病室の楽園

 



「あ…」
「え?」

それは一瞬の出来事だった。

「ふら、…」
ふわりと広がる金糸、驚いて差し伸べた手もむなしくフランスは階段の最上段から宙を舞った。

「フランスさん!」
「フランス!!」

一部始終を見ていたEU各国が慌ててフランスに駆け寄る。その姿をイギリスはただ呆然と見ていた。


フランスが入院した。


その知らせは世界各国を駆け巡った。

「それにしてもほんま、骨折だけですんでよかったで。」
「兄ちゃん大丈夫?」
「頭を打たなくて幸いでしたね。」

「それにしてもイギリスの奴謝りもせんと逃げよって!」

スペインがフランスの枕もとで憤慨している。
そもそもなぜフランスが骨折なんてしたのか。話はEU会議に遡る。その日の会議はいつもどおりで、いつもどおりではなかった。部屋にはフランスとイギリスの声が響く。イギリスが怒声であるのに対し、フランスの声はいたって落ち着いていた。
「だからそんな条件飲めないって言ってるでしょう?」
「うるせーよ!さっきから反対、反対ばっかりしやがって!!」
その声が少し潤んでいるのは気のせいではない。会議が始まってからというもの、EU諸国と意見の合わないイギリスとでイギリスに対し一方的に非難が集中する結果となっていた。
イギリスの意見に対しフランスが冷静に反論を述べる。それに対し各国もフランスに同意を示しイギリスへの非難を口にした。一方的とも言える状況にイギリスの瞳に涙が溜まり声も湿り気を帯びてくる。それでも震える声で意見を主張し続けた会議が上手くまとまるわけもなく、会議は終了となった。会議終了と共に会議室を飛び出したイギリスを追いかけてフランスもまた会議室を出る。フランスはやっとのことで階段前でイギリスを捕まえることが出来た。なんとかなだめようとするがイギリスは聞く耳を持たない。後ろには会議室を出てきた各国がきまずそうにその様子を眺めているのがフランスの視界に入った。と思ったらふわり。体が重力をなくし宙に浮く。驚いて前を見つめるとそこにはイギリスの驚いた顔と伸ばされた手。フランスはそれを掴めることなく地面に叩きつけられた。暗転。次に意識が戻った時にはすでにイギリスの姿はなく真っ白な病室に横たわっていた。

その後は一緒に病院までついてきてくれたスペインやイタリアたちから聞いた話だ。後ろにいたスペインたちから見ればイギリスがフランスを突き飛ばしたように見えたそうだ。慌てて駆け寄ったら俺は完全に意識を飛ばしていて、スペイン曰く、思わず怒鳴ってもたわ、だそうだ。スペインだけではなくドイツにまでやりすぎだ!と怒られたイギリスは何も言わずその場を逃げ去った、らしい。

そこまで聞いてフランスはため息をついた。
「ま、坊ちゃんは謝るの大の苦手だしね。」
苦笑まじりにそう呟けば「フランスは甘いわ!」と逆に怒られてしまった。
スペインのイギリス嫌いこそどうにかならないものか。特に俺がらみになるとなぜかそれが悪化する。俺にしてみればスペインのロマーノに対する態度の方がよっぽど甘いと思う。
それでも長年の悪友が心の底から俺のことを心配してくれてるんだって知っているから。

「スペイン、心配してくれてありがとう、みんなも本当にありがとう。」

それが午後のことだった。

病院の夜ほど心寂しく、薄ら寒い場所はないと思う。フランスは国であるゆえに当然のように個室、しかも最上級の部屋をあてがわれていた。正直ありがた迷惑だと思う。せめて大部屋だったらと思わずにはいられない。それならばこの寂しさもまぎれるはずなのに。

こんな夜はさっさと寝るに限る。フランスが無理やり布団をかぶって目を閉じようとするとカタリという物音がした。
「だれ?」
ヒタヒタというまるで気配を殺すように廊下を歩く音が聞こえる。巡回のナースだろうか?いや、それは先ほど通り過ぎたばっかりだ。フランスの心臓は緊張で早鐘のように鳴り響いていた。正直これは怖い。きっとアメリカだったらとっくに叫び声を上げているはずだ。そんなことを考えている間にも足音は近づいてきて、ヒタリ、足音の立ち止まる音に冷や汗が出た。どう考えても部屋の扉の前に誰かいる。フランスは布団を頭の上までかぶって息を殺す。
ガチャ
そっと回されたドアノブにフランスは声にならない悲鳴を上げた。
ガチャリ
侵入者はそのままゆっくり扉を閉めてさらにベッドに近づいてくる。
冷や汗で汗ばむ手のひらを握り締め何らかの衝撃に備えて歯を食いしばった。

「ふらんす?」
聞こえてきた声があまりにも聞き覚えのある声でフランスは驚いて飛び起き、
「っ!!!!!!」
ようとした瞬間あまりの痛さに悶絶した。
「ふ、フランス!だ、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫じゃない!驚かすな!そもそもこんな時間に何しに来たんだよ、面会時間はとっくに過ぎてんぞ?」
幽霊か何かに勘違いしていた恥ずかしさと驚かされた苛立ちに声が少しとがる。その声に怯えたようにイギリスの体がビクンと震える。
「べ、別になんでもねーよ!てめぇが勝手に落ちたんだろうが!別にあ、謝りに来たんじゃねぇんだからな!」
絞るように出されたあんまりと言えばあんまりなセリフにフランスも思わずむっとなる。
「突き落としといて言いたいことはそれだけ?」
思わず低くなってしまった声に今度こそはっきりとイギリスが怯えて一歩下がった。
「な、べ、別にわざと突き落としたわけじゃ、」
「用がないなら帰ってくんない?」
最後まで言わせることなく言葉を畳み掛ける。なんでこいつは素直にごめんの一言が言えねぇんだよ!
「っ!な、人がせっかく来てやったのに!」
「来てやった?別に呼んでねーよ!」
どんどん悪化する状況にとうとうイギリスの涙腺が決壊した。
「な、なんだよ!昼間だって皆でよってたかって言いたいこと言いやがってぇっ、俺だってわざとあんなことしたんじゃねぇーよぉっ、」
イギリスの瞳から零れ落ちた雫がぱたぱたと病室の床に丸い跡を残す。
はぁ。思わずこぼれたため息に反応してイギリスの体がビクっと震えた。
まったくこの愛しい子は、
「おいで?」
そう言って手を差し伸べるとイギリスは涙に濡れた瞳でじっと手を見つめてしばらくするとふぇっという殺しきれない泣き声をあげてベッドに乗り上げるようにしがみついてきた。
そっと頭を撫でてやると首に回された腕がぎゅぅっと力を増した。
肩の辺りがじんわり濡れているのを感じる。
「ったく、どうして坊ちゃんは素直にごめんが言えないかなぁ?」
「お、俺だって謝ろうとしたのに、スペインが怒鳴るからっ!」
「こぉら、スペインのせいにしないの。」
「だって、会議の後だって、本当は二人でご飯食べに行きたかったのに、朝から楽しみにしてたのに!あんな、ふ、ぅぇ、あんな、」
「しょうがないでしょう?坊ちゃんぼもうちょっと足並みそろえようとしてよねー。」
「うるさい!廊下でだって、突き落とすつもりなんてなかったのに!あいつら俺が突き落としたみたいに、」
「イギリス」
小さな子の駄々っ子みたいにぐずるイギリスに苦笑しつつ頭を撫でてやっていたが、いい加減、
「ごめんなさいは?」
「………ゴメンナサイ」
片言のようにぶっきらぼうに紡がれた、されど謝罪の言葉にこれでよしとするかと思う当たりやっぱりスペインが言ったように俺はイギリスに対して甘いのかもしれないなと苦笑がこぼれる。
それにしてもこの体勢はいかがなものか。ベッドの上で上半身だけ起こしている俺の身体をまたぐようにイギリスがベッドに膝立ちになって首にしがみついている。
体勢だけみればこれって騎乗位なんだよねー。
「ねぇ坊ちゃん。」
「ん?」
「えっちしよ?」
少し身体を離して顔を覗き込むようにして、めちゃくちゃストレートな言葉でお誘いしてみる。すると、
「坊ちゃん顔真っ赤よ?って、うわっ暴力禁止!!」
言葉の意味を理解したとたんイギリスは真っ赤になって拳を振り上げた。思わず防御するように腕を身構えるが衝撃はこない。おそるおそるイギリスを見るとツンとそっぽ向いて振り上げられた拳は下ろされていた。さすがに骨折させた責任を感じているのだろう。今日は暴力禁止だと自分に言い聞かせているようだ。
「けが人が何言ってんだ!」
「うん。だからこのまま坊ちゃんが乗ってくれないかなーって。」
そういった瞬間まだ赤くなれたのか?ってぐらい耳まで赤くなって、大変おいしそう、いや可愛らしい。
その衝動のままぱくりと耳を唇で挟む。そのまま耳の形に合わせて舌で舐るとイギリスは「っぁ」と小さく声をもらしてしがみついてきた。
「ね、イギリス」
名前を呼んだそのまま唇を食む。何度も啄ばむようにしてちゅっちゅっと音を鳴らすと緊張で結ばれていた唇が「ん、やぁ」と否定の言葉に開かれた。隙をねらって舌をもぐりこませる。驚いたように身体をこわばらせるのをそのままに口内を蹂躙した。呼吸さえも奪うような口付けに頭がぼうっとするのかイギリスは特に抵抗もなく、奥のほうで縮こまっていた舌をさぐりだし舌をからめて吸い上げてやる。その頃にはイギリスの体の強張りもとけ、気持ちよさそうにイギリスからも舌を絡めてきた。飲み込めきれなかった唾液がつぅっとあごを伝う頃ようやく二人は唇を離した。
「ふ、はっ、はっ、」
イギリスは忘れていた呼吸を取り戻すかのように荒い息を吐く。フランスがくいっと顎を持ち上げるとイギリスの瞳はすでにとろんと快楽に溶けていた。
「ふらん」
可愛く呼ばれた名に応えるようにまぶたに唇をおとす。
ナニこの子、今日超おとなしいんですけど!おとなしく唇を受けとめる姿は普段のSEXからは考えられないくらい従順だ。今日は本気で暴力を振るわないと決めているらしく抵抗さえもほとんどしない。来ていたスーツの上着を脱がせてネクタイを抜いた。
こんなチャンス滅多にないでしょう!!!!

「ね、イギリス。イギリスの口でシて?」
いつものイギリスだったら絶対してくれないし言った瞬間殴り飛ばされるようなセリフだ。
それでも今のイギリスなら、とわずかな望みをかけてお願いしてみる。すると、イギリスはちょっとむぅっと眉間にしわをよせた。やば、殴られる?と思いきやその仏頂面のままフランスの入院服をかきわけ、ズボンを降ろしてきた。
「え?ちょ、イギリ、っ!」
え?本当にしてくれるの!?フランスが驚いて目を見張るとイギリスは真っ赤に染まった顔を精一杯しかめて「うるさい、黙れ」と叫び、先ほどのキスだけで少し反応しはじめていたフランスのものをきゅっと握った。それにフランスは思わず息を詰める。
イギリスはその様子ににやりと笑いそっと舌を這わせ始めた。
「ん、ふ、」
ぴちゃと水音が響く。
先端を、裏筋を形に添わせるようにイギリスの舌が行き来する。
「きもちぃ?」
「ば!口に入れたまま喋んな!」
言葉の振動がダイレクトに伝わりフランスは思わず声を上げた。それに気をよくしたのかイギリスはにやりと笑って口淫を続ける。
あー、滅多にしてくんないくせに何でこんなに上手いかな、誰と上手くなったの?なんて聞きたくないし、腹立つし!
「イギリス、」
「ん?」
「こっちむいて?」
「は?」
調子に乗ってる自覚はある。ってか殺されるかも。でも…
「煽ったのはイギリスだから。」
そう言ってイギリスのベルトに手をかける。
「あ、離せ!」
イギリスはフランスが何をしようとしているのかに気づき身体をばたつかせる。
「いたっ!」
フランスが顔をしかめてうめくと「あ、」と途端におとなしくなった。その隙にイギリスの身体を掴み反転させる。
「てめー調子に乗んなよ!」
イギリスは足をばたつかせるがあっという間にスラックスを下着ごと抜き取られてしまう。フランスはこういうことにだけ無駄に手際がいい、腹立たしいことに。
あっという間にイギリスは下半身を露出させられてしまった。フランスの手がイギリスのものをそっと握り、そのまま手を上下させゆっくりと口に含まれる。
「んぁっ!や!」
「イギリス、ほら銜えて?」
その声があまりにも甘くてイギリスは言われるがままに再度フランスのものを口に含んだ。竿に舌を絡ませて先端をえぐるように、しかし意識を集中させようにもフランスに刺激される自身が熱くて、体の奥底から沸きあがる熱に集中できない。
「ほら、イギリス口が止まってる。」
何度もフランスにそう言われて銜えなおすが3度目になるともうすがるように握っていることしか出来なくなった。
「や、ぁ、ダメだ、離せ、やぁあああああ!」
「んっ」
フランスの喉が上下されている音にイギリスは羞恥で体が震えた。恥ずかし、死にたい!それ以上に先にイかされてしまった事実が腹立たしくて仕方がない。
「ちくしょ、さいあく」
「何言ってるの?気持ちよかったくせに、お兄さんも大分危なかったけど。」
そう言うフランスのものは完全に起ちあがっている。あと少しだったのに!イギリスは悔しくてもう一度口に含もうとして腕に力をこめ起き上がった。
「ふ、ぁああん!」
が、後孔に暖かく湿った何かが触れるのを感じその場に崩れ落ちた。
「や、それ嫌だ!てめ、離せ!」
フランスは舌を尖らせてイギリスの後孔に唾液を送り込む。
「ん、あぁあ!」
まずは指が一本。簡単に入り込んだ指がぐるりと淵をなぞるように少しずつ奥に差し入れられる。二本目。指で孔を押し広げるように、その時挿入した指の爪先がこりっとした何かに触れた。
「っ!あ!あぁ!や、ひぁ!」
イギリスの感じる部分を重点的に刺激する。3本目が挿入される頃にはイギリスの後孔はぐずぐずにとろけていた。フランスはイギリスを腿の上に抱き起こす。あふれ出た涙を、零れ落ちたよだれを舐め取ってそのまま舌をも絡め取る。イギリスもその口付けに必死で応えていると、
「あっ…」
後孔から指が抜き取られる。今まで己を満たしていたものがなくなりイギリスはどこか不満げな、そしてその行動にさえ感じたのか声をあげた。
そして、ひたり。
後孔に触れた熱にイギリスはフランスにしがみつく。長い時をかけて快楽を覚えこまれた身体はその熱が与えるものを知っていて、ひくひくとひくつかせている。

ぬぷり

ぐずぐずにとろけたイギリスの後孔は簡単にフランスのものを飲み込んだ。
「んぁあああああ!」
先端を飲み込んだと思いきや激しく突き上げられる。一瞬で根元まで埋められて目の前がチカチカした。その後はもうなし崩しだった。声を抑えることもできずただただお互いをむさぼりあう。どれだけの時間がたったのだろうか?次第にイギリスの意識は暗闇に飲み込まれていった。


「ん…」
イギリスが目を開けると知らない天井が視界に入った。一拍考えてあぁここはフランスの病室だったなと思い出す。
フランスの、病室?
イギリスが横をみやるとイギリスの身体に腕を巻きつけて眠る恋人の姿。
「いま、何時?…うわぁあああ!フランス起きろ!」
突然の叫び声にフランスがん〜?と寝ぼけ眼で目を覚ます。
「あら、坊ちゃんいい眺め」
その言葉にはっとして己を見下ろすとかろうじて来ていたはずのシャツさえなく何も身に付けていなかった。
「み、見るなばかぁ!!!」
ところどころに残る鬱血の後や白濁の後。あまりにも濃い情事の痕跡にイギリスは真っ赤になってフランスをなぐりとばした。
「いったぁああ!何するの!?」
「うるさい!なんで裸なんだよ!服どうした!?」
「足元散らばってるー。もう少し寝かせて…」
「こら!さっさと起きろこのクソワイン!!!」
イギリスが慌ててベッドから飛び降りて服をかき集めていると、どろり、後孔から流れ落ちた白濁にイギリスは真っ青になってしゃがみこむ。
その様子を見てフランスが「あー…」とバツがわるそうに頬をかいた。
「いやぁごめんね。後始末しようにも俺骨折してるから歩けなくてさ…」
「て、て、テメー絶対に殺す!!」
「うわ、イギリス!落ち着けって!」
「死ね!今すぐ死にやがれ!このクソ髭!!」


なんてことない朝の風景。

早くしないと看護婦さんが体温計片手に朝の検診にやってくることに気づくまであと、


 

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