ずっと二人で幸せに。そんな御伽噺みたいなことを望んでたわけじゃなかった。
それでも、
この幸せがこんな結末を迎えるなんて思っていなかった。
なぁ、フランシス。ごめん。俺はどうやってお前に償えばいい?
記憶もなく、身寄りもなく、元奴隷身分の俺。軍学校ではいつも一人ぼっち。それが当たり前だと思っていた。
そんな日々に突然現れたお前。お前はこんな俺に話しかけてくれた。笑いかけてくれた。
友達になってくれた。
生まれて初めての友達。
素直に言えなかったけど、嬉しくて、毎日が楽しくて、幸せだった。
あいつさえ現れなければ。
軍学校卒業試験。
あいつは現れた。
試験を見学に来た将校。
あいつを一目見たとき脳が揺さぶられた。
思い出す記憶。
あいつは父を殺した男。俺の体は思わず動いて、気がついたらあいつに切りかかった罪で投獄されてた。
このまま俺は死ぬのか。
そう思ってたときお前が現れてこう言った。
「逃げろ。生き延びるんだ!!」
なぁフランシス。あの時お前を一緒に連れ出せたら運命は変わったか?
逃げ延びた協会区。軍は立ち入ることのできないこの場所で俺はずっとお前のことを思っていた。
与えられる平穏。その中であの場所に残されたお前のことを思ってた。
だからお前が現れたとき俺は嬉しかったんだ。
でも、再開できたお前は様子がおかしかった。
やさしくて、あたたかくて、ほっとする。けどどこかにかげりを帯びていた。
でも、俺は気づかないふりをした。だって、お前がそばにいるのに、すごく幸せなのに不吉な影なんて見たくなかった。
それがいけなかったのか?
「っあ!あ、い、いやだ!いやだ!フランシス!!」
フランスの輪郭が次第に曖昧になる。
俺のせいで傷ついて、利用されて、命さえも!
なんで、なんで!なんで!!
「い、いやだ、いやだ!!フランシス、フランシス!!」
輪郭から砂のようにフランスの体が崩れる。空気に溶けていく。
「なんでなんだよ!なんでかばったりした!なんで!!」
「坊ちゃん。」
「お前が死ぬことなんてなかっただろう!俺のことかばったりしなければ、お前は!」
フランスを形成していたはずのものが砂になって消えていく。
「ごめんね。でも坊ちゃんは俺の友達で、家族みたいなもんだろう?誓ったじゃん。お互いを守るって、絶対見捨てたりしないって。」
フランシスが消えてしまう。いなくなってしまう。
フランスが
死んでしまう。
「いやだ!いやだ!!」
「いいか、アーサー。あいつらを敵に回すな。復讐なんてするな。お前は光の道を行け。」
「いやだ、いやだ…」
いつのまにか俺の瞳からは涙がこぼれていた。
あぁ、なんで、涙でフランシスが霞む。
霞む理由が涙だけだったらどれだけ救われただろうか。
俺は精一杯フランシスにしがみついた。
消えないで。ここにいて。思いをこめてしがみつく。
でも、
「さようなら。アーサー。」
「ふら、っ」
消えた感触。フランシスのぬくもり。
抱きしめていたはずの腕が宙をかく。
「ぁ、あ、ああ、あ゛ぁああああああああああ!!」
フランシスが しんだ
あの日から俺はずっと部屋に引きこもっている。
時々ギルベルトやエリザベータが様子を見に来てくれたが何もする気になれなかった。
だって、フランシスがいないんだ。
もう、どこにも、いないんだ。
コンコン
ノックの音が聞こえる。だが俺は反応する気にもなれなかった。
「おい、入るぞ、アーサー。」
ギルベルトが勝手に入ってくる。
「おい、いてんじゃねぇか。ちゃんと返事しろよな。ったく、お前に客だぞ。」
「・・・」
「おい聞いてんのかよ。」
「・・・」
「はぁ。ったく、」
何もする気になれない。誰とも会いたくない。
ギルベルトがこちらに近づいてくる音がする。
「一人にしてくれ!おれは、」
「アーサー。」
「アーサー。」
耳を震わせる音。声。
「アーサー。こっち向いてよ。アーサー。」
イギリスは混乱していた。聞き覚えのありすぎる声。一瞬たりとも忘れたことはなかった。
夢を見ているのかもしれない。都合のいい夢。
怖くて、これが夢だったとしたら、怖くて。俺はベッドの上で入り口に背を向けたまま凍りついていた。
そのとき、声の主がベッドを回りこむ気配がして、
視界に太陽に輝く金糸と深い深い、海の色。
「ふらんしす?」震えるような声で音を出す。
「ただいま、坊ちゃん。」
「ふ、ふらん!!」
こらえきれなくなった涙がほほを伝う。
力をこめて抱きしめても、フランシスは崩れたりしなかった。
あたたかい、生身の体。
「ふらん、ふらん、ふらん!ふらん!!」
壊れるように名前をつぶやきしがみつく。
二度と離れることのないように。
二度と失わないように。
このとき誓ったんだ。二度とお前を失ったりしないって。
今度こそ守ってみせるって誓ったんだ。
でも、今はしばし、そのぬくもりを
おれにわけて。
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