なんでもない夏の日



肌に纏わり付くような重い風、湿った雨の匂い。暗く圧し掛かるような雲を見上げてスザクは目を細めた。

ザァァァ…

ポツリという予兆も泣く突然降り始めた雨に、それでも驚くことも慌てることもなく、スザクはただ濡れるがままに歩を進めた。雨脚は強くなる一方だったが今晩はこれで少しは過ごしやすくなるだろうと思うと笑みさえこぼれた。
今年は雨の少ない夏だった。日本をすっぽり覆う高気圧が夏の醍醐味とも言える台風さえも寄せ付けない。
降水量の低さをあざ笑うかのようにあがり続ける気温は人々の、特に愛しい彼とその妹の体力を奪った。
おかげでこの夏は一回もエッチしてないし!!
ルルーシュに聞かれたらお前の頭はそれだけか!と頭をはたかれそうなことを真面目な顔で考えながらスザクは雨の中を歩き続けた。
夏の間うるさいぐらいに鳴り響くセミの音も、昼の3時遊びまわる子どもたちの声も何も聞こえない。聞こえるのは雨と、そして…
「スザク!」
突然名を呼ばれてスザクは雨に俯きがちになっていた視線を上げた。視線を上げたその表情は満面の笑顔。だって、愛しい彼の声を間違えるわけがない。
「、ルルーシュ。」
声の主の名を呼べばルルーシュは憮然とした顔で傘を差し出してくる。
「全く、お前は傘もささずに何をこんな所で突っ立ってるんだ?」
今から君の家に行くよ。そう連絡したのは丁度30分前。雨が降り出したのが10分前。そして、
「迎えに来てくれたんだ?」
「お前が傘なんて持ってなさそうだったからな。」
気のない様子で答えたルルーシュはぷいっとそっぽを向くが赤くなった頬と耳がその言葉を裏切っている。
「ありがとう。でも、」
スザクはそっとルルーシュの傘を持った腕を引っ張る。勢いにつられて傘が宙を舞った。
「雨。あがったよ?」
ぽすりとスザクの腕の中に吸い込まれたルルーシュは降り注ぐ日の光に目を細めた。
「行こう?ナナリーが待ってる。」
スザクは右手に傘を左手にルルーシュの右手を絡めて歩き出した。
いつもの焼け付くような陽光とは異なる、包むような柔らかな太陽。雨に冷やされてひんやりと頬をなでる風。澄んだ空気が二人を包む。そんなある夏の日。




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