視線一歩分先の恋



フランスを言葉にして表すのならば『きらきら』だと俺は割と本気で思っている。

小さいころだけじゃない、今の髭面になってからもそう思うのは変わっていないのだから俺は相当の阿呆だと思う。

だって本当にきらきらして見えるんだ。

仕方ないじゃないか。

そう誰に聞かせるでもなく呟いた。

イギリスは小さくため息をついてフランスを見やる。
長く続いた世界会議もやっと終わり各自がせっかく集まったんだし、とこの後の予定を話し合っている。

イギリスはその中でひとり、ぽつんと自分の席に座り書類をまとめていた。

視線の先にいるフランスの周りには、

「フランス、来週のEU会議についてなんだが、」
「兄ちゃん!ドイツも!一緒にご飯食べに行こうよ!俺パスタが食べたいなぁ。」
「お、いいなぁ、イタリアちゃん。俺も行きたいわ。フランス!一緒にメシくいに行こうや!ロマーノも来るやろ?」
「べ、別に俺は、行ってやってもいいぞこのやろー!」
「よし、じゃあ俺様も一緒に行ってやるよ!」
「いや、別にプーちゃんに来いとか誰も言っとらんで?」

にぎやか、だな…

いつもそうだったと思う。フランスの周りはいつも人が寄ってくる。
きっとみんなもフランスのきらきらに引き寄せられてるんだ。

最初は単純にうらやましいと思っていた。

兄から疎まれて、傷つけられて、世界のすべてが敵だと信じていた。
信じられるのは森に棲む動物や妖精たちだけなのだと思っていた。

そんな時であった 光

太陽にキラキラと輝く黄金の髪。キラキラ光る水面のような瞳。キラキラの服。

初めて会ったとき天使様かと間違うほどにフランスはキラキラして見えた。

そんな彼のまわりにはいつも人で溢れてて、うらやましかった。独りの寂しさを知った俺にはフランスは憧れだった。

でも、いつからだろう。

いつからそんな姿を苦しく思うようになったんだろうか。

いっつもいっつも一緒にいやがって、何がEUの双頭だ!
イタリア!お前はドイツ連れてどっか行きやがれ!
ちっ、スペインの野郎…いっつもフランスとつるみやがって!
ロマーノ!そこは否定するところだろう!
お前なんかよんでねぇんだよプロイセン!

はぁ。

思わずため息がこぼれる。

フランスのばか!こっち向けよ!ちくしょう!!

イギリスが心の中で叫んだとき、フランスがふとこっちを向いた。
聞こえていたなんてことはありえないって分かっているのにまさか聞かれたか?なんて気にさせるタイミング。
フランスの口が開きかけたとき後ろからものすごい衝撃が来た。

「イッギーリス!」
「ぐはっ!てっめぇ何しやがる!このメタボ!お前のタックルがどれだけの勢いもってるかわかってんのか!?」

後ろから突然体当たりに近い調子で抱きついてきたアメリカを叱り飛ばす。
だって、このままじゃいつか死ぬ。

「だいたいお前はなぁー…」
立ち上がって説教してやろうとしてふと前を見るとフランスはもうこちらを向いていなかった。

ちくん

胸に何かが刺さっているような気がする。

イギリスはその何かを振り払うように説教を始めた。


***

だって、君ずっと熱くフランスのこと見つめてたんだぞ。

アメリカはひとりごちた。

会議が終わってアメリカは大きく伸びをする。

ああ今日も素晴らしい会議だったんだぞ!とアメリカは思う。今日もアメリカは自分の考えた素晴らしい案を会議に提出することができた。

イギリスがつっかかってくるのはいつものことなんだぞー。

そうだ!どうせイギリスは今日も独り寂しく食事だろうから親切な俺が誘ってやるんだぞ!

なんていい考えなんだ!と思ってアメリカがイギリスを見やるとイギリスは書類を片付ける手を止めてどこかをじーっと見ていた。

その目線の先を追っていくと、

フランス か。

イギリスはじーっとフランスのことを見ていた。というより見つめていた。

何かに焦がれるように、凪いだように見えてその実は熱いココロを秘めた視線。

アメリカがイギリスを見るのと 同じ 視線。

アメリカはそんなイギリスを見るたび悔しくなる。
イギリスのことが好きで、好きで、子供扱いじゃないもっとちゃんとした扱いをしてほしくて独立した。

でも、そうして気づいたのは…

独立するまではアメリカは知らなかった。一緒にいるときイギリスは俺を一番大事にしてくれた。ずっと俺だけを見ていてくれた。

でも、離れてからは、イギリスはあんな目で、あんな表情で俺を見たりしない。
ずっと仲が悪いんだと思ってた。学んだ歴史も彼らの仲の悪さを物語っていた。

でも、本当に嫌っているならあんな顔はしないんだぞ。とアメリカは思う。

アメリカは悔しかった。イギリスのその目は俺を映すことがない。それが無性に悔しかった。

だから、フランスがふとイギリスのほうを向いた。お互いの視線が重なり合う。
そこには誰も入り込めない何かが通じあっているようで、

そんなのいやなんだぞ

と、アメリカは彼特有の子どもじみた考えでイギリスに体当たりをした。

怒りながら振り向いたイギリスの瞳にはもう熱がこもっていなくてがっかりする。
でも、ふたりの世界を作られたら、俺は入り込めないからこれでいいんだぞ!

「イギリス!一緒にごはんに行くんだぞ!」
「あぁ?」
「どうせ君は誰とも約束してないんだろ?」
「う、うるせぇよ!お、俺だって約束の1つや2つ!」
「あるのかい?」
「うっ、それは…」
「じゃあいいじゃないか!これで、」

決定だ!そう言おうとしたら足音がこちらに近づいてきて、

「だぁめ。イギリスはお兄さんと一緒にご飯行く約束してるの。」

そう言ってフランスがイギリスの後ろから現れた。

「君たちいつ約束してたのさ!俺のほうが先約だろう?」

何のためにさっき君たちの視線をぶったぎったと思ってるんだい!?とアメリカは思ったが、

「ん?したよ、さっき、目が合ったとき。なぁイギリス?」
フランスがうしろからイギリスにもたれながら話しかけるとイギリスは耳まで真っ赤になって、

「してねぇよ!!行くぞ!アメリカ!!!!」

そう叫んで俺の腕を引っ張った。

あぁあ、そんなんだからダメなんだぞ。ま、俺には好都合だけどね。

後ろでは「ありゃりゃ。お兄さんふられちゃった。」とフランスが言っているのが聞こえた。

会議室を出るとイギリスの足が止まった。アメリカが顔を覗くとイギリスが今にも泣きそうな顔でアメリカの腕を握っている。

「そんなに後悔するならどうしてあんなこと言ったりしたんだい?素直じゃないにもほどがあるよ。」

その悲しそうな表情に思わずアメリカがため息をつくと、イギリスの方がびくっと震えた。

「だって、」
「だってじゃないよ。ったく戻りなよ。今ならまだフランスは待っててくれてるよ。」
「でも、」

ったく、食事中もそんな顔されてたらおいしいご飯もまずくなるじゃないか!!

「いいから、行きなよ。ここでフランスが誰かほかのやつとご飯行ったらまた落ち込むくせに。」
「うっ…わりぃアメリカ。」

「悪いと思うなら俺のこと好きになってくれよ。」
アメリカは、そう遠くなったイギリスの背中に呟いた。声はもう届かない。会議室の扉がばたんと締まりアメリカにはイギリスの姿が見えなくなった。

今頃真っ赤な顔でフランスを呼び止めてるんだろう。そう考えると無意識に手にぎゅっと力がこもった。

「こんなところで何してるんだい?アメリカ」
「カナダ…」
「君、ひどい顔してるよ。おいで兄弟。今日は一緒にご飯を食べよう。聞いてあげるよ君の話。」
真っ白い熊を抱きしめてカナダが差し伸べてきた手をアメリカは握り返し二人は会議場を後にした。

***

「それにしてもさー坊ちゃんが戻ってくるとは思わなかった。」
あやうくドイツたちと一緒に行くところだった。とフランスが笑えば隣のイギリスがむぅっと不機嫌になるのが分かった。

「う、うるせーよ!わ、悪いかよ!なんとなくそんな気分だったんだ!!」
「お兄さんと一緒に食事いく気分?」
「そ、そーだよ!悪いか!!??」
「悪くない、悪くない。むしろお兄さんは嬉しいよ?」

そう言ってフランスが笑うとイギリスは真っ赤になってうつむいた。
しかし、正直言って本当に驚いたのだ。
ドイツたちと話していたとき、妙に視線を感じて振り向くとイギリスが席に座ったっままこちらを見ていた。
寂しがりやな坊ちゃんのことだ。まぁたみんなの輪に入れなくなっていいなぁとか思っていたんだろうが、イギリスをこっちに呼んでやろうとしたら同じタイミングでアメリカがやってきた。

アメリカに甘い坊ちゃんのことだ。どうせアメリカに誘われたら喜んで一緒に行くのだろう。
そう考えるとなんだかむかっとした。

…なんで俺がムカッとしなきゃなんないんだ?イギリスがアメリカにべた甘なのはいまさらだろう?

案の定アメリカはイギリスを誘っていてイギリスも口でなんだかんだとはいいつつも押されていて、
あぁこのままだとすぐにでもイギリスはアメリカと一緒にメシ食べに行くのかと思ったら体が勝手に動いた。

「だぁめ。イギリスはお兄さんと一緒にご飯行く約束してるの。」
イギリスに後ろから抱きつくように二人の会話をさえぎった。

「君たちいつ約束してたのさ!俺のほうが先約だろう?」

案の定会話をさえぎられて不機嫌になったアメリカが言い返してくるがフランスはからかうように、

「ん?したよ、さっき、目が合ったとき。なぁイギリス?」
と答えてやった。
するとイギリスが真っ赤になってフランスの腕を振り払う。

「してねぇよ!!行くぞ!アメリカ!!!!」

そう叫んでそのままアメリカの腕を引っ張って出て行ってしまった。

「ありゃりゃ。お兄さんふられちゃった。」
あぁ、やりすぎた。
きっと二人は一緒に仲良く並んで飯を食うんだろう。そう考えると胸の奥がむかむかする。

その思いをふりきるようにフランスが扉に背を向けてドイツたちのところに戻ろうとすると ばん!と音を立てて再び会議室の扉が開かれた。
フランスがびっくりして振り返るとイギリスがずんずん歩いてきてがしっとフランスの腕をつかむ。

「あ、あの、坊ちゃん?」
ふらんすが戸惑うように声をかけるとイギリスがばっと顔を上げた。
その顔は今から自分がすることの恥ずかしさに真っ赤に染まっていて、
「行ってやる。」
「え?」
「だから!一緒にメシ行ってやるって言ってんだよ!!」
「………へ?」
「な、なんだよ嫌なのかよ!せっかく俺が誘ってやってるんだぞ!!」
断られると思ったのかイギリスの顔はもっと真っ赤になって瞳にうっすらと涙が滲む。

「な、断るわけないでしょう!?い、行くよ!行くに決まってるじゃん!」
慌ててフランスがそういうとイギリスはほっとしたように顔を緩ませた。

何この子!!かわいい!!

そして二人はフランスオススメのレストランで少し早めの夕食となっている。

すでに二人には酒が入りほんのり出来上がっていた。

「お兄さんはイギリスが誘ってくれてとっても嬉しいです。」
もう一度ちゃんとイギリスに聞かせるようにフランスが言うとうつむいたイギリスは更に顔を真っ赤にさせた。

まだ、赤くなれたのね。そんなことを思いながらフランスはくすくすと笑う。

「だったら、」
「ん?」
「だったら、俺に誘われて嬉しいなら!他のやつと一緒に行ったりすんなよ!!」
「へ?」
「ドイツとか、スペインとか、別にいつもあってるだろうが!!別にこんなときにも一緒にいなくても、いいだろう!?」
突然何を言い出すかと思えば、フランスがあっけにとられてイギリスを見たが内容が頭に浸透してくると顔が緩んできた。

「な、何ニヨニヨしてんだ。きもちわりぃ…」
「いんや〜?べっつに〜?ただ、イギリスさんはお兄さんに嫉妬してくれたのかな〜とか思っただけ。」
「だ、誰が嫉妬なんかするか!このくそワイン!!」
「照れなくってもいいのよ?」
「誰も照れてなんかいない!」
「じゃあそういうことにしてやりますか。」
「そういうことも何もあるかー!!」

そして二人の夜は更ける。



仏→←英←米で自分の気持ちに自覚のない仏と、
自覚しても認めたくない英と、全部分かってる米で嫉妬甘々のつもり…
私の神ヒトミさんに捧げます!
たぶんリクエストに添えてないと思うので言ってください!
書き直します!!
こんなに遅くなりましたが、その節は本当にありがとうございました!!!


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