そして彼が大人になった理由



 ぎしっ
 掴まれた手首の骨が軋む音がする。どうしてこんな事になったのか、混乱する頭の片隅でこれは痣になるだろうなと思う自分がいる。
「い、痛いよ、トーニョ?」
「ごめんな?」
 その言葉とは裏腹に両腕は簡単に一まとめに押さえつけられてしまう。
 何しに来たんだっけ?どうしてこうなったんだっけ?
「ね、放して…」
「あかん。」
 いっそ清々しいくらいの笑顔で言われてフランシスは固まった。アントーニョの左手がフランシスの身体を這う。
「ちょ、何して…」
「何やろな。なぁフラン、ほんまにあんなガキと付き合うとんの?」
「ガキって、アーサー?そんなの。トーニョには関係ないよ。」
 ついこの間トーニョと5年ぶりの再会を果たした時フランシスはアーサーとデート中だった。
でもアントーニョにそんな事を言われる筋合いはないはずだ。アントーニョと恋人同士だったのは5年前までの話でお互いきちんと話合って別れを決意した。
だから、関係ない。そう言うと手を押さえつける力が強くなった。
「痛い、いたいってば!」
「うーん。せやねん。関係ないはず何やけどなー…なんでやろ?めっちゃ腹立つわ。」
「何言って、」
「せやからちょっと付き合うて?」
 そう言うとアントーニョは丁寧にシャツのボタンを外し始めた。
「何?ちょ、アントーニョ!」
「トーニョ、やろ?」
 思わず叫ぶとにっこりと訂正された。あっという間に上半身を裸にされて外気の冷たさにフランシスが震えた。
「寒い?それとも怖い?」
「やめて…」
 その言葉は届かなかった。
 指先に翻弄される。
「待って、まって!!っつ!!」
 痛みに腰が泳ぐ。何の潤いもなく突き入れられた指に背筋が攣った。
「何や?使うとらんのか?あのガキはまだ童貞なんか。なんや可愛そうやな。」
「何言って、」
「何ってフランシスのここがこんなにきゅうきゅう締め付けて来ることも、フランシスのここが感じる事も知らんってことやろ?」
 指を動かしたまま胸の飾りに歯を立てられてフランシスは悲鳴を上げた。
「ぃや、いや!そこは駄目!」
「だめってでも身体は喜んでるみたいやで?」
 まだ触られてもいないのにフランシスの前はしっかり反応を返している。
恥ずかしい、イヤらしい、こんなのいやだ!
「お願い!だめっ、だめぇ!」
 躊躇なく増やされた指が的確にフランシスのイイ所を刺激してくる。
受け入れる事は5年ぶりでもしっかり快感を拾い上げる身体はいつの間にか手の拘束を外されていても縋るだけで抵抗することができない。
「ん、んぅ!」
 久しぶりのトーニョとのキスは気持ちよくてすぐに夢中になった。舌の根が抜けるほど吸い上げられて頭の後ろが痺れたように何も考えられなくなる。
「気持ちえぇ?」
 些細な事にも反応を返すフランシスにトーニョが嬉しそうに聞いてくるのをフランシスはこくこくと首を振る事で答えた。
気持ちいい。気持ちいいのだ。アントーニョはフランシスの気持ちいいところを知っている。そして容赦なく気持ちいいところを刺激してくるからフランシスはもう何も考えられなかった。
「やっだめ、だめだって!そこは、あぁっ!」
 身体を反転させられて窄まりを熱で押し広げられた。指とは比べ物にならないくらいの熱と質量に無意識にそこから逃れようと身体を浮かせるが、腰を掴まれて引き戻される。
思わず助けを求めて宙に手を彷徨わせるがその指先さえ絡めとられて身動きが取れなくなる。
 ズッズッと小刻みに繰り返される抽挿に揺られるがままフランシスは声を上げた。
「あっあっ、だめ、だめ…」
 次第に呼吸の仕方も分からなくなり頭が朦朧としてくる。その記憶の片隅で泣いて蹲る男の子の姿があった。
泣かないで、泣かないで。『アーサー』
 気づいた瞬間目が覚めた。
「嫌、いや!放して!抜いて!!」
「何言うてんの?こないに気持ちよぉなってんのに?」
 アントーニョはさらに激しく抽挿を繰り返す。
「いや、だめ!っぁああ!」
 身体の奥に弾けた熱にフランシスもまた自身の熱を弾けさせた。
「っはぁ、は、放して。もう、終わり、でしょう?」
 床を這うように前に進むとずるずると身体の奥から抜けていく熱にフランシスはまた感じてしまう。
肌をはだけさせたまま何かに耐えるように目を瞑る姿はフランシスには悪いが逆効果だとしか言いようがない。
「ごめんな?まだあかん。」
 申し訳なさなんて微塵も感じない笑顔でフランシスは最後通告をされた。

 酷使された腰がひどく痛む。散々抽挿を繰り返されたそこはじくじくと痛み床にちらりと見えるどちらのものか分からぬ白濁に混じるピンク色のそれが傷つき出血したのだろうということを教えてくれる。
「大丈夫か?」
 アントーニョにそっと抱き起こされて膝の上に抱えられる。良い年した大人のする体勢ではないだろう。
膝上で横抱きされるように抱きしめられると頬に触れる汗ばんだ肌からトーニョのお日様のような匂いがした。
「大丈夫じゃない。」
「やろうな。」
 悪びれもなくそう言われると怒るものも怒れなくなる。アントーニョはだからずるい。
「ごめんな。」
 そう言われて優しくこめかみに唇を落とされると許してしまいたくなる。
「ねぇ、トーニョの新しい恋人ってどんな人?」
 自分を抱える指にはまる真新しいリングをそっと指でなぞる。
そんな自分の姿にアントーニョは一瞬目を眇めて仕方がなさそうに微笑んだ。
「目ざといなぁ、フランは。気になるん?」
「まぁ元彼として一応ね。」
「せやなぁ、性格はあのガキに似とんで?素直じゃなくて、好きなもんに素直に好きやと言われへん。」
 まぁうちのロヴィの方がうん億倍も可愛いけどな。
「ちょ、うちのアーサーに手出したら殺すからね?」
「誰が出すかあんな糞ガキ。」
 出すのはお前だけや。そう耳元で囁かれるともう何もしたくないのに腰の奥がジンと痺れる。
「ちょ、俺に手を出すのも駄目!これで最後なんだからね!?」
 そう叫ぶとチッとまんざら冗談でもなく舌打ちされた。おいおい冗談じゃない。
「あぁあ、腹立つなぁあの糞ガキ。」
「何でそううちのアーサーを目の敵にすんのよ。」
 本当に不思議そうにフランシスが聞くのでアントーニョはアーサーが可哀想になった。
 あの糞ガキがフランシスのことをどう思っているかなんてフランシスと自分が付き合う前からとっくに気づいとったっちゅうのに。
昔フランシスとデートしとった時偶然見かけたアーサーがどんな顔でフランシスの事を見ていたか。
いつもいつもどれだけ狂おしく必死な目でフランシスのことを追いかけとったかこいつは全く気づいとらんかったらしい。
―罪な男やでほんま。
 その容姿の美しさとフェミニストっぷりで老若男女問わずどれだけの人間を誑かしてきたのか。
 あの糞ガキを何で目の敵にするのかやて?そんなもんお前が俺以上に本気になってもて悔しいからに決まってるやないか。

 悔しいから言うたらんけどな。

「もう心の中で返事したで?」
「ちょ、何それ?」
「えぇから、えぇから。」
「え?ちょ、トーニョ!!」
 身体を支えていたはずの手が不埒な動きを始めるのにフランシスは戸惑った声をあげた。
「最後なんやろ。せやからもうちょっと堪能させて?」
「え?ちょ、もう無理だって!もう出ないから!」
「出さんでええよ。俺が勝手にするから。」
「っあ、やだ、だめだって、だめ!」
「ええやん。気持ちえぇことしよ?」
「しよ?ってそんな可愛く誘ったって駄目なんだからね!っあ!」
 逃れようと身を捩るけれど最初からこうするつもりだったのかと問い詰めたくなるぐらいこの体勢は身動きがとれず逃れられない。
ついさっきまで散々受け入れさせられたそこは指1本ぐらい簡単に飲み込んでしまう。
「んっ、もう、駄目だってば!」
 ぐちゅぐちゅと放たれたもので濡れそぼった窄まりはアントーニョが指を動かすたびに卑猥な音を立てる。
指の隙間からツンと独特の青臭い匂いを放って零れ落ちる白濁は音以上に卑猥だがそれはフランシスは知らなくてもいいことだろう。
 あっという間に引き出された快感でフランシスの白い肌が紅く硬直していく。
その指先で散々翻弄させられた挙句今度はアントーニョの膝の上に向かい合うように抱えられる。
ひたり、と押し当てられた熱にフランシスの身体は意思に反して記憶にある快感を待ちわびるようにひくりと震えた。
 そのままずぶりと一気に自らの自重を手伝い付け根まで飲み込まされてフランシスが声にならない悲鳴と共にのけぞった。
その晒された白い喉元に噛み後を残してアントーニョはフランシスを下から突き上げる。
その強すぎる快感に耐えようとフランシスが必死になってアントーニョの背に縋りつくが、それに気づいたアントーニョはしがみ付くその腕を一纏めにして後ろ手に纏めてしまった。
自分でバランスも取ることができなくなったフランシスはますます深くまで銜え込む羽目になり下手に身動きが取れなくなる。
そんなフランシスをあざ笑うかのように翻弄してくるアントーニョを睨みながらもフランシスは不安定な体勢に耐えるように唯一地に触れる下肢に力を入れた。
「ひぁああ!」
「くっ」
 下肢に力を入れた途端きゅんと中を締め付けてしまいフランシスは嬌声を上げてイッてしまいそうになった。
だが、突然の締め付けにぐっと耐えたアントーニョが今にも放ちそうになってしまったフランシスのものをぎゅっとせき止めてしまう。
「いや、何で?いやいや!イかせてぇ!!」
 フランシスはもう自分が何を言っているかも分からずただただこの苦しさから開放されたくて悲鳴をあげる。
「あかんって。もう出んのやろ?」
「いやぁぁ、もう苦しいからっ、おねがっ」
「だからあかんて。出さんでイッて?」
 そう言った途端再び激しく動き出されてフランシスはその熱と快感に翻弄される。
「うぁ、あ、やぁ、もう、やだって」
 視界が滲む。あぁ泣いてしまったとどこか他人事のようにそう思った。
「ふ、っはぁ、あっ、ーー!!」
「ほらイけた。」
 そうにっこり笑うこいつを殺してもいいだろうか?
「だめ、だめ!動かさないで、いや!!」
 出さずにイッたせいか必要以上に過敏になった中を無遠慮に掻き回されて苦しくて、気持ちよすぎてたまらない。
「だって俺まだイッてへんもん。もうちょっとだけ。」
「恋人に言いつけてやる!」
「あかんよ。ロヴィ焼きもちやきさんなんやから。」
「んっ、ふっ、そ、そんなのこっちもだっつの!」
「な?だからあかんよ。言うたら。二人の秘密な?」
 それは言ったらアーサーにもばらすという事だろうか。本当に最低だこいつ。と会ったこともないアントーニョの新しい恋人に同情したくなる。
 もう本当に死んでくれないかな、こいつ。

 結局アントーニョがイくまで付き合わされた後、後始末の風呂場でも散々翻弄されてフランシスはくたくたになってしまった。

「で、他に言い訳ないのか?」
 首に決して言い訳の聞かないアトを残されて結局何もかもを白状する羽目になったフランシスは自宅でアーサーの前で正座させられていた。
「あ、ありません。」
 アーサーは年下の癖にどうしてこういう時だけ威圧感が増すのだろうか。お兄さんちょっと泣きたい。
「ほう。で散々泣かされて帰ってきたと。気持ちよかったか?あぁ?」
「…ノーコメントで!」
「ってかアントーニョとお前だったらお前の方がネコなんだよな?」
「…ノーコメントで」
「一遍俺もヤってみて良いか?」
「ちょぉおお!?や、それだけは…」
「なんだって?」
「いや、ちょっとそれは、俺はお前を抱くほうが好きだなぁーなんて?」
「聞くわけないって分かってるよな?」
「いや、本当に待って、それだけは勘弁して。」
 幼い頃からの年下の幼馴染に押し倒されるのはちょっとどころでなくフランシスの男の自尊心を刺激する話だ。
「…フラン。」
 今まで一度も使ってくれた事のない愛称を飛びっきり甘い声で囁かれて、フランシスの身体をぞくぞくっと何かが通り抜けた。
あぁこの子はいつの間にこんなに大人になったんだろうか、なんてちょっと場違いにも思える感慨さえ抱いてしまう。

 ―もうどうにでもなれ
 とりあえず次会ったら絶対あいつ殺すとフランシスは心に誓った。



あれ?次週英仏フラグ?

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