「ルルーシュが風邪!?」
久しぶりに軍務から開放され、学校に来たスザクは会いたかった人物の席が空いていることにあからさまに肩を落とした。
せっかく会えると思ったのに…
そのために走って学校に来たというのに…
どこにいるんだろう?屋上?クラブハウス?それともさぼり?
「よっ!久しぶりだなぁ、スザク!」
さっきまでの明るい気分がだんだんと下降しかけた時、明るい声でこちらにやってきた彼にスザクはあわてて笑顔を作った。
「おはよう。久しぶりだね、リヴァル。」
「ルルーシュなら休みだってよ。」
近づいてきたリヴァルにすぐにそう言われてスザクの顔がへにゃりと崩れる。
「そんなに分かりやすかったかな?」と頬に手をあてて聞くと「そりゃぁもう。雛が親鳥を探すかの様な顔だった」と苦笑を返された。
「ごめん。僕恥ずかしいね。ルルーシュはさぼり?」
少し赤くなったであろう頬に手を当てたまま尋ねると返ってきた答えに返したのが冒頭のセリフである。
そうしてスザクは授業が終了した現在、クラブハウスの前に立っていた。
ぴんぽーん(←ルルーシュの家にインターホンとかあったっけ!?)
「誰も出ない。」
先日まで連日連夜ロイドの実験に付き合わされたため今日の軍務は休みだ。スザクは授業が終わってすぐに租界でおみまいの品を購入し、ルルーシュのお見舞いに来た。
しかし、誰も、ナナリーさえいないのか返事は返ってこない。
ためしに扉に触れると扉は内側へ開いた。
「ナナリー?咲世子さん?」
ここに居るだろう人物の名を呼んでも帰る声がない。とりあえずスザクは中に入り扉を閉めた。
「お邪魔しまーす。」
返る声がないと理解しつつも声をかけルルーシュの自室に向かった。
トントン
「ルルーシュ。僕だよ。スザクだ。ルルーシュ?」
しかし、またしても返事は返ってこない。
もしかしたら誰もいないのかな?でもルルーシュは風邪だって言ってたし…
寝てる?もしかしたら部屋で倒れてたりとか!?
だんだん最悪な方向に想像が膨らみスザクはあわててあけた。
「ルルーシュ!!!」
慌てて入ったルルーシュの部屋のベットの上にふくらみがひとつ。
スザクは静かに静かにと唱えつつそろそろとベットに近づく。
するとベットの膨らみがもぞもぞしだし白い腕が覗く。
「んっ…ふぅわぁ…」
伸びをするように伸ばした手をそのままベットに当て身体を起こす。
「むぅ…ふわぁ…よく寝たって、スザク!?お前いつからそこに居たんだ!!??」
身体を起こしてやっと室内にスザクが居たことに気づいたルルーシュははっと慌てて室内を見渡した。
C.C.がいなくてよかったー!!
昨夜風邪をうつされてはかなわんと言い、別室に移動したC.C.に全力で安堵する。
そんなルルーシュの姿を寝ぼけていると思ったのか、スザクは微笑みながらベットに近づいた。
「ごめんね、勝手に入って。学校に行ったらルルーシュが風邪ひいたって聞いてお見舞いに来たんだけど誰もいないみたいで、もしルルーシュが一人で中で倒れてたら!って考えたら思わず」
入っちゃったんだとスザクは眉を下げて言った。
「あぁ、ナナリーにうつしたら大変だし、今日は定期検診があったから咲世子さんにお願いして連れて行ってもらったんだ。」
悪いな、わざわざ見舞いに来てもらって。
そう言って笑うルルーシュの顔は熱があるのかほんのりと赤い。
ルルーシュって肌の色白いからな〜赤いほっぺがかわい…
「スザク?」
ルルーシュをみたまま動かないスザクにルルーシュが声をかけるとはっと気づいたように瞬きをした。
何考えてるんだ、僕は…相手は病人、相手は病人と唱えながらごまかすように片手をあげた。
「はい。ルルーシュ!お見舞い!」
そう言って掲げた箱にはたくさんの苺。
昔スザクがたまに、本当にたまに風邪をひいた時に家政婦さんがよく風邪にはビタミンといって苺を食べさせてくれたのを思い出して授業が終わった後走って買いに行ったものだ。
それにルルーシュは苺が好きだったはず。そう思っていると案の定嬉しそうに目を輝かせたルルーシュがありがとう、と微笑んだ。
うわぁ、熱に潤んだ瞳に、赤いほっぺが!微笑が!!かわいい!!!
思わずぐっと手に力が入る。いやいや、相手は病人!相手は病人!!
でなければ何をしようというのか…
「これ洗ってくるね!」とスザクは逃げるように部屋を出た。
器に苺を盛って、フォークと一緒に部屋に戻ると、ルルーシュはベットから完全に身体を起こして待っていた。
うわぁ、嬉しそう…
「はい、これもって。」そういって器を渡すと、礼もそこそこにすぐに食べだそうとしたルルーシュにちょっと待った!と声をかける。
久しぶりの苺にさぁ食べるぞ!というところでお預けをくらわされて思わされて眉間にしわがよった。
そのままなんだ?というように顔を上げたルルーシュの目の前に赤い何かが映る。
「こんでんすみるく?」
視界いっぱいのパッケージを読むとスザクが嬉しげにうなずいた。
「これうちにあったか?」思わず冷蔵庫の中身を思い浮かべてスザクに聞いた。確かここ最近苺なんて食べてないから買い置きはなかったはずだ。
「昔うちで食べた時これ持ってきたらすごく嬉しそうだったの思い出して買ってきたんだ。」
7年前、ルルーシュはやっとの思いでナナリーのために苺を買ってきた。それをそのまま食べようとした時にちょっと待って!といってスザクが家から持ってきたのが練乳だった。
「苺にはこれをかけたらおいしいんだ。」そう言ってかけてもらった苺は言うとおりとても甘くて、ナナリーと二人で「おいしいね」と微笑みあった覚えが在る。ただ、それは一度きりで、
「よく覚えてたな…」と思わず呟くと「もちろんだよ!」とスザクは笑った。
「だってルルーシュとナナリーのことだもん!!」と答えルルーシュの器にコンデンスミルクをかけようとした。
その時、
「ありがとう」と微笑んだルルーシュをみて思わず手に力が入った。
「うわっ!」
ルルーシュの慌てた声にはっと我にかかると強く押しすぎたコンデンスミルクが器を通り越してルルーシュに胸元にかかっていた。
「ごっごめん!!タオル!ティッシュ!?」
ルルーシュのパジャマを汚したことに気づき真っ青になる。
「何してるんだお前は!とりあえずベットは汚れてないな…」
と、怒り交じりにあきれた声で掛け布団を汚れないようにどけ、器をベットサイドに置き、ベットから下りた。
そしてスザクはそんなルルーシュを見ながらしっぽをたらした犬のようにうつむいて反省していた。
が、
まだぶつぶつと文句を言いながらパジャマのボタンをはずし始めたルルーシュをみて目をむいた。
「えっ!?る、るるーしゅ!?何してるの!!」
と急にわたわたし始めたスザクを横目でにらみながら「お前のせいだろうが!こんなべとべとなパジャマ着てられるか!!」と叫んだ。
その時、うつむいたルルーシュのほっぺにコンデンスミルクの雫が飛んでるのを見つけた。
熱で赤らんだほっぺたに白い…… ぷつっ
ぺろっ
「なっ!何するんだ!?」
ルルーシュはぱっとなめられた頬に手を当てた。
「え?だってほほにも付いたから。」とスザクは自分の頬に手を当てて示した。
「そんなもの口で言えばいいだろうが!!」と叫ぶと「あっ…ごめん、思わず。」と全然悪びれない返事が返ってくる。
お前は見舞いに来たのか!?邪魔しに来たのか!?とルルーシュがまた叫ぼうとしたら
「ほらここにも」
そう言って、両方の二の腕を掴み、はだけた胸元に顔を寄せた。
「お前!なっ何して!!」
慌ててスザクの頭を押し返そうとすると反対に身体を押されベットに倒れこむ。
驚いて目をつむって倒れた衝撃を逃し、再び目を開けるとすでにスザクにのしかかられていた。
さすがに自分の状況に気づきもがくが力の入らない今の身体では腕に力をこめることも億劫で、
それでも「俺は病人だぞ!」と目に力をこめにらみつけた。
が、
「そんな濡れた瞳で言われても、逆効果だよ…ルルーシュ。それに運動して汗かいたほうが風邪には良いって言うよね?」
と、満面の笑みで返された。
「そんな事言うかー!!!」
その後、ルルーシュの風邪が治ったか、悪化したかはわからない。
ただ、チューブにまだ残っているにもかかわらずなぜかコンデンスミルクがゴミ箱に入って咲世子は首をかしげるのだった。
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