「イギリス、お前の愛は本当に痛いよね。」
それはいつものこと。
午前中にフランスで行われた欧州会議で案の定イギリスとケンカになり、2、3発くらって、もちろん同じだけ殴り返してやった。
その後とりあえず一緒にメシでも食うかって現在地はフランスの自宅。
時刻は昼すぎ。オレお手製のランチを完食して気持ちよさげにリビングのソファでイギリスと二人並んでまどろんでいるところである。
そこで今朝殴られた箇所を撫でながら発した一言がこれである。
「あぁ?痛くない愛ってどんなんだよ。」
それに帰ってきたイギリスの返事が コレ。
…やっぱりお兄さん育て方間違ったのかなー。
その答えに思わず目を泳がせながら考える。
「愛情たっぷり育てたつもりだったんだけどなー。」
そうわざと聞こえるようにつぶやいてやるとイギリスは可愛げなんてあったものではなく、
「いつもすぐ本拠地に帰ったくせに。気が向いたときにしかこなかったくせに。」と言いやがった。
そりゃ、
「え?そりゃお兄さんにだって国の仕事がありますもの。そういつまでもお前のところにいるっつぅわけにもいかないでしょ?」
お前もアメリカ育てたんだからそれぐらいわかるでしょうが。
「でも久しぶりに会えたときには愛情たっぷりに世話してやったつもりデスヨ?」
これはまごうことなく本音だ。でもそれに対してもこいつは可愛げもなく、
「何が愛情だよ。俺はお前に育てられた覚えはねぇよ。」
とか言いやがる。
「エー?そんなこというの!?」
あんなにお菓子やったり、遊んでやったりしたのに!!
「ってか、同じことアメリカに言われたらめちゃくちゃへこむくせに!!」
そんなこといわれるとこっちにも意地がある!だから、イギリスの一番弱いところをつついてやると、
「あ、アメリカはそんなこといわねぇよ!」って、ちょっといじめすぎ?強がっちゃってまぁ…。
でも、今日はここで引いてやるもんか!
「とかなんとかいいつつお前、こないだも君に保護者面されたくないぞ!って言われてへこんでなかったっけ?」
さぁ、これでどうだ?
「……お前が目開けたまま夢でも見たんだろうよ、くそ髭!」
って、あ〜あ、真っ赤な顔しちゃって、本当にもう、
「どうして素直になれないかな〜」
「…………お前が悪いんだよ、馬鹿」
ったく、
「もう、何でお兄さんが悪いのさ。」思わず苦笑いが顔に浮かぶ。相変わらずオレたちは進歩がない。そんなことを考えてるとキッチンからオーブンが終了を知らせるチャイムを鳴らした。
「あ、ほら、お菓子が焼けた。おいで?お茶にしよう。紅茶入れてよ、イギリス。」
そういってこのケンカが泥沼試合になる前に話をそらそうと手を差し伸べた。
が、その手はイギリスによって叩き落される。
「餓鬼扱いすんな、保護者面すんな、馬鹿」
ありゃ?やばい結構機嫌悪い?
「え〜?でもお兄さんのお菓子好きでしょう?せっかくイギリスのために焼いたんだもん。イギリスに食べてほしいな〜」
ねぇ、ダメだよ。それ以上は、
「……お前はオレの何のつもりだ、フランス。保護者か?友人か?違うだろ。」
何でそんな強気なの?今までずっと避けてきたのに。なんとなくキスしてなんとなくセックスして、それでもこの関係に名前をつけることだけはしなかった。
したくなかった。
それはオレが臆病だから。今が心地よくてそれに縋っていたいだけの弱虫だから。
だから、
「何?そんなに関係に名前をつけなきゃ気がすまないの?お前は。保護者でもあった。友人でもあった。敵でもあった。お前にとってオレは良いとこ悪いとこすべてをさらけ出せる唯一の人。オレにとってのお前もそう。それで十分だろうが。」
え?本当に?ずっと避けてきたのに、本当にここで決着つけちゃうつもり?
「オレは強欲だ。敵にもなったお前も知ってるだろう?俺は、その先がほしいんだ。」
うわ、言っちゃった。ってか何?何お兄さんにだけ言わせようとしてるの!?
「その先?先って、どんな?」
オレは聞きたい。聞きたいんだ。イギリス。絶対言わせてやる!
「お前がよくほしがってるもの。」
ちょっとこけそうになった。なんだそのそらしかた。それで上手くそらせたと思うなよ!
そっちがその気なら!
「えぇ〜なんだろう?新鮮な食材とか?」
「それくらい自分で買え。……お前がよく語っている愛とやらに付属してついてくるやつ」
わかりやすいとぼけ方をしたら音速でツッコまれた。そして赤みを増した顔で"love"って発音する姿は可愛くて、あぁ少しぐらいは折れてやろうって気になる。
あぁ、オレってちょろすぎ…
「愛。ねぇ?イギリス、顔真っ赤だよ?」
そう言ってクスクス笑ってイギリスの腕をつかんで引き寄せて、耳元に口を近づけた。
そして、とびっきり甘い声で囁いてやる。
「I love you.好きだよ。オレのアングルテール。」
堕ちたな。
案の定イギリスはもう無理なんじゃないのって限界を通り越して真っ赤になった。
「…………その顔ムカつく」
そうやって拗ねた顔は小さかったころと少しも変わってなんかいない。
「…その顔も、可愛いよ」
そう言って幼いころしてあげたように頬にキスをおとす。でもこれは第1段階だ。
だって、お兄さんは、どうしても
「でも、お兄さんも言ってほしいなー。イギリスに、「好き」って。」
言って欲しい。安心したいんだ。本当にオレはイギリスに愛されてるって言葉で欲しい。
「…………お前が今すぐその口を閉じて女みたいにベッドで俺を誘ったら言ってやってもいい。」
って、何それ、言いたくありませんってこと?
「もう、そんなこといったってベッドに入っちゃったら絶対ごまかされちゃうじゃん!」
オレは言葉がほしいんだってば!
「どうせ、お前は俺の気持ちわかってんだろ。なら言わなくても問題ないよな?」
問題あるよー!!確かにイギリスが好いてくれてるって知ってるよ!でも、こう、さ?言葉で聞きたい、安心したいってそういうのあるでしょう?イギリスは俺の気持ちぜんぜんわかってないよ!
「あのね〜イギリス。オレはエスパーじゃないの。ちゃんと言葉にして、口に出して言ってくれなきゃわかんないことだっていっぱいあるんだからね!」
「口は口付けに使うべきだろ?お前もこの前そういってたじゃねぇか。ま、まぁ、そこまで言って欲しいっていうんなら言ってやんなくもないけどな!」
いま、何て言った?
「言って、言って欲しい!すっごくすっごく言って欲しい!!ねぇイギリス、お願い、言って?」
途端に必死になったオレにイギリスが驚いてる。けど、そんなことかまうもんか!お願い!イギリス!
「……いえるかばかー」
ちょっ!
「ひっひど!そこまで期待させといて!おっお兄さんの心をもてあそぶなぁ!いぎすのばかぁ!!」
うわぁ今のは本気で泣ける。
「もて……!?ば、馬鹿っていった奴が馬鹿なんだからな!」
なんでこんないつもどおりの展開になるの!?今日は、今日こそは前に進めると思ったのに!
そうやって顔を覆って下を向いてるとイギリスがあたふたしてるような気配がして、
「……じゅ、」
じゅ?
「ね、ねぇイギリス、続きは?ね?」
顔を上げてイギリスの腕をつかむ。じゅからはじまる それはフランスの愛の言葉。
「じゅ、」
「じゅ?」
「じゅ、じゅげむじゅげむごごうのすりきれ」
「へ?って、うわぁ!」
イギリスが変な呪文を唱えたと思った途端イギリスの腕をつかんでいた手を逆に引かれて感じる浮遊感。
「みたいな名前になっても…………、愛してる……」
え?
「まっ、……ね、もいっかい!もう一回聞きたい!ひどいよイギリス!せっかく言ってくれたのに押し倒すからちゃんと聞こえなかった!だからもう一回!!ね?イギリス〜!!」
せ、せっかく言ってくれたのに!まさかこれがたった一度のチャンスだった!?オレ、その一度のチャンスを逃しちゃったの!!??
「……今度カラオケで歌ってやるよ、例のうた」
「えぇ?やだ、今がいい!!ってかイギリス 音痴 じゃん!」
そしたらイギリスは不満げな目でオレを見た。オレだって知ってるよ。イギリスは本当はめちゃくちゃ歌が上手いことぐらい。ただ、オレとかあと日本とかの前だと緊張して音が外れることが多くなる。
「……あいして」
やった、二度目のチャンス!?
「…………あいし、て?」
「る………、かもな」
「…はぁ。もう、かもな、じゃなくて、愛してる、でしょ?でもいいや、それでもイギリスに言ってもらえて、オレ、今幸せだから。
すっごく、しあわせだから。」
だから、
「だから今度はベッドの中で幸せにしてほしいな、なんて…」
今この幸せをもっともっと味わいたい!!
「…………はずかしーやつ。菓子は?」
そういや焼いたっけ?すっかり忘れてた。でも、
「いい。あと。それよりも、ね?ダメ、じゃないでしょ?」
「ダメだって言ったら、襲い掛かってくんのか?」
何言って…
「もう、そんなことしません!ダメなら、…………お茶にするもん。」
何期待してんだか。まぁ襲ってもいいけど。今日は襲って欲しい気分なんだ。
そう言ったらなんかちょっとがっかりしてない?でも、諦めてくれたのか口の端をあげた。
「じゃあ、ベッドいく」
エロイかお…
それに見とれたまま「ん」って頷いて両腕を伸ばす。
「ねぇ、連れてって?」
ちょっと甘えすぎ、かな?でもイギリスは「……しょうがねーやつ」ってそう言いながらもかがんで膝裏に腕を当ててくれて俺は身体を持ち上げやすいようにイギリスの首に腕を回して顔を耳元に近づけた。
「ねぇ、イギリス。だぁいすき。」
今感じてる想い。すべてをこめて囁き、ぎゅうっと腕に力をこめた。
それに気をよくしてくれたのか
「俺もだって、今日だけ言ってやる」ってまさかの3度目の正直だよ!!
「いって」
イギリスの顔が見やすいように首をかしげて顔を覗き込む。
「あいしてる、フランス。」
「…いぎ、り、す…っ」
やばい。何この破壊力!!なんか、からだあつい。顔真っ赤になってるはずだ。今の愛してるはさっきの以上に心がこもってた。この先も永遠にずっと愛してるって言われた気分だった。
「お前も言えよ」
もう一回ってこと?でも、
「えっと、その、ま、まって、顔あつい。ごめ、なんかっ、テレるっ。」
ほんとなんて破壊力なんだ!!そう伝えた途端今更伝染したのか思い出したのかイギリスの顔も真っ赤になって、
「て、てて、照れんな馬鹿!俺も照れるだろ!」
そんなこといったって!
「だって、こんな風に正面きって照れもなくちゃんと聞いたのって初めてだし、だからその、なんていうか、その、とにかく テレる!!ごめんもう勘弁して!!」
もう半分泣きかけの状態で叫んだらイギリスは今日は許してくれたのか
「……今日だけ勘弁してやる。つぎはねぇからな」って。
つ、次があるんだ!!?? うれしい
「ん。つ、次、つぎ、ね。」
なんだかだんだんお互いがきまづくなりはじめたと思ったら、それはイギリスも同じだったようで。
「……とりあえず、そろそろ黙っとけ」
そういってそのままソファの上で口をふさがれた。
「んっ 、ふ ぅ、ふぁ!っぁ っやっぁあ!」
いきなりはじまった深い口付けに身体に熱がこもる。さっきの告白ですでに身体には熱がこもっていた。やばい、もたない!
どうしよう!!フランスがそう思ったとき、濡れた音とはまったく違う電子音が流れてきた。
「……ん?ちょっと待ってろ、なんか携帯鳴ってる」
「ふっうぇ?うっぅん。でんわ、でて?」
いつもはこんなとき電話がかかってきても無視するくせにとかは断じて思ってない。
「あ?アメリカか。は? 今、フランスん家だよ」
イギリスの電話にそっと聞き耳を澄ませる。むっ。電話の相手はアメリカらしい。予想内といえばコレ以上ないってくらい予想内の相手だ。
まぁいきなりの深いキスでびっくりしたし、キスだけでイキそうになってたから助かったって言えば助かったけど、…なんか、やだ。邪魔、しないでほしーなー。
だから、
「ね、まだ?」
そう受話器の向こうには聞こえないようにイギリスにだけ囁いてやる。
『ちょうどよかった!今、カナダと一緒にフランスの家に遊びにきたんだぞ!』
…
……。
「…………家の前にアメリカとカナダがきてる…」
「…………う、うちー!!??」
ガチャガチャって玄関から音がしだして、
「って、勝手に開けるなー!!」
受話器からはいまだアメリカと引っ張られてきただろうカナダの声が聞こえる。
『ちょ、ちょっと!アメリカ勝手に入っちゃ』
『ヒーローは何しても怒られないんだぞ〜!』
んなわけあるかぁ!
「ちょ、やばい、イギリス離して!あっ!!」
いまだ侵入をやめないアメリカに焦ってイギリスと離れようとするがフランスの手がイギリスの肩に届こうという瞬間バン!と大きな音を立てて扉が開いた。
扉の向こうには仁王立ちのアメリカとそれに頭を抱えているカナダの姿がある。
一方、俺たちはというと二人、ソファの上で抱き合ったまま…
「…………い、いらっしゃい、ふたりとも。
あぁ、何してたかなんて頼むから聞かないで!!
「ごっ、ごめんなさいっ! 邪魔してごめんなさい! アメリカ、行くよ!!!」
そこは口に出さずとも何してたかを敏感に察したカナダが空気を呼んでアメリカを引っ張り出そうと腕を引っ張っている。
「なんでだい?ただのプロレスごっこだろ。それよりおなか減ったんだぞ。」
あぁぁぁ!!何でアメリカはこう空気が読めないんだ!!親の顔が見てみた、あ、目の前にいるんだった。
とりあえずこの凍った空気をなんとかしなければ、
「と、とりあえずなんかのみも、のっ… やっ!!」
そう言ってイギリスの肩を押して身体を離し、立ち上がろうと力をこめた瞬間。へなへなと地面に崩れ落ちてしまった。
それに驚いたのかイギリスが目線でどうした?と聞いてきた。
どうしたも、こうしたも、これ、は…
「……い、イギリス、こし、抜けちゃった。」
イギリスの袖をつかみ軽くしゃがませそれでも離れた距離を埋めるためにめいっぱい上を向いてイギリスにだけ伝わるようにささやいた。
こんなの子供たちには聞かせられない!!恥ずかしすぎる!だからお願い何とかして!そんな思いをこめて言った。
そしてそれは上手くイギリスにも伝わったようで、
「……アメリカ、キッチンに菓子あるし、冷蔵庫にアイスあるからそれもって二階でカナダと仲良く遊んでろ。わかったな?」
お願い頼むから早くどっかいって!
「君たちはどうするんだい?」
「お、お兄さんたちもあとでいくから、な?」
中途半端に焦らされてる身体はすでに冷や汗をかいている。
いつものアメリカならアイスとそれにフランスお兄さん特製のお菓子をつければ大抵言うことを聞かせることができる。
いつも、なら、
「アメリカ、早く行こう・ここにいると二人の迷惑になるし。」
カナダのダメ押しでやっとアメリカが動き出しこれで一安心と、思いきや、アメリカはなぜかキッチンとは反対方向、つまりオレをはさんでイギリスと反対方向に回ったと思いきや、
いきなり無造作に背後からお兄さんに抱きついてきた。
「っひゃぁああああ!あっあめりか、何して、どこさわってんの!!」
アメリカの腕はちょうど腰に這わされていてフランスは悲鳴を上げた。
「……お願いだから空気呼んでよ、アメリカぁああ! イギリスさんが怖いよぉおお、顔が般若!」
「アメリカ、怒るぞ」
この場で最も空気の読めるカナダはあわてて引き剥がそうとアメリカを引っ張るがさすがは世界の超大国。そんなことではびくともしない。
イギリスはイギリスでオレがおもわずしがみついてしまってあまり身動きが取れなくなっている。
まぁその分、声に凄みが、ってか声だけ聞いたら大英帝国様の復活…
「ちょ、おねが、腰からっ、手、はなして!! ってかなんでさわってんの!!」
「触りたいから触ってるんだぞ。フランスはさわり心地がいいし。」
あぁ、神様。お兄さんはずうっと昔からスペインやイタリアという世界に名だたる空気読めない連中と付き合ってきました、が、今日、この日のアメリカほど憎く思ったことはありませんでした。
「意味わかんないから!!っいぎりすぅ!た、すけ、て!!」
自分では力が入らずどうしようもなく思わず目の前にいたイギリスに縋って助けを求めた。
それの何がいけなかったの?
「なぁ、カナダ。3Pと4Pどっちが好きだ?」
ふぇ? な、何言ってんの!?
「僕はノーマルが好きです…。でも、あえて言うなら4Pです。」
「ちょっカナちゃんんまでなに言って!?」
「ていうか、そういうのって乱交って言うんじゃないのかい?」
「らっ!?」
「たまにはそういうのも悪くないよな」
たまにはって
「よ、よくないよくないよくない、よくない!全然よくない!い、っやだっ!離して!」
み、みんなお兄さんの敵?敵なの?ちょ、お兄さん泣いちゃいそう。
「フランスさんもこういってるし、アメリカもそろそろ諦めようよ」
「ヒーローの辞書に諦めるって言葉はないんだぞ!」
「その辞書不良品だな。返却して来い。」
頭上で交わされる言葉を聴いてるとさっきの乱交発言が冗談だったとはわかった。イギリス様が言い出すと時々しゃれにならない。
ただ、現在の状況が少しも変わったわけではなく、身体の奥にたまり続ける熱はアメリカが無作為に這わせる手で高められ続けている。
「か、カナちゃん!!助けてくれるのはカナちゃんだけだ!!って、アメリカ、いい加減にしろ!!イギリスも、悪乗りしないで早く助けてってば! もし助けてくれなかったら一生イギリスに言ってあげないからね!」
「…コントはこの辺にして、とりあえずお前ら帰れ。」
さっきのセリフが功をせいしたのか、イギリスが本格的にアメリカを追い出しにかかってくれた。
さっきもう一度「愛してる」って言い渋ったオレ、グッジョブ!
「はい。ほら、いこっ、アメリカ」
「えー、嫌だよ。」
イギリスの言葉にカナダは素直に従おうとしたが、アメリカはいったい何がしたいのかまだフランスから離れようとしない。
「んっ、 なで、なっ!」
あまりにしつこいアメリカにその場の空気が硬質化し始めた。
ねぇアメリカ。この空気、読めませんか?
「もーアメリカ。僕だってそろそろ怒るよ。」
「俺はもう怒ってる」
その証拠に始終笑顔だったカナダの顔が引きつり始めたし、イギリスの声は大英帝国通り越して海賊時代だ。
でも、切羽詰ってきたフランスにはそんなことももう関係なくて、
「いぎりすぅ。も、やだ〜」
「本気で怒った!……もう、まったくアメリカはいつもこうなんだから!」
「どけ、アメリカ。フランスから今すぐ離れろ。じゃなきゃ子供にすんぞ。」
いっそう強く引っ張り始めたカナダや星型のステッキまで取り出したイギリスだったが、アメリカはそれに対抗するようにしがみつく強さに力をこめた。
「や〜なこった☆」
「ひゃっ、お願い、おねが、だからはなし、て、もう、 む、り、んっあ、あぁっ!」
その瞬間、確実に2度は空気が下がった。
イっちゃった?イっちゃったの?オレ、アメリカにイかされた?
「俺のテクがイギリスよりよかったってこ、」
そこにアメリカの思いっきりKYな発言が入った瞬間カナダの脳天チョップがアメリカの頭に炸裂した。そのまま襟首をつかんだ引っ張るとさっきまでの攻防が嘘のようにアメリカはフランスから剥がれた。
その開放感と、イってしまった羞恥、が涙腺を一気に緩ませた。
「ひっく、う、ふっ、だから、離せって言ったのに、」
そう言って泣く俺の頭を抱えてイギリスは頭を撫でてくれた。
「……じゃあ、カナダ。アメリカを頼んだぞ。」
「はい。責任を持って処理します。」
撫でてくれる感触や暖かさが自分がイギリスの腕の中に戻れたことをしって身体が弛緩する。イギリスの体温に安心した。なんて本人には絶対言ってやらないけど。
それにしてもカナちゃん、いい笑顔、ちょっと怖い。処理って…
突っ込みたいことは山ほどあったけど今はただイギリスの腕の中で安心したくて
「いぎ、いぎりす〜」って、ぎゅぅうううううううううっとイギリスに縋りつく腕に力をこめる。
「処理ってなんだい!?」
そう喚きたてるアメリカの声で掻き消えるぐらい小さな声で、でも、オレにはしっかり届く声で、
「…こいつら帰ったらいくらでも、啼かせてやる。」
と、イギリスにささやかれた。
ちょ、それ反則でしょ!?
その言葉に身体は正直に反応して…
今、イったばかりなのに!!とりあえず絶対赤くなっている顔を隠すようにフランスは無言でぎゅぅぅうううううっとイギリスにしがみつく腕に更に力をこめた。
「とりあえず、半年はアイス食べられないから。マックも一週間はお預け。それじゃあ、本当にお邪魔しました!ごゆっくりどうぞ〜」
そうしている間にもアメリカの処分は決まったようで…
「か、カナちゃんって、怖い?」
なんかかつての誰かさんを見ているような気分でカナダを見た。
それに気づいたのか、イギリスが胸をはる。
「俺の教育の賜物だ。」
フランスの心は一瞬で凍りついた。カナダといえば小さいころはフランス自らが世話をしていて、イギリスに奪われた後もちょくちょく顔を出しては面倒見てやった、言わばイギリスにとってのアメリカのような存在である。
特に、少し存在感は薄いがフランスにとってはカナダは癒しの象徴のようなもので…
それを、教育?確かにカナダはイギリス連邦の一国だったけど、
そっか、教育、イギリスが、カナダを、きょーいく
いや、いやいやいや!
「そ、そんな教育いらなっ! お、俺の元にいた可愛いあの子を返して〜!!」
「その教育のおかげで今二人っきりだろう?」
「っ!!、い、イギリス!』
ふわりと身体が持ち上がる感覚に慌ててイギリスの首に手を回した。
「わっ!び、びっくりした…イギリス?どこ、に?」
「決まってるだろ?続きしたくないのか?」
そう言って耳元で囁かれたらその声だけでもうだめで、
「イギリスのばか。」
そういいつつももう一度今度は確かな思いをこめてイギリスにしがみついた。
パタン
そうして寝室のドアを閉めたら
あとはもう二人の世界。
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