1000年目の祝い



「誕生日って、そんなにいいものなのか?」

「へ?」

 イギリスが突然そんなことを言い出すものだから俺は驚いて読んでいた小説から視線をあげイギリスを見た。

「この前誕生日なんて必要ないって言ってたのは誰だっけ?」

 そう、ちょうど2ヶ月前俺の誕生日を祝いに来たイギリスに「お前もなにか祝ってやるよ」と言ったのをすげなく断られたばかりだ。
 なのにそれもわすれてこの坊ちゃんは何を言ってるんだか…

「さっき、レストラン貸切にして誕生日パーティーしてたところがあった、だろう?」
 そういわれれば、
 今日は久しぶりにお互いの休日が重なったため、朝からユーロスターに乗って、駅まで迎えに来たイギリスと二人でイギリスの家に帰ってきた。
 それからイギリスの淹れた紅茶を飲みながらやっとくつろげたと思ったところにいきなりこの話だ。
「それってさっき通ったレストランのこと?やけにじっと見てるから何かと思えば、お前よくそんなの見つけたな。」
 たまたま信号にひっかかったときじーっと窓を見てるから何事かと思いきやイギリスはそんなものをめざとく見つけていたらしい。
「べ、別に!た、たまたま目に入っただけだからな! た、ただ、」
「ただ?」
「お、お前も誕生日は無駄に派手に祝ってたからな、だ、だからそこまでして祝いたいものなのか気になっただけだ!」

 そう言って顔を赤くするイギリスを俺はまじまじと見つめた。
「な、見んな!ばかぁ!!」
「や、うん。」
「な、何がうんだよ!」
「あー。お前来週末も休みだったよな?」
「は?あ、あぁ。」
「開けとけよ。俺んちにおいで?」
 イギリスはいきなり話を変えた俺についていけていないようだ。
「な、なんでだよ!」
「まぁまぁ、いいから、ね?」
 そんなこんなでイギリスに来週の約束を取り付けた俺は来週の計画を立て始めたわけだ。

 そして6日後。

 フランスは仕事を終え帰宅するとまずは抱えていた大きな荷物をおろし、大きく伸びをする。
 さすがに少し買いすぎた。
 それでもフランスは明日のことを考えると自然と顔がにやけてくるのを感じた。

 思えば出会ってから約1000年あいつをそういう意味で祝ってやったことは一度もなかった。もともと誕生日なんて概念がなかったからではあるのだが、俺だって誕生日なんて概念を持ったのは人生のうちのごく最近のことだ。
 誰にも生まれてきたことを祝ってもらったことがないというのは寂しいことだと、お兄さんは思うのです。

 イギリスは喜んでくれるだろうか?

 明日のことを胸いっぱいに膨らませてフランスは仕事で疲れた体に鞭打って明日の準備を始めた。

 そして当日。

 ピンポーン。鳴らされるベルと共に俺は駆け出した。玄関前まで来て身だしなみを整える。そして玄関を開けると共に盛大に手にしていたクラッカーを打ち鳴らした。
「うおぉ!な、なんだ!?」
「いらっしゃい!イギリス。」
 突然鳴り響いた大きな音にイギリスは驚いてしまったようだ。でも、クラッカーから飛び出たカラーテープを頭からかぶって目を白黒させてる姿はまぬけ、いや可愛いかった。
 成功成功。

「てめ、いきなり何しやがる!!」
「ん?いいからいいから。」
 怒ってつかみかかってくるイギリスをかわし中へ誘導する。驚くのはまだまだこれからってね!

「なんなんだよ!!おい!聞いてんの、か…」
 リビングのドアを開けてイギリスを招きいれてやる。怒鳴り続けていたイギリスはリビングの様子に驚いたように口をつぐんだ。
「Hapy Birthday。イギリス。」
 イギリスの後ろから先週から温めていた言葉を告げてやるとイギリスはぴくんと震えて振り返った。
「な、なんだ?これ…」
 リビングはあちこちをバラの花を活けて飾り付けてある。テーブルの上には二人で食べるには少し大きすぎるホールケーキにバランスよくローソクを差しており、中央にはHappy Birthdayと文字まで入れてある。
 それはまごうことなく誕生日パーティーだった。
「なんだ?って、誕生日、いいものか?っていうから実際に体験した方が早いと思って。」
 フランスはそう答えてイギリスを促して席につかせる。

「あらためてお誕生日おめでとう。」
 そう正面から言ってやるとイギリスは顔を真っ赤にしてきっとにらみつけてきた。
「な、なんで今日なんだよ!別に今日は誕生日じゃねぇーぞ!」
「そりゃそうでしょう。だってお前誕生日ないじゃん。こういうのはさいつでもいいんだよ。ただ1年に一回祝ってもらえる日があるって事実の方が大事なの。だから今日で全然いいんです!」
「な、なんだよ、それ。」
「嬉しいなら嬉しいって素直に言ってくれるとお兄さん嬉しいんだけど。そうそう、お前のためにプレゼントも用意したんだぜ!」
 そう言って笑いかけるとイギリスは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「べ、別に嬉しいわけじゃないからな!た、ただせっかくの料理がもったいないから!だからしょうがなくなんだからな!!」
「はいはい。」
 耳まで真っ赤にしてるくせに何を言うかと思ったが今日はイギリスの誕生日だ。とびっきり甘やかしてやると決めている。

「とりあえず。乾杯しよう!」
 そういって取り出したワインは結構値の張るものだ。
「誕生日おめでとう。」そう言ってグラスを合わせる。
 イギリスは耳まで真っ赤にしたままうつむいてワインを口に含んだ。
 その後、イギリスも次第に落ち着いたようで、アルコールのせいだったらやだな…、その後は二人で次々と俺が出す料理を平らげていった。
 
「なんか、誕生日たっていつもと同じじゃねぇか。お前の飯食って、デザート食って。」
 そう言うイギリスは言葉は可愛くないものの顔は緩んでいて、素直じゃないなぁと思うもののとても可愛い。
 でも、誕生日がこれだけだと思うなよ!

「はい。プレゼント。」
 そう言って渡したのは一つの小包。素直じゃないこと言いながらも顔がしっかり緩んでいたイギリスは驚いたようにこっちを向いた。
「俺に?」
「もちろん!あけてみて?」
 些細な贈り物ならいつもしてる。それはお菓子だったり、趣味の悪いイギリスに洋服のプレゼントだったり。
 でもこうやって改まってプレゼントを渡すのは初めてだった。
 だから
 たくさん考えたんだ。何がいいかなって。
「これ、ピアス?」
 イギリスが取り出したのは澄んだ青の石のついたピアス。
「昔よくこういうの付けてたじゃん。最近はあんまり見ないけど結構好きでしょう?」
「お前の目の色だ。」
 う、イギリスがぼーっとそれを眺めてるから心配になって覗き込むとぽつりとそんなことを言うものだから、顔が熱い…
 だから恥ずかしかったんだ!
 自分の色を身に付けて欲しいなんて、なんだか子供じみた独占欲みたいで…
「     …。」
「ん?」
「あ、あありがとうって言ってんだよ!」
 でも、ピアスを握り締めてそっぽむいたイギリスがとても嬉しそうで、
「喜んでいただけて光栄です。」
 フランスはそっとその手をとり口付けた。
 まるで御伽噺で王子様がお姫様の手に口付けを送るように。
 それにまたイギリスは真っ赤になってそっぽを向いてしまう。

 かわいい。いとしい。目の前いるこの存在が愛しい。
 
 出会ってから今日まで、いつお互いが滅んでしまっても仕方なかった。憎んだし、殺しあった。
 それでも今日も俺たちは生きていて今二人でこうして向き合ってる。
 だから、
「生まれてきてくれてありがとう。」
「え?」
「そもそものすべての始まりはお前が生まれてきてくれたからだろ?だから俺たちは出会ってここにいる。」
「な、何言って!」
「誕生日ってそういう日なんだよ。」
 そう言ってフランスはそっとイギリスを抱きしめた。
「生まれてきてくれたことに対する感謝を幸せを伝える日。だから、生まれてきてくれてありがとう、イギリス。」
 肩にぽつっと何かが落ちて薄いシャツ越しにじんわりと染みていくのを感じた。
「泣いてる?」
「な、泣いてなんかねぇよ!」
「…うそつき。」
 わかりきったツンデレテンプレートに思わず苦笑するとぎゅっとしがみつく強さが強くなった。

「べ、別にう、生まれてきても出会わなかったかも知れねぇじゃんか。も、もしかしたら俺が南のそれこそ小さな島国とかだったら出会わなかったかもしれねぇだろ!」
 何を言うかと思えば…
「馬鹿だな〜イギリスは。」
「ば、馬鹿っていうなぁ!」
 即座に帰ってくる返事に笑うしかない。
「出会ったさ。俺たちは、絶対出会った。たとえどんな場所に生まれようとも、俺はお前に会いに行くよ。」
「は、恥ずかしいこと言ってんな!ばか!!くそワイン!」
「確かにちょっと恥ずかしかったけど、そこまで言うか!?」
「馬鹿に馬鹿っていって何が悪いんだ馬鹿!!」
「あぁ!馬鹿っていったな!三回も言ったな!!」
「ふん!ばーか!ばーか!!」
 ったく、可愛くねー!
 あまりの天邪鬼にさっきの甘い雰囲気はどこへやら。フランスがあぁあと思って抱きしめていた手を解き離れようとするとくいっとすそを引っ張られた。

「…ありがとう。」

 前言撤回。俺の恋人は世界一可愛い




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