あいの歌をもう一度

エピローグ

PiPiPi
今日も一日の始まりを告げるベルが鳴る。アーサーは手探りで音源を探りだしうるさく鳴りつづけるベルを止めた。
大きくアクビをし体を伸ばした。横を見るとはちみつ色の髪がカーテンの隙間からこぼれ出た光に照らされてキラキラと光っている。布団からはみ出したそれにアーサーはそっと指を絡めた。
「んっ。」
ころんと寝返りを打ったフランシスがもぞもぞと刷りよってくる。やっと見えた頬をそっと撫でアーサーはぎしっとベッドを軋ませてフランシスを跨ぐように手を着いた。
「フラン。起きて?」
アーサーはそっと唇を額に当てた。
「んんっ、あともう少し……」
そんなことを言いながらフランシスがアーサーの身体に抱きついてきた。そんな彼をみさげてアーサーが幸せに浸っていると部屋の中からこんな声が聞こえてきた。
「朝からお盛んだこと。お兄さん妬いちゃう!」
「おいっ、フランシス! 腹減った!」
フランスとイギリスの声である。いつもそうだが、何故かこの二人は朝は機嫌が悪かった。
「ふぁ、俺も起きたよー。おはよーイングランド」
「…………おはよ」
その声につられてガリアとイングランドも起きてくる。イングランドはまだ眠たそうに目を擦っていた。イギリスがベッドの上までよじ登ってきてフランシスの額を叩く。
「起きろよ! また遅刻するぞ」
頭をはたかれてようやくフランシスが目を開いた。眠い目をこすりながら手探りでイギリスの頭を撫でてやる。アーサーはそれがなんだか面白くなくてアーサーはその手をとり手のひらに唇を押し当てた。
「んっ。アーサー…」
未だ寝ぼけ眼なフランシスがむずがるように手を捻る。
「おはよう。フラン」
「ん―、うん、おはよう」
聞こえてきた声にようやくアーサーに焦点をあわせたフランシスがふにゃりと笑った。
見つめ合う二人には互いしか見えていない。二人の世界がそこに構築され、部屋中にぽんぽん花が咲いているような、そんな雰囲気になる。イギリスやフランスはそれが面白くないようだ。ガリアはそんな様子を遠巻きに見ながら傍らのイングランドに目を向けた。
「なんだよ?」
どうも彼のこちらを見ていたらしい。目があってガリアは苦笑いした。
「なんでもないよ」
イングランドもイギリスもフランスもそしてガリア自身も何一つ忘れずここにいる。アーサーもフランシスも幸せに笑っている。それを見ているとガリアは少しだけ不思議な気持ちになる。ちょっと都合がよすぎかもしれない、なんて思うのだ。でも、きっとそれでいいのだ。だって、ガリアはイングランドのそばにいられる。それだけで良いのだから。
朝の食卓。フランシスが手際よく卵を巻きオムレツを作る横でアーサーがトーストを焼く。
まぁ、フランシスが唯一許したアーサーの朝食の手伝いだ。ったく、アーサーの料理は料理じゃない!実験だろ!
まぁそれは置いといて朝の穏やかな風景。テーブルの上をイギリスやガリアたちがまだかまだかとうろうろしている。これを幸せと呼ぶのだろう。
たくさんのものを失った。ジャンヌ、記憶、友達、しかしその果てにたくさんのものを得た。愛する人、大切な家族、幸せないま。

ジャンヌは俺を裏切り者だと呼ぶのだろうか。いや、呼ばないな。フランシスが記憶を取り戻したことを知り泣き崩れたセーシェル語られた真実に涙が溢れた。
「兄さんのばか!あほ!すっとこどっこい!ジャンヌが、どんな気持ちだったか…それを忘れるなんてあんまりです!ジャンヌは知ってたです。あの眉毛が兄さんのことを好きなこと。兄さんが眉毛を好きになっていたこと!兄さんが気づくよりずっと前に気づいてたですよ!別れ話にいったんですよ?別れましょうって、私は私を一番好きでいてくれる人じゃなきゃいやだからって!そう笑って、なのに帰ってこなかった!」
「…セーシェル、」
「兄さんのばか!どんかん!あほ!」
泣き崩れたセーシェルを抱えながらフランシスも泣いた。その肩にアーサーはそっと手を置いた。知っていたのだ。あの子は、知っていてそれでも助けたのだ。フランシスを、自分を裏切った男を。切なくて悲しくて胸が張り裂けそうだった。自分が最低でどうしようもなくて。でも…
「でもね、ジャンヌは言ったです。二人で幸せになってって、病院で息を引き取る時に確かに言ったです。看取ったのは私です。間違いないです。だから、そこの眉毛!兄さんを幸せにするです!じゃなきゃ許さないです!」
それが免罪符になったわけじゃない。しかし、ジャンヌは優しくて暖かくて、だから、ジャンヌのためにも一歩を踏み出さなければならないと思ったんだ。だから、

「アーサー、いってきます。いってらっしゃい。」
「フランも。」
頬にキスをし合い二人は家を出た。
共に暮らしてもよいと思えた。おはようもいってらっしゃいもただいまも、そしておやすみも共有できる場所。二人のはじめの一歩を踏み出したのだ。

ただ共にいる明日を目指して。

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