんだよとすまされそうな事をまだ若い彼は真剣に悩みつつフランスはバスケットを開いた。ため息や眉間のしわは兄や大人たちに傷つけられてきた少年が最も嫌がるものだ。だからフランスは笑う。笑顔で傷ついた心を包み込むように笑う。
「見て。バスケットの中は無事みたいだ。ほら、座って?雨が止むまでまだ時間あるだろうし、ピクニックの続きしようぜ?」
 フランスが笑って手を差しのべるとイングランドはそっと手を重ねた。

***

 頬を照らす太陽のぬくもりにフランスは目を覚ました。目の前には自分のものよりも濃いくすんだ金髪。驚いてみじろぐと居心地が悪そうにイングランドが寝返りをうった。フランスは慌てて何があったか思い出す。たしか、たしか、今日も一人淋しくしているだろうイングランドにいっぱいお菓子を詰めたバスケットを持って会いに来て…

 あ、そっか。いきなり雨に降られちゃったんだっけ?それで雨宿りして、お菓子を食べたら眠くなったんだ。どうやらそのままイングランドを抱えて寝てしまったらしい。フランスはそっと腕の中のイングランドを見下ろす。すやすやと、気持ち良さそうにイングランドが眠っている。その手はしっかりとフランスの服を握りしめていて…
 こりゃ当分起きないだろうなぁとフランスは洞穴の外に目をやった。大分時間もたったのだろう。雨はすでに止んでおり外はオレンジ色に染まっている。フランスはどうしよっかなぁと少し体を伸ばして太陽の位置を確かめようとした。
「イングランド、起きて!起きてってば!」
「ふ?ぅえ?」
 突然叩き起こされたイングランドが寝ぼけ眼で辺りを見回すとすぐ近くにフランスの顔があって驚いて飛び離れた。
「な゛、な、なに?」
 混乱するイングランドの腕を引っ張ってフランスは洞穴を飛び出した。
「見て!」
 フランスの指が指し示す先にあったのは…
「うわぁ!虹だ!」
「な?綺麗だろう?」
 目を輝かせたイングランドにフランスは満足そうに笑う。もっと木々に邪魔されずに見れる場所へと二人は駆け出した。
 たどり着いたのは島の端。思ったより海岸近くにいたようだ。たどり着いたそこで二人は目を奪われた。まるで虹が島とそして海の向こうにある大陸を繋ぐように伸びていたのだ。
「…きれいだ。」
「うん。」
 美しい景色に目を奪われたように立ち尽くした。気がついたらお互いの手を握りしめていた。
「もし、もし虹の上を歩けたら歩いてお前の家に行けるのに。」
 寂しそうに言葉が紡がれる。太陽は随分と傾いている。フランスは帰らなければならない。
「いつか、いつか作ろうよ。もっと簡単に行き来出きるようにさ。」
 もっと会えるように。フランスが呟くとイングランドはふいと顔を背ける。
「別に会いたいなんて思ってないからな!」
「いいよ。お兄さんが会いたいだけ。」
 その言葉にイングランドは泣きたくなった。
「いつか、いつか…」

いつか叶うといい。いつでもお前に会えるそんな未来を願った。


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